096:溺れる魚

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「…ええと」
「………。」
「君は本人であってそうじゃない、あの子の魂のかけらだ。…でもきちんと意思はある、そうだね?」
「当たり前だ。俺さまを誰だと思っている、魔王ラハールさまだぞ。たとえ分身とて悪の心意気は薄れるものではない」
「うーん…エトナさんとフロンさんと、一緒みたいね。やっぱり同じでいいんじゃないかしら」
「そうだね。それじゃあやっぱりそのまま呼ばせて貰うとしよう、…どっちにしろ本人にはもう、会う機会もあまりないだろうし…。うん、…じゃあ、これからよろしく、ラハール」
「ふふん。下賎の人間如きに俺さまのような者が手を貸してやるなどそうないのだが、まあ良い。そこまで言うのなら共に戦ってやらんでもないぞ」
「………。」
「素晴らしいですラハールさん!助け合い、それこそ愛の精神!更にこのパターンだと友情までついて来てすっごくお徳ですよ!ああ…いっそのことこれを機会になにか戦隊を発足したらどうでしょう、世界の平和を守るため、空の果てからやって来た!我ら霊界戦隊、オバケンジャー!…とか!!」
「……………。」
「結局どーしてもその方向に持って行きたいだけじゃないのー、フロンちゃん。っていうかさあ、この島ってほーんとなんにもないんだねえ。よくこんなとこで暮らしてられるねあんた達?あーつまんなーい。謎の霊殴り殺すのももういい加減飽きちゃったしー」
「ていうか貴様、なんだこの剣は。魔王である俺さまにレベル93、合成も一度もしてないようなクズ剣なんぞ寄越しおって。海の如き広い心でせっかく手伝ってやると言っているのだから一番良い剣を寄越すのがスジというものであろう、コラ、貴様の剣を寄越せ!でないとプリニー100匹いっぺんに投げ付けるぞ!」
「うーん…それとも黒き闇から生まれ出ずる、我ら正義の使者ファントマーズ!…の方がかっこいいかなあ。でもそれじゃあ悪役みたいですよね。ん?わたし達、幽霊と悪魔なんだからそれでもいいのかしら。あのー、お二人はどう思います?」
「うーっ、体がなまる。こんなんじゃ太っちゃう〜美少女悪魔が肥満だなんて許されなーい、そのへんの奴ぶん投げて運動不足解消しなきゃー。…おらおら、HP低い奴から前に出やがれー!」
「……、……う、…い、胃がっ…」
「ア、アッシュ!しっかりして、アッシュ!」

 霊魂が神経性胃炎で倒れるだなんて。
 …現世にとどまっていると、色んな体験をするものだね…、アッシュはへなへなと地にくず折れながら、自嘲気味にフフ、と笑った。ただでさえ白い顔が更に抜けるように白い、まさに、抜けるように…

「…ア、アッシュ!…体、半透明になっちゃってるよう!!」
「……マローネ…ま、守ってあげられなくてごめん…」
「いやーっアッシュ!成仏しちゃダメ!わたしを一人にしないでえー!」
「わ、わか、ったから、そっ、そんなにゆっ、揺さぶらなっ、…い、胃が、胃が…っ!」

 がっきと小さな手がアッシュの肩をつかむ。それのみならず力任せにがくがく揺さぶられ。
 ああ、血ィ吐きそう。
 既に眠る、という行為自体から遠ざかって早数年。アッシュは久方ぶりに、意識が飛ぶ、という感覚をまざまざと味わった。

 

 

 

 

 

「もー、騒がしい連中ねえ。…あっちょっとこらジジイ!じたばた暴れてんじゃないわよ!投げ位置場外にするわよ!」
「うふふふ、お二人もエトナさんには言われたくないと思いますけどねー」
「…やはりなかなか堕天使ぶりが板について来たな、フロン…」

 

 そして2週間後、またも仲間に加わった男に更にアッシュは胃を痛めるのだ。

 

 

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