039:オムライス
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恐らく母親すら知るまい。彼はなにを食べさせても、それほどの感動もなく淡々と食べ続けるから。
けれど本当は苦いものと辛いものはあまり得意ではない、
そして甘いものと口当たりの優しいものが好きなのだと。…初めに気付いたのは、
「ほら、ルカ。お前の分だ」
すいと差し出された発泡スチロールの使い捨て弁当箱を、ルカは一瞬、…恐らく目を少し見開き、ピク、と肩を震わせたので困惑したのだろうと推察する…とにかくそんなふうに見て、ありがとうございます、ともごもご礼を言いながら受け取った。エプロスはただそんな彼に、うっすらと優しげに笑むと残りの弁当を他の仲間たちにも配りに、すうと流れるようにきびすを返す。
とても良い陽気の日だった。風は暖かく太陽はちょうど良く頬を焼く。
そんな中、せっかくだからとめいめいに出た買い出し。
ルカの担当は木の実とお札の補充、そしてエプロスは皆の昼食を買いに出ていたのだった。
一緒に渡された缶は、グレープフルーツジュースだった。そういえば、喉が乾いていた。さっぱりとした酸味と甘味のあるグレープフルーツは、実をそのまま食べるのは少し苦手だったがジュースならとても好きな味だ。ルカは嬉しくなり、皆も適当に腰をおろし昼食をとり出したのを横目に、自分もそこらに座ってプルトップを開けた。プシッ、小気味良い音。「何を一人でニヤニヤしとるか、気持ちの悪い奴め」
「スタン」口をつけて中身を飲み込む。とてもおいしい。
でも、ニヤニヤなんかしてるかな。指先を口元に滑らせる、当然ながらよくわからない。
わからないけど、スタンが言うんだからそうなのかもな。それで納得して、ルカは息が切れるまでいっぺんに飲んで、ぷは、と口を離した。
それをじっと見下ろしている影に、少し笑んで、「君も飲めるといいのにね」
「…フン。極上の酒でも持って来るならまだしも、余が卑小な人間と同じくそのようなものを飲むと思うか?大体だな、そういう飲料水には間抜けなお前は気にもしていないだろうが香料だの保存料だの体に良くな〜いものがたっぷり含まれているのだぞ」
「そうなんだ」
「…あっさり流しおったな、良い度胸だ子分…」ぎゃあぎゃあと騒ぎ出す影を尻目に、ルカは弁当箱に手をかけた。
セロハンテープで軽くとめてあるのを引っぺがし、ひょいと開ける、「…あ」
そして、小さく呟いた。
「…あの、ごちそうさまでした」
「ああ、食べ終わったか」空箱を手渡すように促されそのとおりにすると、どうやっているのかは魔法に関して素人のルカにはわからないが、とにかくエプロスはしゅわっと手の中で、それを気化させた。空き缶も同じように。
ルカは一瞬、考え込んだ。
多分、偶然なんだと思うけど。…でも、確かここのお弁当屋さんって凄くメニューの種類、あったはずだし。でももし僕の勘違いだったら恥ずかしいしなあ、……でも…「ルカ」
「っ、…はい」
「全部食べられたようだな」にこり。柔らかな笑み。
「お前は育ち盛りなのだから、こうして沢山食べなくてはいけないぞ。今度はチキンサンドと野菜サラダを買ってこよう。それでいいか?」…ああ、
ああ、やっぱり、この人。ルカは唐突に顔が熱くなるのを感じた。頬が耳が火照る、こんなことはそうそうなくて、どう対処したらいいのかわからない。
わからなかったのでルカは、とにかく頷いて、「あの、はい、…宜しくお願いします」
馬鹿丁寧にぺこりと頭を下げてしまった。
…頭のてっぺんに汗が噴き出す、…違う違う、そうだ、お礼を言えば良かったんじゃないか。
けれど顔が上げられず(ただでさえ綺麗過ぎるこの人の顔は、ルカを無用に緊張させるのだ)そのまま固まってしまったルカに、エプロスは彼の預り知らぬところ、…ふっと苦笑して。風が吹き抜けるようにさらとだけ、その髪を撫ぜた。「っ、」
ぴくりと震える小さな肩、
「ああ、…解った」
ふわりと飛び去って行く、
それでも真っ赤な顔で固まったままのルカに、魔王様の怒号が飛ぶのは、それから15秒後のこと。
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