021:はさみ
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チョキン。
室内に、小気味良い音が響いた。「おや、上手く出来たじゃないか、ニーナ」
頭の両脇にヒョコリと飛び出た獣の耳をピクリと揺らしながらリンが言うと、少女ははにかんだような笑みを浮かべ、それを手にとりすっくと立ち上がった。窓の外は、雪だ。半年前までは肌が透けるほどの薄布をまとっていた彼女も、今は暖かそうなセーターを着込み、分厚い靴下をはいている。
その上に更にコートを羽織り、ドアに手をかける彼女にリンはただ薄く笑って、『外は冷えるから程ほどにね』そう、一言だけ声をかけた。
ガーン、ガーン、カカカカカ、ドン、ドン、オーライ、オーライ。よーしそこで降ろせー。
そこここに響くそんな喧騒の中を、少女は足取りも軽快に走り抜ける。
絶えず町は工事音が響いている。言わずもがな、日々、増加の一途をたどる行く地下からの脱出者を迎え入れる住居や施設づくりのためだ。と言っても、以前、少女を殺しかけた毒を吐く鉄の建造物はどこにも見当たらない。
木材と鉄と石と。人々は昔話と物語の中にしか存在しないと思っていた広大な空の下、以前のような生活を捨てた。もちろんすっかり全部とは言わないが、そもそもが、地下の生活での必需品は地上では必要のないものばかりだったので大して苦にはならなかった。空気清浄機、濾過機、無数の配管や鉄くずが姿を消し、代わりに多少出の悪い水道、暖かなかまど、井戸、畑が作られた。
生活は、苦しい。
問題も見渡す限りに山積みだ。
未だ、貧富の差や蔑みは根強く残っている。
けれどそれでも、人々の額には汗が流れ、笑顔は晴れやかだ。少女の背からこぼれる光はやわらかい緑色、白い息を吐く唇は淡い赤、風に揺れる髪からは花の香りが匂い立つ。
遠く、
精悍な顔をした少年の姿が目に入った。「リューウ!」
喜色満面に叫んだ瞬間、
…彼女は氷に足を取られた。「ニ、ニーナ!?」
自分の名前を叫んだ直後、地面に激突した少女にリュウは、それまでの面持ちもどこへやら。驚きに瞳を見開き、大慌てで彼女の元へ駆けつける。痛そうに、けれども恥ずかしさの方が勝った様子で顔を上げると、あからさまにおろおろとどこかぶつけてはいないかと全身をくまなくチェックする少年と目が合った。
どうやら膝に青あざがひとつ出来た程度だと分かると、彼は溜息をついて、「気をつけないとダメじゃないか。雪道には慣れてないんだから」
「うー、あ」
「うん。…で、なに、何かあったの?」腕を引き、立ち上がらせてくれながら問われ、途端、ぱあっとほころぶように。
「うう!」
「…?……ああ、出来あがったんだね」差し出されたものは、
多少編み目の粗い。けれどあたたかそうな、青いマフラー。「リュウ、たむ、さむい、……あー」
「うん、ありがとう、巻いていいかい?」
「あー!あ」こっくりと頷く彼女の頭をひと撫でしてから、するり、首に回す。風で飛ばないように後ろで縛って、向き直り、ふっと笑む。
「似合う?」
少女は鈴が転がるように笑い、そして頷く。
「リュウー!なんだよ、また彼女から差し入れかー?」
いつの間にやら、それぞれの肩に角材だの鉄骨だのかつぎ上げた…ちなみに職業・元レンジャーの少年たちが、次々と建物の間を行き来しながらけらけらとはやし立てていた。リュウはふと顔を上げ、きょとんとしているニーナをちらり、一瞥すると、
「ああ、いいだろ?」
にっこりと笑い、悪びれず答えた。
つられて微笑んだニーナと、あっけに取られる少年達の頭上を、ちらりちらり、粉雪がのんびり舞い始めた。
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