040:小指の爪
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「いぃいってええーー!!」
突然そんな叫びが居間から聞こえたので、サスケは焼き途中の卵のことなど一瞬で頭から追い出し、慌てて台所を飛び出した。両親が残した屋敷は、かなり年季が入っているものの広さだけは申し分ない。が、こういう時にはその広さが恨めしくさえ感じられる。
「どうした、ナルト!」
「うぅううぅ〜〜…」ズパーン!…と、本来障子が立てるべきものではない音を立て障子を叩き開き、わずか15秒で居間に到達したサスケは。
そんな猛ダッシュでやって来てしまった自分を、
…分かってただろこいつがいちいち大袈裟なヤツだってことは。
脱力しながら、罵った。「…何やってんだお前は」
「見りゃわかんだろ!小指ぶっつけたんだってばよ!」うぐーだのいぎーだの意味を為さないうめきを漏らしながら、畳を転がるナルトに更に脱力。
「…それっくらいであんなでかい声出してんじゃねえよ」
何事かと思ったじゃねえか、…その一言は心の中で付け加えて。
「だってホントに痛かったんだもんよ…おー、イテ」
「足元の確認もしないでバカみたく大手振って歩くからだ、ウスラトンカチ」
「ウルセーウルセー!お前だってたまにはタンスの角に小指くらいぶつけんだろ!?」
「俺はそんな間抜けはしない」なんだとこのー、痛みに顔を歪めながらも、ぎゃんぎゃんと怒り心頭な…というより、半分はそれをまぎらわすための八つ当たりなのだろうが…ナルトの足元に、すっとサスケは跪き、その足を口調とは裏腹に優しく取り上げた。へ、とぽかんとするナルトをちらと一瞥して、
「…バカ。爪まで割れちまってんじゃねえか」
「う、マジで?」
「先の三日月だけな。爪切り、寄越せ」
「ふえ?」
「切ってやる。そこにあるだろ」言われ、きょろきょろと辺りを伺うナルトに息をついて、結局自分で取る。
「動くなよ」
そして、パチリと刃を鳴らした。
器用に指先で刃をすべらせるさまを、ナルトは相変わらず呆然と見ている。なんだか少し胸の奥が面映くなり、サスケはうっかり肉を挟んだりなどせぬよう、全神経をその小さな指先に注いだ。初めて出会った頃より時も過ぎ、互いに背も伸びたが、ある程度大人の体格に近くなり始めたサスケに比べ相変わらずナルトは平均的な男子のそれよりもかなり小さく、こんなところの作りからして全然違うもんだなと、サスケはよくわからない感心を覚えてしまった。
最後にちょいちょいと、指の腹で撫でてやり出来を確かめ、完成。
けれどよく見れば。「…お、終わりじゃねえの?」
「ついでだ」他の指も両足、伸ばしっぱなし。これでは少しぶつけたくらいでも割れてしまっておかしくない。
「手も伸びてんじゃねえか、貸せ」
「い、いいってばよ自分でやるからっ!」
「自分でやんねえからこんなに伸びてんだろうが」ほれ、と手を振れば、少し恨めしげな顔で、何故か。
目元を赤く染めて、ぽたりと手を落として来る。「…何赤くなってんだ」
パチリ、
「あっ赤くなんかなってないってばよ!」
「暴れるなバカ、手元が狂う」パチリ、
「………なんか、」
「うん?」
「なんか、人に爪切ってもらうのって、気持ちーんだなって、…思ってただけだってばよ」パチリ。
「……そうか」
逃げぬよう指先を捉まえて、そっと、そっと爪を切る。
別にこんなことくらい。
これから俺が、いくらだってやってやるよ。
「…出来たぞ」
「おわー…」ざらら、と切った爪をくずかごに流し入れるそのさまを、少し楽しげに見やる。
何だか、…疲れた、…緊張した?「……、…アホか」
「んあ?なんだってば」
「何でもねえよ」
「ふーん?」
「………。」
「…サスケ」
「…何だよ」
「なんか、…コゲ臭くないってば?」
「…………あ。」
その日の朝食は、ご飯とタラコだけだけとなり、
サスケは滅茶苦茶にコゲついたフライパンと格闘しながら、ここぞとばかりにからかうナルトの口を封じるのに、不意打ちでキスを落とした。
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