035:髪の長い女
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「きゃあ!」
「わぷっ」突風だ、と身構えると同時、顔にバサリと黒いものが覆い被さった。むせ返るような甘い匂い、…ティファの髪だ、と理解すると同時、身を引く。ティファ自身も気付き、慌ててそれを押さえつけた。
「ご、ごめんねユフィ!目に入らなかった?」
「あ、平気平気。…ティファの髪っていい匂いするね、……花の匂い?」
「えっ?…シャンプーの香りだと思うけど…」
「へえ…」ユフィはふと、自分の髪の匂いが気になりひと房摘んで、鼻先に持って来てみた。…特になんの匂いもしない。自分の匂いだからだろうか、それとも量が足りないのか…
「大丈夫か、2人とも………、…ユフィ、何してるんだ?」
「へっ?…あ、いや、なんでも」躍起になって匂いを嗅ぎ続ける自分を怪訝そうに見る、青い視線。
ユフィは慌てて髪を放し、ぱっと両手を後ろに隠した。
クラウドは不思議そうに首を傾げ彼女を見つめたけれど、すぐに踵を返し再び先頭を切って歩き出した。
「あー、疲れたー」
「ねえエアリス、ここのお風呂って広くてかなり豪華らしいわよ。行ってみない?」
「ほんと?じゃあ今から行こ!ねっ、ユフィも行かない?」
「ええ、あたしぃ?」
「いいじゃない、たまには皆で一緒に入ったって。ね、そうしよ!」…どうもこの笑顔には弱い。
結局ユフィは女二人に引き摺られるようにして、浴場へと連行された。ユフィは宿の備え付けのタオルと替えの下着以外以外何も持っていないが、エアリスとティファはその他になにやらそれぞれ、ポーチを二つも持って来ている。あの中には一体なにが、思いはしたがなにか嫌な予感がして見て見ぬふりをする。
が、上手く行かなかった。
洗い場にて、これも同じく備え付けのシャンプーを手にとった瞬間、「ユフィっていつも備え付けのシャンプーとリンス使ってるの?」
「…そうだけど」なにかまずいのかと首を傾げれば、
「こういうとこのシャンプーって安いんだから髪キシキシになっちゃうわよ!」
「…へ?」
「あ、じゃあ私の貸してあげる!昼間言ってたやつ、おすすめだから」
「え、え」
「それから髪は先に櫛でとかして汚れとってからの方がいいわよ」
「その後しっかり濡らしてーシャンプーは先に手で少し泡立ててー…」
「ちょ、…い、いいって自分でやるから!」二つのポーチのうち風呂場に持ち込んで来た中から飛び出すもの、
良い匂いのシャンプー、リンスではなくトリートメント、可愛らしい櫛、メイク落とし、洗顔料、その他諸々。
…女って疲れる。
なんだか微妙にショックを受けながら髪を洗う、その最中、なんとはなしに横目で二人を見る。
右隣、エアリス。
透けるような白い肌、見るからにやわらかそうな茶色の髪が今は濡れて背に垂れ、ぺたりと張り付いているさまがなんだか色っぽい。ような気がする。きれいにくびれた腰、そう大きくもないが小ぶりでもなく丁度良い大きさの形良い胸。
左隣、ティファ。
日に焼けた健康的な肌色、つややかな黒髪。あんなに長いのになんで絡まないんだろ、不思議に思うほどにさらさらだ。そして何を食べたらそんなふうに、思わずにはいられないほどの巨乳。しかもちっとも垂れてもいないのだから本当に不思議だ。
そして中央、自分。「………。」
ウェストは細いし足も長い、まあ悪くはないが、…いかんせん胸と尻は。
………………、…貧相?「………。」
「ユフィ、どうしたの?」
「…なんでもない…」三人並んで湯につかる。何故かそれが、それがとても苦痛で、
別にそんなのどうでもいいし。ていうか下手にあったって動き難くてジャマなだけだし、だからあたしは、これで。
…いい筈なんだけど。
「ねえユフィ」
「…なに」
「あの、ねー、…顔いじっちゃってもいい?」
「……は?」のろのろと服を着る、そこへ降って来た言葉。
顔、いじるって。
なにそれ。
きょとんと目を見開く少女に、いかにも『わくわく』と言った表情で詰め寄る女が二人。
その手には何故かエンピツやら絵を描く時に使うような筆やら綺麗な花の模様が入ったケースやら…
眉毛くらいしか手入れしたことのないユフィも、…さすがに感づいた。「やだ」
言って逃げようとする腕をがっきと捕まえて、
「だってユフィ、ちっともいじってないだけあってお肌凄いキレイなんだもの!」
「ね、ちょっとだけ!絶対可愛くなるから!」
「い、いらないってば…コラー!」やはりこの笑顔には弱い、×2。
抵抗もあってないようなものだった。ユフィはあっという間に、顔に妙な白っぽいクリームをべったり塗りつけられ粉をばたばたはたかれていた。
「おっ?…なーに色気づいてんだよお前ェ」
「うっ…うるさいなっ!別にしたくてしてんじゃないんだよあたしだって!!」食事時、めいめい好きに過ごしていた仲間達も食堂に集う時間だ。真っ赤な顔でぶすくれているユフィの顔の変化にいち早く気付いたのは、シドだった。にやにやと下卑た笑みを浮かべながら、わざとじろじろその顔を見る、ユフィの顔が更に赤く染まる。
…ああ、ああもう、だから嫌だって言ったのに!!!
う〜〜っ、意味なく唸って、耐え切れず蹴るように立ち上がる。こんなもん落としてやる、手の甲でぎゅっと綺麗にのせられた口紅とグロスを拭う。製作者二人から、あーっと批難と落胆の声が上がった。
そしてシドを睨む。女二人に恨めしそうに見据えられては、彼に逃げ場はない。
案の定、げっとばかりに腰を引く、どん、と横に座っていたヴィンセントに肩が当たって、迷惑そうに秀麗な顔が歪められた。「い、いや、…別に落とすこたぁねえよ、うん、まあ……おかしかないとは思うぜ」
「説得力なさ過ぎだっつのオッサン」
「や、嘘じゃねえって!…………な、なあ、クラウド!?」
「…は?」更に逃げ道を狭くする要領の悪い男は、逆隣の男に助けを求めた。
我関せず、と言わんばかりに黙ってスープをすすっていた男にだ。
ユフィは、今すぐダッシュで逃げたくなるほど恥ずかしくてたまらなくなった。「お前ェもそう思うだろ?まあ悪かねェよなぁ」
すう、と静かな目が顔を上げる、
クラウドはまじまじとユフィの顔を見て、ぱちぱちと二度まばたきをし、少し息を吸った。
そして、少し困ったように笑んで、…けれど、それでもゆっくりと、「ああ、…似合ってると思うよ」
不器用でその場しのぎの嘘なんて、とても吐ける奴じゃなくて、
だからこそ、「……あた、あたしは、こんなの似合わなくたっていいの!」
言い捨てて料理にかぶりついた。
顔が首まで熱い、
こいつのせいだ、こいつの、…思いながら、
少し、髪でも伸ばしてみようか。
そんなことを、考えていた。
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