049:龍の牙

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 となりに座る子を、じっと見る。なぜとなりに座っているのだろうと見る。
 ああそうか、連れて来て座らせたからだと気付く。違う、頭では解っているのだ。
 ただ、何故。
 …理由は自分でもさっぱりわからないのだけれど。

 

 

「ユーバー」
「…なんだ」
「ササライさんに聞いたんだけどさ」
「誰だそいつは」
「ハルモニア神聖国の神官将さんだよ。最近、仲間になってくれたんだ」
「そいつがどうした」
「ユーバーって昔、真っ黒い鎧姿だったんだって?」
「…そんなこともあったな」
「どうしてやめたの?」
「……都合が悪くなったからだ」
「都合?」
「目立つからな」
「…ふうん」

 

 

「ユーバー」
「なんだ」
「どうして髪を伸ばしてるの?」
「別に意味はない。放っておいたら伸びたんだ」
「不精だなあ」
「………。」
「戦う時、邪魔じゃないの?」
「まあな」
「おれ、切ってやろうか」
「出来るのか」
「村では子供らの髪とか、よく切ってたよ」
「…では今度な」
「うん」

 

 

「ユーバー」
「なんだ」
「なんでおれを連れて来るんだ?」

 

 しゃりん。
 最後の一口。腹が減ったと騒ぐので、与えた赤い林檎の実。
 べろりと行儀悪く手に残った汁を舐め取りながら、淡々と言う。

「こないだも、こないだも思ってたんだ」
「………。」
「最初はおれを殺す気なのかと思ったけど。…違うんだろ?」
「………。」
「どうして?」

 緑の瞳は強くきらめき、深い海の底のよう。
 ユーバーは金糸の髪の隙間から、それを見る。
 ああ、
 また、…妙な感覚が沸き出でる。

「知らん」
「…知らないってことないだろ。おれ、こう見えても忙しいんだぞ。毎回勝手に連れて来られるたび、大目玉食らうんだから。なんでなんだよ」
「知らんものは、知らん」
「……あんたさ…」
「………。」
「……ふ」

 息をつく。子供のいたずらに困り果てた、大人のような顔で。
 可愛くない。面白くない。…だというのに。

「う、わっ」

 ひょい、と首根っこをつかまえ立ち上がった。
 苦しいと言って暴れるので抱える場所を腰に変え、抱えて、「飛ぶ」。

「…帰るの?」

 ぎゅるり、空間が捩れる、それを見て顔を上げる、子供。
 じっと見返すと、なにごとかもごもごと考え込み、

「……あのさあ」
「……なんだ」

 コリコリ、と鼻の頭を掻いた。

「…今度は昼間じゃなくて、夜に来いよ。そしたらちょっとは時間、ある。その時までに」
「……、」
「答え、…出して来いよな?」

 

 牙が削がれて行くのが解るのだ。

 

 ユーバーは黙って鼻を鳴らした。地面が歪む、体が沈む。腕にかかるささやかな重み、これへの答え。それはきっともう、出ているのだ。けれど伝えずにおこう、伝えればきっと、俺の牙は折れてしまうから。

 

 

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