075:ひとでなしの恋

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 僕のすべては、彼女だった。
 なんといっても一度は死んだ僕だから、そしてそんな僕が現世に留まれたのは他でもない彼女の両親のおかげなのだから、それは当然のことだと思っていた。それに対し、何の不満も不平もなかった、だって僕はそのために、そのためのみにだけこの世に残ることを許されたんだもの。どうせなら僕より優秀なクロームだった彼女の父や母が生き残れば良かったのにとは時々思うけれど、仕方がない、現実とは残酷なものだ。神は僕を選んだ。だから僕は当時、たったの5歳だったマローネを育て、導くことだけに心血を注いで来た、それだけが僕がここにいる証であり一人生き残ったことへの代償だったから。
 こう言うとやけに深刻に聞こえるけれどそうでもない。僕はマローネが可愛いし、それは生きていようと死んでいようと同じことだ。彼女は僕が思っていた以上にとても素直で優しい、良い子に育ってくれた。アッシュ、と名を呼ばれるとやわらかな感情が胸に満ちる。僕の歳では…ファントムになったのは8年前のことだから、単純に計算すれば26歳ということになる、あくまで精神面だけ考えればだけれど…こんな大きな子はいるはずがないから娘というのもおかしいけれど、もうほとんどそんな気持ちなんだ。

 

 

 …そんな内容のことをアッシュは腕の中の子にゆっくりと話して聞かせた。
 ラハールは人でも殺す気かというくらい物凄い形相でそれを聞いていた。と、思う。一度も頷きも返事もしなかったから確かじゃないけど、少なくとも目は開いていたので寝ている訳でもなし、彼の声の他には寄せる波しかこの島には音がないのだから多分届いているのだろう。

「だから、君が気にすることなんてなにもないんだよ。わかった?」
「……わかっ…るか、たわけ者!何をわかれと言うのかすらわからんわていうかわかりたくもないわ!!」
「何だよ、君が“お前にはあの霊媒師女がいるだろうが"なんて言うから話したのに」

 じたばたと暴れる、普通の人間ならばすぐさま跳ね飛ばされる力だがいかんせん。相手はこの間世界を破滅に追い込みかけたサルファーすら倒した男だった。いくら彼が魔王の分身であるとは言え、分が悪い。結局はやんわりと、けれどがっちり押さえ込まれてしまう。

「…お前、おかしいぞ…」

 そしてせめても、重く息をついた。

「俺さまを誰だと思っているのだ、俺さまはな…」
「極悪非道で血も涙もない悪魔で、魔界の王、なんだろ?もう100回くらい聞いたよ」
「そうかなら話は早い、ではさっきのフザけた台詞は脳味噌から今すぐ抹消して良いな」
「フザけた台詞? …君が好きって言ったこと?」
「!!…キ、キサマ、せっかく抹消してやると言っているのに2度も!2度までも!殺されたいか!?」
「だから俺、もう死んでるんだって。消滅させることなら出来るかもしれないけど」
「…ああそうか、そうか、ならばそうしてやる!離せ!剣を取れ!」
「ええ?」
「ええ、ではない!言っておくがな、俺さまは無抵抗の相手でもやると言ったらやるぞ!」
「嫌だよ」
「にべもなく断るなあー!!」
「だってほら、仲間同士殺し合うとダーク値上がっちゃうしさ」
「そんなシステム上の話なんぞ知らんわ!」
「それに俺、好きな子を痛めつけて喜ぶ趣味、ないし」
「………本当に殺す。殺してやる!畜生、離せ!エトナ!フロン!…ええい中ボスでも良い!誰か、誰か居らぬのかーーー!!!」

 ラハールは声の限りに叫んだ。
 けれどその頃当人たちは家内でお茶の時間の真っ最中であり。
 唯一、中ボスことビューティー男爵ことクリチェフスコイだけは反応を示したのだが面倒ごとに巻き込まれるのを嫌がったエトナにあっさりと踏み潰された。

 

 

 

 そうして哀れ、ラハールはよしよしとアッシュに髪を撫でられ、ぎゅうと抱き締められ、その後は自主規制、ただ、そんな二人のことなどどこ吹く風。海はどこまでもおだやかで、世界はどこまでも平和そのものなのだ。

 

 

 

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