100:貴方というひと
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…困った。
膝の上で眠りこける子をじっと見つめながら、百鬼丸はやれやれと空を仰いだ。
隣りに座ったまま、ふらふらしていたのは知っていた。常日頃、腹がいっぱいになると同時にまぶたをとろとろとろかすような健康優良児であるどろろだ。いつものように、自分の好きなように勝手にそこらに転がって寝始めるだろうと放っておいたのがよくなかったのか。
…そうだ、その時点で眠いなら寝ろと言っていれば、こんな面倒なことにはならなかったはずだ。
ふらりと小さな体が傾いだ。
驚いて、はっと息を飲んだ時にはもう遅かった。
こてりところがりこんできた体、
どろろは今、こっちの気も知らず呑気にこの膝に横になっている。「……全く」
これじゃあ剣の手入れも、なにもできやしないじゃないか。
思いながらも、思っていながら、無意識にあぐらを地につけ、子供が眠りやすい体勢をとってやっている。
百鬼丸はふと自嘲気味に笑んで、刀の手入れをしようと外した右腕を戻した。金具が合わさり、かちりと小さく音が鳴る。コツ、と指先が右膝に触れた。指先にはなにも伝わらなかったが、膝には、表面は人工皮膚でやわらかく覆われているものの、膝に乗る子供に比べればやはり硬質な感触と、つめたく味のない無機物の温度が伝わる。
百鬼丸は膝に眠る子供の顔を、そっと覗き見た。
口のはしからよだれがつたって、百鬼丸の着物にしみをつくっている。
百鬼丸は黙って、手首の布でどろろの口元をそっとぬぐった。つめたい感触が嫌だったのか、少し顔をしかめて、けれどすぐにやすらかな顔に戻り、すうすこすうすこ、幸せそうに眠っている。
息が。
膝にかかり、肌の上を滑り、かすかに濡れて、散る。
薄い手が、着物の端をつかみ、布が引き攣れ、足を引く、その感触も。(…どろろ)
胸に念じる、
(俺の膝は、冷たくないか?)
聞こえたのかはわからないけれど。
子供は薄く微笑んだ。
春風はあたたかみを帯び、空は、どこまでも青くおだやかだ。
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