020:合わせ鏡

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 幾百年も渡り、続いて来た、道。
 きっとここで途切れるだろう。
 ああ、うん。ちっとも構わない。

 

 

「ネス、いるー?あのね、一昨日の…」

 がちゃり、ドアを開けてから、
 気が付いたけれど、時既に遅し。

「………。」
「…君は本当に学習能力がないな」

 はあ、と。
 小さく溜息。脱ぎかけのシャツをもう一度肩にかけ直しながら、ドアから顔を出し笑顔のまま凝固している少女を見やる。………あ。数秒の沈黙の後、ようやく彼女はそれだけを呟いた。

「前にも言ったろう。人の部屋に入る時にはノック。常識だぞ、粗忽者め」
「…ごっ…ごめんなさい〜っ!」

 ようやく我に返った彼女は途端に顔を真っ赤にして、大慌てで力の限りドアを閉めた。バターン!と派手な音が廊下に響く。驚いた誰かが叫ぶのが聞こえた…あの声は多分ケイナだ…、ちょっとトリス、壊れちゃうわよーどうしたの?う、ううん、何でもない!違うの!…支離滅裂な会話。
 ネスティはハア、と溜息をつきながら、
 カチャン。ドアを開けて、

「…トリス、良いぞ。入って来い」
「えっあ?あ、う、うん、ケイナ、ごめんねっ」

 真っ赤な顔で未だに粟食い中の少女を、部屋の中へ避難させた。
 ふはー、と詰めていた息を吐き出しながら、

「…びっくりした〜」
「…それはこっちの台詞だ。…まさか、他の皆の部屋に行く時にも、こんな風にいきなり乱入している訳じゃないだろうな」
「ちっ違うわよ!ネスだけよ!…なんとなくネスだと油断しちゃって」
「………。」

 どういう意味だそれは。
 やれやれ。せっかく準備した寝巻をもう一度ざっと畳んでベッドの上に戻しながら、机の椅子を指差す。

「とりあえず、座れ。どうしたんだ?もう寝る時間だろう」
「…子供扱いしないでよ、まだ11時前じゃない」
「いつもならとっくに夢の中じゃないか…ああ、分かった、むくれるな。…で?」

 これもいつもどおりのお決まりな風景。むう、と子供じみた仕草で頬を膨らませた彼女に、ネスティはすい、と眼鏡を直しながら問うた。卓上のランプの光が、そんな二人をおぼろげに照らし出している。

「…一昨日受けた任務の調査に必要な書類、貸してもらおうと思って」
「…ええ?」
「何よその反応」
「いや。…君がこんな遅くにそんなことを言い出すだなんて…」
「………。」
「トリス?」
「あーもーそうよそれは口実っ!そっちがおまけで本当はねっ」
「うん?」

 なんだか可笑しくなって来た。
 くく、と喉の奥、あふれそうになる笑みを押し込めて、顔を赤くしながら言い募る少女を見やる。
 キリリ、と。
 無数のぜんまいが、苦しげに、けれどなめらかに動きを早める。

「…雲ひとつなくってホントに満天の星空だから、見てみなよって、言いに来たのっ!」

 心臓もからめ取られ、
 すべて、渦巻くのだ。

「…そうか」
「そう。ダメ?もう眠い?」
「いや、…平気だよ」

 多分もう、笑みを隠し切れてはいないだろう。
 彼女も満面に、嬉しげな、幸福な笑顔を浮かべているから。

「じゃあ、行こっ!」

 ぎゅうと手をつながれる、
 そのあたたかみを腕から全身に刻みながら、
 けれどやはり何よりもの友愛で合わせ鏡の連鎖を断ち切り、
 僕は君と今日もこうして、歩いて行く。

 

 

 

 

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