037:スカート

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 雪みたい。
 ひらひらと風をまとい空を舞うそれをぼんやりと見つめながら、ソノラはそんなことを思った。
 もしくは羽、もしくは綿毛。…どれも似合わないなあ。ふと、想像してみて、…別にいーんだけど。呟きながらも気落ちした様子で息をつく。
 しかして、彼女は耳ざとくそれを聞きつけた。

『どうしたの、ソノラ?』
「ファリエル」

 ふわり、軽やか、重さなど微塵も感じさせない。
 …肉体を持っていないのだから当然なのだけれど。それを羨むだなんて、なんて馬鹿な。
 けれどそのやわらかさは、自分にはどこにも存在しないもの。

「ううん、なんでもないんだ、ただね」
『ただ?』
「ファリエルは女の子らしくて、いいなって思っただけ」

 んー。そこらの岩場に突っ伏し、伸び。
 鼻先をゆらゆらと、正体不明の緑色をした光のかたまりが流れて行った。

『そんなことないですよ』
「そんなことあるって。例えばあたしがファリエルみたいなカッコしても、絶対似合わないと思うし」

 今朝もドタドタ音をたて階段を駆け下りているところを見つかり、スカーレルにお小言を食らったばかり。
 透き通るようなこんな格好の女の子が、2段飛ばしに階段を下りるなんて、どう考えても絵的におかしいと思う。
 きっと多分、急いでいても小走りに可愛く降りるんだよ。
 それも狙ってる訳じゃなくて自然に、
 ましてや急いでる理由が、お昼ご飯を食いっぱぐれるかもしれないからなんて。…ありえない。絶対。

「だって今日のお昼はエビピラフだったんだもん…」
『はい?』
「あ、あはは、いや、こっちの話」

 笑って誤魔化すなんて、…なんか、先生みたい。
 ファリエルは笑いながらも、力なくクテリと岩にもたれかかるソノラをじっと見つめ、
 やにわに、ふっと。ほころぶような笑みを浮かべた。

『ねえ、ソノラ?』 
「んー?」
『私にしてみたら、あなたの方がよっぽど素敵だと思いますよ?』

 ………。
 ええー、と言わんばかりに、瞳を細めて。
 ファリエルはくすくすと笑いながら、そんな彼女の頭を撫でるような仕草を見せた。
 もちろん霊体の彼女にそうされても、なんの感触も、あたたかみも、ありはしなかったけれど。
 それでも何だか胸の奥がこそばゆいような照れ臭いような、おかしな感覚に満たされソノラは目元を淡く染め、うう、とふて腐れたように唇を突き出した。

『この姿で初めてお話した時、言ったじゃないですか』
「な、なに」
『明るくて、いつも元気いっぱいで、…そんなあなたを見てたら、私も頑張らなきゃって思えたって。だから私、勇気を出して皆に本当のこと、打ち明けられたんだって』
「………。」
『それって凄いことよ。それに、私、女の子らしくなんてないですよ』
「え?」
『まだちゃんと生身の体の頃は、凄くおてんばだったんだから。今は不用意に外に出られないから大人しくしてるけど、…ほんとはソノラみたいに島の外に出て冒険するとか、とても憧れてるの』
「…うん」

 どこか。
 胸をチクリと刺されたような気持ちになっては、彼女を傷つけるだろうか?
 ソノラはふと、何だかとても恥ずかしくなり…その羞恥心がどこから来るものなのか、彼女自身にもはっきり分からなかったけれど…ふあ、と息を吐き、困り果てた顔で親友を見やった。ファリエルは、とても優しい顔で微笑んでいる。…やっぱり可愛い。女の子の微笑みとはこうあるべき、といった笑顔。

「隣の芝生は、ってやつかあ」
『そうですね』
「大丈夫。ご心配なさらずとも、お二人ともとても魅力的な女性だと私は思いますよ」

 顔を見合わせ苦笑したその時、
 突然背後から落とされたその言に。…ソノラは思わず、腰のリボルバーを抜き放ちそうになった。

「フ、フレイズ…さん?」
「ああ、驚かせてしまいましたか、申し訳ありません」

 全くだ。
 互いに口には出さないが、共に眉をひそめているところを見ると両名とも同じ気持ちらしい。

『フレイズ…立ち聞きしてたの?』
「ああ、いえ、立ち聞きなどと。ただ迷子になっていた霊精を村まで送り届けて帰って来たら、どうにも出るタイミングを逃してしまったと言うか…」
「…つまり立ち聞きしてたんじゃん」

 じとり。
 澄んだ4つの瞳に射竦められて、
 すうと細められた瞳、ゆるやかに持ち上がった唇。端正な天使の笑顔に、…かすかなひびが入った。

「あ、あの……ファリエル様…ソノラさん?」

 語尾も小さく、そろそろと言う彼に、
 唇を尖らせていた二人の少女は、…我慢し切れず吹き出した。
 ぽかんと秀麗な顔を呆けさせたフレイズを余所に、二人は涙を浮かべて笑い続けていた。

 

 

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