027:電光掲示板

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 ああ、本当に今日、寒いんだな。
 表示されている数字を見た途端尚のこと寒くなった気がして、僕は腕を寄り合わせた。

 

 

 もう何度目になるだろう。
 こうして、二人で、会うのは。

「小早川、」

 手を振ってここにいると知らせてくれる、けれど元から長身の彼はそんなことをしなくても雑踏の中、充分に目立っていて僕はすぐさまその眼前に駆けつけた。第一声、まずは挨拶。声がひっくり返らないよう、息と心臓の鼓動を押さえて、

「…こんにちは、進さん」

 そう言った。

「ああ」

 そうすると返る、ぶっきらぼうな返事。でも冷たくはない、その視線はいつもよりずっと柔らかだし、口元は笑みの形を結んでいたから。遅れてすみません、言うと、まだ5分前だ、とやはりぶっきらぼうな返事が返った。

「今日は、どこか行きたい所はあるか」
「いえ、特には…進さんは?」
「…では映画を見に行こう。丁度時間も合う」

 くるり、踵を返す。僕も頷いて従った。たぶん、きっと、時間も合う、というのは待ち合わせ時間をあらかじめ計算していてくれたのだということに、僕は気付いている。生真面目な横顔を見上げながら、僕はどこか気恥ずかしくて困ってしまう。
 彼は名門、王城ホワイトナイツのエースで、
 頭だって結構良い、時々勉強も教えてくれたり、
 じっと前を見据える横顔は精悍で凛として、男の僕から見ても文句なしに格好良くて、
 どうして、こんな凄いひとが、僕なんかを選んでくれたんだろう。
 僕ときたら今はヒル魔さんが睨みをきかせてくれてるからパシられたりはしないものの、
 相変わらず校内では地味で、アイシールドだってこと知ってる人はほんの一握りだし、
 まもり姉ちゃんと一緒の高校に行きたくて無理して入った学校だから、テストはいつもギリギリだし、
 背だって小学生みたく低くて、顔は十人並み。
 進さんのとなりに並んでいると、まるで兄弟みたいに見える。

(……どう考えても)

 釣り合ってない、と、思うんだけれど。
 なんだかとても、申し訳ないような気持ちになるんだ。だから告白された時、冗談を言う人じゃないから嘘ではないとは思いはしたけれど、なかなか受け入れられなくて、随分と返事を待ってもらった。『お前が答えを出せるまで待つ』。そう言ってもらって、結局2ヶ月も。
 僕は人を好きになったことも、なってもらったことも今まで一度もなくて、…子供の頃まもり姉ちゃんにぼんやりとそんな感情を抱いたことならあったけど、それもいつの間にか消えてしまったし…どうしたらいいか全然わからなかった。ただ、でも進さんは、最初は怖いと思っていたのにそんな感情すら消してくれるほどひたすら僕に優しくて。そうして僕は頷いた。
 この人をそういうふうに好きかどうかは、未だによくわからないんだけれど。
 それでも、一緒にいたいと、そう思ったから。

「小早川」
「はい」
「チケットだ」
「あ、ハイ…えと、1,800円ですね」
「いらん」
「え?…だ、駄目ですよ、この間お会いした時も奢って貰ってるし…」
「………。」
「…あの、…」
「小早川」
「え?」
「後ろの迷惑になる。とにかく行くぞ」

 言われて慌てて振り返る。いつの間にか僕たちの後ろには5人ほど人が並んでいて、僕たちがどけるのをじっとしかめっ面で待っていた。僕は慌てて避ける、するともう既にその時には進さんは財布をズボンのポケットに仕舞い込んで、絶対に受け取らない体勢を作ってしまっている。
 …あとでジュースとご飯は、絶対に僕が奢らなくちゃ。
 決意を胸に後を追う。今度は先に財布を出されないよう、急いで。なにを飲むか聞かれる前にコーヒーとココアを買った。…進さんは少し眉間にしわを寄せて、「む」と言った。怒らせちゃったかな、困ってじっと見上げると、結局「すまん」と言って、そしてありがとう、とも言って、受け取ってくれた。何故かとても、嬉しい。
 映画はあと14分で上映。最近出来たばかりのこの映画館はとても広く、設備も最新式の立派なものを揃えてある。まるで駅や空港のように、電光掲示板が売店の上で緑の光を浮かべ、僕たちに上映時間と今日上映される映画のタイトルを教えてくれていた。
 とりあえずソファに腰掛け息をついて、そして、ふ、と、思い出す。…ああ、そういえば、

「今日は凄い寒さですね、進さん」
「そうだな」
「待ち合わせの場所に行く途中で、気温表示の掲示板を見たんです。4度、って出てました」
「夜には雪が降るらしい」
「あ、そうなんですか?」
「今朝、天気予報でやっていた」

 天気予報をチェックする進さん。
 …なんだか似合わない図で、僕は少し笑う。その前後でやってる「今日の赤ちゃん」だとかペット特集だとか、ニュースなんかもついでに見たりするんだろうか。想像出来ない。
 上映9分前。

「そろそろ入りましょうか?」
「ああ」

 立ち上がる。飲みかけのココアのカップをこぼさないようそっと抱えて。
 冷えて冷たくなった指先が、じんわりと温まって行く。
 ふう。息をついたと同時、
 ふっと左手を取られ、大きな手のひらに包み込まれた。
 驚いてぱっと顔を上げる、
 進さんはちらとだけこちらを見下ろして、

「…赤くなっている。今度から、手袋をして来い」

 やっぱりぶっきらぼうに、そう言った。

「………、…はい」

 顔が見る見る赤くなって行くのが自分で解る。進さんにばれないよう俯きながらこくり、頷いて、僕は手に汗、滲まないかな、そんなことを心配していた。

 

 

 

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