「結婚してください」  H19.5/24−6/14

「送信者アル
金曜の夜…今週分の激務を終えた週末の心地よい疲労感と解放感。俺は一週間のうちで、この時間帯が一番好きだ。夕飯も風呂もすませパジャマに着替えたあと、リビングのソファでくつろぎ、宮市さんと一緒にテレビをみていた。彼は最近ある番組にハマッている。「108回目のプロポーズ」という、まるで除夜の鐘みたいなタイトルのドラマだ。何度も見合い話を断られたさえない中年男が若くてちょっと気の強い女の子に誠心誠意つくして、次第にお互いひかれあっていくといった内容だ。宮市さんいわく今日はいよいよプロポーズシーンがあるので見逃せないんだそうだ。

「送信者アブ
いよいよ、待ちに待ったプロポーズの日だ!と、言ってもドラマの話だが……本来、私はあまりドラマなど見ない方なのだが「108回目の…」は正直、ハマッている。別に主人公の田舎くさい中年男に共感や好意を抱いてる訳でも気の強いヒロインに心をときめかしてる訳でも断じてないのだがこの主人公の男の発想とか台詞が面白くて仕方がないのだ。中でも洒落たラウンジで「マティーニ」の事を「マタニティ」と注文するところでは思わず吹き出してしまい側にいた相澤君にからかわれてしまった程だ。その位ハマッているのだ。

「送信者アル
テレビ画面にかぶりつきになっている宮市さんに膝枕してもらっていた俺は、そのドラマに特別思い入れもなかったから、彼の膝の上でパラパラと手元にあった雑誌を所在なげにめくっていた。

「送信者アブ
「相澤君!雑誌見てる場合じゃないですよ!今からプロポーズしますよ!早く見て下さい!」いよいよドラマもクライマックスに近付き私は、はやる気持ちを押さえながら膝枕で雑誌を読む彼に声をかけた。

「送信者アル
テレビを見ろ見ろと、しつこく強要する宮市さんに仕方なく画面に目を向ける。浜辺で夕日をバックに佇む二人。波の音のBGM。男が背広のポケットから小さな箱を取り出す。中身はお決まりのエンゲージリング。「僕は死にません。あなたのかつての婚約者のようにあなたを置いて逝ったりしません。あなたを悲しめません。ずっと側にいてください…」一瞬驚いた表情をした女が「バカね…」と笑いかけ、その頬から涙がこぼれ落ちる…。

「送信者アブ
頬をつたう涙が夕日に輝く……二人を包むように主題曲が流れる…「いいですねぇ…」無意識のうちに呟いていた…

「送信者アル
「…何が…?」

「送信者アブ
「何がって、プロポーズです……いいですねぇ」

「送信者アル
「…ふ〜ん…」俺は、読んでいた雑誌に再び目をおとした。

「送信者アブ
テレビでは女が涙を流しながら微笑み男から指輪を指にはめてもらっていた。「…すごくいいですねぇ…」

「送信者アル
「…何が…?」

「送信者アブ
「何がって、プロポーズですよ…すごくいいですねぇ…」

「送信者アル
「…ふ〜ん…」俺は、雑誌から目を離さず答えた。

「送信者アブ
二人はその日初めて手をつなぎ夕日を背にお互い微笑みながら浜辺を歩いていた。それからラストに南国の孤島、コバルトブルーの海の側に建つ真っ白な教会で目の覚めるような純白のウェディングドレスで二人っきりで式をあげるところでドラマは終わった…私は感動のあまりしばらく放心状態ののち「ハァ……素晴らしいですね…」と呟いた…

「送信者アル
「そうか、よかったな」うっとりと余韻に浸っている宮市さんに、膝枕で背を向けたまま声をかけた。

「送信者アブ
「相澤君……私と結婚して下さい!」

「送信者アル
「…………」 

「送信者アブ
「君……日本語わからないの?私は結婚して下さいと言ってるんだよ!」

「送信者アル
俺は、のろのろと起き上がると、ソファに座りなおした。「…春になって、脳みそに虫が湧いたのか?花が咲いたのか?」

「送信者アブ
「……ほぉ…人間の脳に寄生する虫や繁殖する花なんて見た事がありませんねぇ……ネットででも調べて資料を提出して頂けますか?」一気に声のトーンが低くくなる…

