087:コヨーテ

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「なんかこいつ、トウヤに似てるな」

 不意に言われ、トウヤは茶を淹れる手を休め声の主へと振り返った。
 ここが他人の家であることなど忘れたかのように、いかにもくつろいでいますといったふうにソファにもたれながら、少年が1人、テレビに見入っている。なんだと思い覗き込めば、そこには黄褐色の毛を揺らし草原をひた走る、犬のような動物が映し出されていた。

「…オオカミ?」
「いや、コヨーテだって」

 はふっ。おやつにと出してやったシュークリームにかぶりつきながら、少年──ハヤトが笑む。

「…そうかな?」
「絶対似てるって。ぴゅーっと走ってく姿とか、そっくり」

 確かに僕は、足は速い方だけれど。
 苦笑と共に、カタン、テーブルに麦茶を置いてやる。
 ゆったりと隣に座れば、何故か得意げな顔で、腕を引かれる。

「ほら、なんか顔も似てるだろ?」
「うーん…」

 無邪気に言われては否定も出来ない。
 やがて番組の内容は、コヨーテが主に何を食べるか、そしてその捕食の瞬間の映像に移った。狙いは一匹の野ウサギ。のんびりと草を食んでいる彼を、コヨーテは物陰に身をひそめ、じっと見つめている。そうして突如、パッと目にも止まらぬ速さで飛び出した。ウサギは驚き、慌てて逃げ出す。彼も速い。巣穴へ向けて必死に駆ける、…けれど、

「うわっ」

 ハヤトが眉をひそめた。
 ひと飛びにコヨーテが跳んだ瞬間、あわれなウサギは彼の口にがぶりと捕らえられていた。数秒じたばたと暴れたが、やがてビクリと痙攣したのを最後に動きを止める。
 うわー、うわー。うめくように言うハヤトのことなどどこ吹く風。悠々と獲物を安全な場所まで運ぶと、彼はウサギを食い破り始めた。

「…なんかこういうのって、当たり前のことだってわかってはいるんだけどやっぱ可哀想になっちゃうよな。な、トウ…、……トウヤ?」

 するり、
 髪の合間を抜けて行く、長い指。
 何故突然頭を撫でられているのか分からず、きょとんとハヤトは瞳を見開く。
 ただ黒く、無垢な瞳で。
 ごしりと頭皮を擦られ、頭が揺れる。うぐ、と小さくハヤトがうめいた。訝しげな顔をしてこちらを見上げるその顔に、にっこりとトウヤは優しげな笑みを浮かべた。

「なに笑ってんだよ、…ていうか何」
「いや…」

 テレビの中では、すっかり満腹になった同朋がくわあと大欠伸。
 トウヤはそれをちらと、横目で見ながら、

「確かに少し似てるかも、と思ってね」
「…それが何故おれの頭を撫でることに繋がるんでしょうか」

 ていうかくすぐったいって、やめろよ。
 不貞腐れたふうに言う、その顔には、かすかに朱が昇っている。
 トウヤは言われたとおり素直にその髪から指を抜き、
 最後にとばかり。ぽんぽん、とちいさな頭をはたいた。

「ウサギを捕まえて、食べるところが」
「………それって…」

 まさか、と感づいた懸命な子に、
 コヨーテは秀麗な笑顔と共に、ちらとするどい牙を見せた。

 

 

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