069:片足
--------------------------
片足が。
「ジョウイ!」
「ラカ」タタ、と軽い足音。ラカがこちらへ駆けて来る。手に釣り竿とびくとを持って。ジョウイは彼を待つ間読んでいた本を閉じて、にっこりと親友へ笑いかけた。
「遅くなってごめんね」
「いいよ、君は家のことがあるもの。…僕も手伝えればいいんだけど」
「駄目だよ、畑仕事なんか手伝ったらまたおじさんに怒られるよ?それに手伝いならこれからしてくれるじゃないか」言って釣り竿を掲げる。ジョウイはその笑顔を見るたび、胸にようやく空気が吹き込むような気がするのだった。そうだったね、答えてラカから竿を一本受け取り、二人は歩き出した。天気はどこまでも良い、暑い夏の午後。じりじりと太陽が肌を焼いて行く感覚に、目を細める。
「今日こそ勝つからな」
ラカがにいと笑んで言う、それにジョウイもふと微笑んで、
「そう、楽しみにしてるよ」
「…その余裕を打ち砕く!今日の目標は20cmだ!!」
「じゃあ僕は25cm」
「……僕は26」
「27」
「28」
「………。」
「………。」
「アハハハ」
「ハハハハ」
「…負けないぞ!」
「こっちの台詞だ」ラカ家の今夜の夕食をかけて、二人は追われるようにして走り出した。
向かう先には清流がさらさらと二人を待ち構えている。
ふ、と。
そんな夢を見て、ジョウイは目を覚ました。
とく、とく、とく、どく、どく、どく。
心臓が脈打つ。…苦しい。
むっくりと起き上がった。まだ夜も明け切らぬ時刻のようだった。天蓋に包まれていてはわからない。そっと押し開く。白い月明かりの満ちた意味もなく広々とした部屋が現れた。もちろん清流などどこにもない。
そしてあの少年も。──ラカ、
今、君はどんな夢を見てる?
「僕はね、両の足が揃った夢を見たよ…」
誰へともなくぽつり呟く、
闇夜は風ひとつなく、どこまでもどこまでも穏やかだった。
--------------------------