028:菜の花

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「うぅわ、似っ合わない」
「…うるせえな」

 思い切り顔しかめ、悪意もたっぷり含み吐き捨てられて。
 こっちこそ力の限り不本意だ、とやはり顔をしかめ、バノッサはチッと舌打ちをした。
 そんな彼らが現在身をうずめる場所とは、
 見渡す限りの菜の花畑。ちょうど今が見頃、飛び交うチョウにミツバチ、まるで金色の海。
 そんな中。血の色を思わせるトゲつき甲冑、血色の悪さだけでは説明がつかないほど幽霊のように真っ白な肌と、透けるような銀髪。使い込まれた感のある槍を一本たずさえた男が1人、紛れ込んでいる…確かに、ナツミの言い分も、もっともではあった。

「誰が好き好んでこんなとこ来るかよ。てめえが居やがるからだろ」
「…別に呼んでませんけどー」

 言いながら、相手が武器を持って殺気を放ちまくっていることなどおかまいなしの風体で、彼女は花を摘み続ける。
 鼻をくすぐる良い香りに微笑みを浮かべても、
 視界の端。映るのは、亡霊のような無粋な男。
 はあ、と聞こえよがしに溜息をついた。

「あー、邪魔だなー。あんたみたいなトゲトゲ、こんなキレイな場所に似合わないよ。人がせっかくメルヘンな気分に浸ってたって言うのに、さっさとどっか行きなさいよ」
「お前みたいなじゃじゃ馬はぐれに言われたくねえな」
「何言ってんのよ、こんな可憐な美少女に対して」
「………お前、馬鹿だろ」
「わかってんじゃん」

 だったら構うだけアホらしいでしょ、ハイ行った行った。
 しっしっ、と視線すら合わせず片手で追いやる。
 バノッサの目元が、怒りを含み赤く染まり始めた。

「ふざけんな。今日こそ決着つけてやる、剣を取りやがれ!」
「…あのねえ、バノッサ?」

 にぃっこり。さわやかな笑顔。
 けれど当然ながら、その額には青筋が浮き出ている。

「あたしはね、こんなキレイなとこにシャインセイバー突き刺したくなんかないのよ。分かる?あんたって時も場合も関係なくあたしの顔見るたびケンカ吹っ掛けて来るけど、ちょっとは人の都合も考えなさいよ。ていうか人のこと付け回してストーカーして挙句にそんなもの突きつけるなんてサイテー」
「………。」

 ばたたたた。
 二人の遥か上空。あざやかな色の羽をばたつかせ、小鳥が一羽、風に乗って飛び上がった。

「…知るかよ」

 小さく返しながらこちらを睨めつけるその眼光は、
 文句なしに赤く鋭く、彼の持つ槍のようであった。

「俺はテメエをブチ殺してやりてぇんだ。だってのに、いつまでものらくら逃げやがるテメエが悪い」
「…どういう理屈よ」
「うるせえ!とっとと剣を抜け、でなけりゃ」

 突き付けられる切っ先。

「問答無用だ」
「………。」

 数秒。
 沈黙。
 そうして、

「…嫌よ嫌よも好きの内…」
「は?」

 ぽつり。

「…あんたってもしかして」

 彼女が出した答えとは。

 

 

「あたしに惚れてんの?」

 

 

 

 

 

「…………あああァ?」

 凄みを利かせて言ったつもりなのだろうが、
 残念ながら。間延びさせ過ぎて逆に多少、間抜けであった。

「……やっぱり馬鹿だ、テメエは」
「そうねー」

 くるり、視線を外し、またも彼女は花摘みへ。
 細い腕に次第に増えて行く花の山、
 埋もれる彼女のまなざしをしつこく睨みつけながらも。

 

 バノッサは忌々しげに、ばしりと花を薙ぎ払った。

 

 

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