「送信者アル
こうなると宮市さんは、しつこく絡んできて手に負えなくなるから、「とにかく無理」と言い残し、俺はサッサと自室に引き上げた。

「送信者アブ
「どぉぉしてなんですかぁぁ?!私の事嫌いになったんですかぁぁ?!……まさか、他に…好きな奴が……相澤君!出て来なさい!相手は誰なんですか?……まさか、そ…園田なんですか?そうなんですね!相澤君!園田なんですね!」私は気がおかしくなりそうなのを我慢してドアを叩き続けた…

「送信者アル
(今だにしつこく園田かよ?!読者のみなさんわかんねえよ!)と思いつつ俺は、「園田さんではありません。好きなのは宮市さんです。でも結婚はできません」と、ドア越しに叫んだ。

「送信者アブ
「園田じゃなきゃなんで結婚出来ないんですかぁぁ?!」

「送信者アル
「そんなこと、日本の法律に聞けよぉ〜!!」

「送信者アブ」 
「じゃあ、せめてドレス姿だけでも…」

「送信者アル
「ドレス?なんで?俺、女装の趣味ねえよ」だんだん相手をするのが面倒くさくなってきて、ベッドにゴロンと寝転がる。

「送信者アブ
「女装とかじゃなくて!結婚式にはウェディングドレスが不可欠でしょ?!だから…」

「送信者アル
「だから、結婚はできませんって…」

「送信者アブ
「法律上、私達が結婚出来ないのは百も承知です……でも……わ、私は君が…好きだ…から……グズッ」

「送信者アル
「法律上出来ないって百も承知なら言うなよ!」ドア越しに怒鳴ったけど、宮市さんは、部屋の外でずっと「結婚したい結婚したい」とグズグズグズグズ泣いている。ベッドに寝転がって知らんふりしてたけど、うっとぉしいにもほどがある。ついに観念した俺は、「あー、もぉ!わかった、わかった、結婚するする」と言っていた。大丈夫だ。いざという時は法律が俺を守ってくれる…はずだ…。

「送信者アブ
「あ…相澤君……本当?もし、本当なら…このドア開けて顔見せて下さい!」

「送信者アル
「ちっ、しょうがねえなぁ…」俺は、しぶしぶドア開けた。

「送信者アブ
「今日は君の腕枕で寝まぁぁす♪」ドアが開いた途端、抱き付いた。

「送信者アル
「あっ、そぉ!」……諦めた。



「送信者アブ
次の日から仕事の合間をみては指輪の注文や旅行会社に通いつめた。もちろん彼にはサプライズにしておきたかったので極秘のうちに着々と計画をたてていった。ただ、彼の喜ぶ顔が見たい……それだけが今の私の原動力だった!

「送信者アル
結婚したいとあれだけ大騒ぎしておきながら、あれきり宮市さんは何も言わない。変だ…嵐の前の静けさか?…でも何日も経つうちに、俺はすっかりその話題を忘れてしまった…。

「送信者アブ
「相澤君、今度の週末久々にドライブでもしませんか?」準備も整ったある日、彼をドライブに誘った。

「送信者アル
「ドライブ?そうだなぁ、気候もいいし、たまには二人で出かけるか」俺は、なんの警戒心もなくニッコリとうなずいた。

「送信者アブ
つぎの日曜日、私は相澤君と共に愛車のBMで海に向かった。もちろん夕日に間に合うように計算の上って事は言うまでもない。

「送信者アル
久しぶりに宮市さんとデートだ。郊外の洒落たイタリア料理店で遅い昼食をとったあと、海を目指しドライブだ。湾岸道路沿いに広がる青い海を眺めながら、俺はご機嫌だった。

