062オレンジ色の猫

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 赤髪の少年は手に猫じゃらしを持ち、
 もう片一方、橙色の髪の少年はゴムボールを握り込み。
 二人の少年がじっとりと睨み合い、膠着するその最中、
 人の良さげな顔をした茶髪の少年が、今は少し困った顔をして、仔猫を胸に抱いていた。
 仔猫はそんな修羅場などどこ吹く風、知らんぷりを決め込んでただ、茶髪の少年がオレンジの毛並みを撫ぜてくれるのにうっとりとのどを鳴らしている。
 さらにはくわあと大きくあくび、やがて寝息をたて始めた仔猫を見下ろしながら、
 茶髪の少年。…ジョーは、アポロンとジェット、両名共に実年齢を考えれば見かけはともかく結構な大人であるはずの二人をちらり、ちらりと見やり。そして、ふかく、息をついた。

 

「…いい加減にしろ、鼻男」
「…こっちの台詞だ、生足」
「いい歳をしてこんな事に血眼になって恥ずかしいとは思わんのか、形状記憶トリ頭」
「鈴つき猫じゃらしを自分で作った男に言われたかねえよ、半裸」
「…変態ヤンキー」
「…シスコン」
「何だと貴様やろうと言うのか!?」
「やってやろうじゃねえかテメー表に出やがれ!!」
「ちっちょっとちょっと二人共!やめてってば本当にー!」

 だだん、と足音も荒く立ち上がり睨み合う二人に、慌ててジョーが割って入る。
 ちなみにそんな彼らのやりとりに真剣に反応するのは前述の通り、人の良い…良過ぎる兆候のある…ジョーくらいのもので、他、例えばハインリヒは見て見ぬふりと言うよりも全く聞いていない様子で静かに新聞を読んでいるし、グレートはテレビドラマを真剣に見つめているし、イワンはやすらかにお昼寝中だ。キッチンの奥からは楽しげな声。…アルテミスとフランソワーズが、お菓子作りに挑戦しているのである。
 日差しはぽかぽかと暖かく、空は雲ひとつない快晴。
 打ち寄せる潮騒が心をゆるやかにさらって行く。
 …だというのに、全くこの二人は。
 ジョーは深々とため息をつきながら、
 これだけの騒ぎの中でも今だ目覚めることなく。呑気に眠る仔猫を見つめる。

 

 

 

 

 

 

 事の起こりは数日前の晩、この仔猫が迷い込んで来たことに始まる。
 首輪も何もつけておらず、元が飼い猫だったのかどうかはわからないがやけに人懐こい雌猫が、ドアの前でフナアフナアと頼りなげに鳴いているのを見つけ、泥だらけだった体をきれいに洗ってやると、元よりよく整っていた愛らしい顔だちがあらわになり、00ナンバーズは満場一致で彼女を新しい家族へ迎え入れることにした。
 まだ名前も決まっておらず、めいめい好きな名前で呼ぶのに律儀にもころころと転がるように駆け寄ってくるその姿は問答無用で可愛らしい。
 そうして、今朝から遊びに…もとい。弟が言うには決闘にやって来たアポロンとアルテミスも、
 まんまとこの猫に、魂を抜かれてしまった、そういうことで。
 …しかして仔猫と(さらに付け加えるなら、+ジョーと)遊ぶのを楽しみにボールを買って帰って来たジェットも彼女を譲りたがらず。
 こんなコドモな争いを繰り広げているのだった。

「…全く馬鹿らしい」

 ポツリ。呟いたハインリヒだったが、幸いにして互いに夢中なアポロンとジェットに、その言は届くことはなかった。

「もう…ジェット。君はまた明日だってこの子と遊べるじゃないか?今日はアポロンに譲ってあげたら?」
「!ジ、ジョー…この燃え頭の方を味方するのか!?」
「いや、味方っていうか、…」
「フフン、009もたまにはマトモなことを言う。大体この猫じゃらしとて、009が作ってくれと頼むから作ってやったんだ。お前の出る幕はない、向こうへ行っていろ」
「なっ…、……そうなのかジョー!?」
「う、うん…。外にちょうどいいのが生えてたから一緒にとりに行ったんだけど」
「………。」
「…ジェットとはまた明日、一緒に遊ぶから。ね?…駄目?」
「……う…」

 じっ、と困り顔で見上げられ、思わず気勢を削がれ。
 むしろちょっとなんというか、…なんというかな気持ちになってしまう辺り。
 彼らの背後。ハインリヒが長く息を吐いた。
 …と、

「ぅあっちィイい!!!?」
「ジェッジェット!?」

 ビギュン!…と、鋭い発射音を上げて、
 アポロンの指先から…さすがに室内だからと多少手加減はしたのだろう、3千度とまでは行かぬ熱線が…ジェットの頭すれすれを飛び、開け放してあった窓から外へと突き抜けて行った。

「なっ、なっ、なっ」
「チッ、外れたか…」
「外れたかじゃねえよ!殺す気かお前はーーーっ!!?」
「無論望むところだが、今日の所はそれは本意じゃない。ただムカついたから撃っただけだ」
「んな理由で人のキューティクルを台無しにするなっ!…あーもーコゲちまってるじゃねえかよ!」
「惜しいな。もう少しで10円ハゲの出来あがりだったというのに」
「…殴る。絶対殴る殺すっだああっ離せっジョー!」
「だっ駄目だってば、アポロン!君もやり過ぎだよ!?」
「…フンッ」
「フニャー…」

 そんな修羅場を目の前に、ようやく目覚めた小さな姫君が、あくびをしながらこっそり鳴いた。
 そうして顔を洗い、毛並みを整え、それが済んでからようやく眼前の模様へときょとん、視線を移す。
 視線に気付いた3人も、む、と、それを見返した。…その瞬間。

「猫ちゃーん」

 キッチンからそんな声が響いた。
 ちりん、と首の鈴の音鳴らし。仔猫はそれまでの呑気さなどどこへやら、ぱっと身を起こして。

「ごはん出来たわよ、いらっしゃーい?」
「ニャー!」

 とととととと。

 …あっさりとキッチンへと。
 キャアキャアと、少女の笑い声2人分と、じゃれる仔猫の跳ねる音。

 

「「「……………。」」」

 1人は一方に胸元をねじり上げられ、1人は一方に掴みかかり、1人は一方の腰にしがみつき。
 そんな体勢のまま、じっと固まり動かない少年達をちらと横目で見やって、
 ……ふう。
 またも息をついたハインリヒの手が、ぱらり、新聞を捲った。

 

 

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