080:ベルリンの壁
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「でも、かっこいいよね」
ぽつりとこぼれた言葉に、マルレインは口元まで持って行っていたカップをひたと止めた。
「凛として強くて、頼もしくてさ。僕もあんなふうになれたらいいんだけど」
ルカは息を吐きつつ、熱い紅茶をそっと口に流し込む。カップのふちを彩る金色の輪が、ゆらゆらと彼の唇を映している。マルレインは慌てて自分も止めていた手を動かし、それを飲んだ。甘く、ゆるやかな深い味。美味しいけれど、…たしかに、美味しいけれど。
いやそれどころじゃなくて。「…そう、ね」
曖昧に頷いた。視線はまったく別の方向、飾り棚の皿の模様なんかを見ている。
けれどルカは、元来まったくのお人好しである彼は、そんな彼女の思惑にも気付かず素直にそれにふと微笑んで、「目も髪も金色の人なんて初めてなんだ。夜、月が出てる時とか、すごくきれいだよね」
「…うん」
「背も高くてすらっとしてて、足、長くて」
「…ええ」
「普段は厳しいけど時々凄く、優しいときも、あるし」
「…そうなの?」
「うん。怪我したときとか、凄く心配してくれるよ」想像出来ない。
マルレインは意を決して、窓の外、先ほどからずっとルカの視線が注がれている中庭へと向き直った。二人の男女が眼光も鋭くじっと押し黙ったまま睨み合っている。時折じりじりと距離を取り合いながら、一方は腰の剣の柄を握ったまま、一方は手中に魔力を集中させたまま。
ちら、と庭の端。ルカによく似た顔立ちの少女がすたすたと現れた。
そして二人の様子を見るにつけ、息を吐き。
足元からこぶし大ほどの石を取り上げ、そして、
やにわに大きく振りかぶると、男の後頭部へ向けてそれを思い切り投げつけた。「「あ」」
少年少女の声が被る。
が、男はさすがと言うべきか。瞬間、はっと振り返ると咄嗟に飛び退り、直撃を避けた。が、この間を女が見逃すはずもなかった。刹那。剣は抜き放たれギュウと男の胸に伸びた。
そしてさっくりと胸をえぐった。「「あ」」
またも声が被る。
男はがくりと膝を突き、青褪めた顔で女を見上げ、「…キ、キサマ、今心臓を狙いおったな!?痛いではないか、死んだらどうする!いくら余が世界を統べる魔の王とて、あんまり痛くすると死ぬんだぞこの殺人勇者め!」
「なに言ってんのよそれこそまさに私の望むところなんじゃない。…アニーちゃんナイスフォロー!いい投げっぷりだったわよ、さすがね!」
「えへっ、そんなぁこのくらい…お姉様のためですもの」
「くそー!痛いぞー!おいコラ子分、キサマ主人が刺されたというのに何を呑気に窓際でブレイクなんぞしとるんだこのバカチン、サクサク駆け付けてテキパキ手当てせんかぁあ!」
「あ、うん。ごめんねマルレイン、ちょっと行って来るよ」
「え、ええ…」男は──魔王スタンはぎゃあぎゃあわめきながら激しく砂煙を上げつつ、地面でのたうっている。胸を刺し貫かれたと言うのに丈夫にもほどがある。青褪めるマルレインとは対照的に、ルカは紅茶がこぼれないようきちんとカップをソーサーに戻して、ええと救急箱救急箱、とぽつぽつ呟きながら棚の上を漁り始めた。わめき声はどんどんと大きくなり、そして、
「うがっ」
そんな声と共に突然聞こえなくなった。
それと同時になにか、とても、嫌な。サクッとかブシッとか、そんな音がしたような気がしたが。マルレインは懸命にも視線を逸らし、ただ焼きたてのお手製クッキーを口に運び、ぱきりと割った。
細かく砕けてぼろぼろ、テーブルを汚す。「…そっちか…」
女──ロザリーの下、足蹴にされているらしき魔王の断末を聞きながら、やれやれと頬杖をついた。
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