「送信者アブ
「相澤君、せっかくだから砂浜で夕日見ませんか?」駐車場に車を止めて彼を誘った。

「送信者アル
車から降り立ち、二人で浜辺を散策する。辺りに人影はなく波の音を聞きながら砂浜をゆっくり歩く。「たまにはこういうのもいいもんだな」宮市さんに笑いかけた。

「送信者アブ
「私は君と一緒ならなんだってOKですよ」彼の笑顔に答えながら二人並んで歩いた。

「送信者アル
お互い言葉を交さず、海岸線を歩き続けた。次第に陽が傾き、水平線が赤く染まる。「きれいだな…」美しい景色に俺は感嘆のため息をもらした。

「送信者アブ
「相澤君……これ…」私は小さな箱を彼に渡した。

「送信者アル
「えっ?何?…」

「送信者アブ
「君にはもう承諾済みだから今さらって感じなんですが……」

「送信者アル
「なんだよ?開けていい?」俺はその小さな箱を見つめた。

「送信者アブ
「どうぞ…」

「送信者アル
小さなケースをパカッと開けて、俺は息をのんだ。「こ、こ、これは、ダイアモンドの指輪??」

「送信者アブ
「4カラットのダイアです。カラーグレーディングは無色のD、透明度を表すクラリティグレードはFLで最高級クラスの石です。おまけに細工はイタリアの熟練したカット職人に特別に依頼しました。どうですこの輝き!素晴らしいでしょう!」箱から指輪を取り出し彼の指にはめた「ほぉら!思った通りサイズもピッタリ!」

「送信者アル
「…………何だこれ?」

「送信者アブ
「何って……エンゲージリングです…相澤君、私と結婚して下さい」

「送信者アル
「はあっ?」

「送信者アブ
「相澤君!私は夕日をバックに砂浜でエンゲージリングを渡したんですよ!なぁぁんで感動しないんですか?!」

「送信者アル
「いや、ちょっ、ちょっと待て!こ、これ、俺に???」

「送信者アブ
「……私が君以外に誰にあげると言うんですか?さぁ!遠慮は無用です!早く感動して下さい!」

「送信者アル
「いっ、いくらだ、いくらしたんだこれ?」

「送信者アブ
「君の為です。金に糸目はつけません!フフン」

「送信者アル
確かに気持ちは嬉しい…嬉しいけど、なんか間違っていると思う…眩暈がして倒れそうになった。宮市さんの金銭感覚は、ぶっ飛んでいるから、指輪の値段はこれ以上怖くて聞けない。感動とは違う意味で涙が出そうだ…。あっ、そうだ、ほとぼりが冷めた頃、売っぱらってしまえばいいんだ…。ようやく気を取り直した俺は、「とにかく感動すればいいんだな?」と彼に尋ねた。

「送信者アブ
「ハイッ!早く感動して下さい」ワクワク…

「送信者アル
とりあえず俺は感動することにした。「わぁっ、びっくりした!」

「送信者アブ
「……私をバカにしてるの?それとも君がバカなの?」

「送信者アル
「何だよ突然!失礼だな!じゃあ、どんなリアクションがお望みなんだよ?」

「送信者アブ
「あのね、普通は愛する人から指輪を送られたんだから目に涙をためながら「ありがとう…」って

「送信者アル
「ありがとうは、ともかく…目に涙…は、ちょっと難しいかな…」

「送信者アブ
「君……嬉しくないの?僕の事…嫌いなの?」

「送信者アル
「あっ、い、いや、す、好きだけど……」

「送信者アブ
「その好きな相手からダイヤのエンゲージリングとともに夕日の美しい砂浜で波音をBGMにプロポーズされたんですよ!どぉぉして感動出来ないんですかぁぁ?!」

「送信者アル
「だから感動したじゃねえか!」

「送信者アブ
「じゃねぇかって……」拗ねた…

「送信者アル
拗ねたな…こうなると厄介だ。今からグチグチと「私がどんなに君を愛しているかわからないんですか」とかなんとか、延々、恨みつらみを聞かされるはめになるんだ…。俺はため息をつき、「わかった。もう一度、感動しなおそう」と言った。

「送信者アブ
「わかりました!じゃあ、私も最初からやり直します!」彼から指輪を取り上げ箱になおした「では、改めて!相澤君、私と結婚して下さい」指輪を差し出した。

「送信者アル
「えっ?…」俺は、驚いた表情で指輪を見て、それから、うるうるした瞳で宮市さんを見つめた。

「送信者アブ
「結婚……してくれますね…」彼のウルウル目を見つめた…

「送信者アル
「宮市さん…」俺は、ウルウル目のまま言葉をつまらせ、こくりとうなずいた。

「送信者アブ
「ありがとう……嬉しいよ…」私はウルウル目の彼を抱き締めた「相澤君、安心して下さい!私は死にませんから。絶対、あなたを置いて逝ったりしません。決して、あなたを悲しめません。だから、ずっと私の側にいてください…」

「送信者アル
あれっ?このセリフどっかで…あっ、そうか、ドラマのなかで言ってたやつだ。え〜と、このあと女はなんて言ってたっけ?俺は、宮市さんに抱き締められたまま必死に頭をフル回転させた。そうだ、思い出した!俺は彼を見つめ、ニッコリ微笑んだ。「バカか…」

「送信者アブ
「ちっがぁぁぁぁう!!バカかじゃない!ねです!バ・カ・ね!です!なぁぁんでここまで来て間違うかなぁぁ、ったく!」

「送信者アル
「……やり直す」

「送信者アブ
「気をつけて下さいね!お願いしますよ!」彼を再び抱き締めた

「送信者アル
「じゃあ、もう一度さっきのセリフ言ってくれ」

「送信者アブ
「OK!何度でも言わせて頂きますよ♪相澤君、安心して下さい!私は死にませんから。絶対、あなたを置いて逝ったりしません。決して、あなたを悲しめません。だから、ずっと私の側にいてください…」

「送信者アル
(いや、死にません…って、サイボーグじゃねえんだから…)と思ったけど指摘したら面倒なことになるから「…バカね…」と、ニッコリ笑った…

「送信者アブ
かっ…かわいい♪もう一度彼をキツく抱き締めた。あぁ、素晴らしい!!!

「送信者アル
「気がすんだか?」有頂天な宮市さんと正反対になんとなく憂欝な俺…。

「送信者アブ
「来週の週末から一週間、必ず空けておいて下さいね」

「送信者アル
「はあっ?一週間?俺、仕事が…」

「送信者アブ
「だぁいじょぉぶですよ!今月は君の部署結構ヒマでしょ。だからちょうどいい機会なので君の上司に出世株の彼にそろそろ未開拓の国の貿易事情を知っていてもらいたいから我が社が主催する研修会に参加って事で休暇の許可をいただいてますから♪」

「送信者アル
「な、なに勝手に話しつけてんだよおぉぉ〜?!」

「送信者アブ
「勝手だなんて失敬な!ちゃんと君に承諾を得た上の事です!」

「送信者アル
「承諾?知らねえよ。旅行に行く承諾した覚えないよ!」

「送信者アブ
「……結婚の、です……知らないだなんて言わせませんよ……」

「送信者アル
「……指輪ももらったことだし…『はい、俺たち結婚しましたぁ〜!』でいいと思うぞ……」

「送信者アブ
「……こんなのただの婚約期間に過ぎません。結婚式をあげてやっと夫婦になれるんです!」

「送信者アル
本当にどこまでもどこまでもこだわる男だ…まあでも…普段俺は、真面目に仕事してるから有休は腐るほど余ってるし、上司の許可までいつの間にやら、さっさととりつけてるんだから、旅行自体は不可能なことじゃない。結婚のためとは言っても、二人だけでままごとみたいなことするだけだろう…。俺は黙り込んで、あれこれ思案していた。

「送信者アブ
「相澤君?どうしたのですか?」急に黙ってしまった彼が心配になった…

「送信者アル
「わかった。旅行に行こう。このところあんまり二人でゆっくりできなかったもんな」笑ってうなずいた。この時の俺は、全く何も考えていなかったんだ…


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