ブルークラッシュ

監督:ジョン・ストックウェル

 見ている間は手に汗握り、見終わって思いだすとじわじわと感動がこみ上げてくる。こういうのを傑作というのだろう。
 お話としては、典型的なパターンではある。「栄光を夢見る若者が挫折しそうになるけれど頑張って夢を実現する」お話。しかしこの作品に既視感がなくとても新鮮に感じるのは、「オハナシ」ではないからだ。
 子供の頃に大会で優勝してサーファーとしての天分を認められて栄光を夢見るけれど、その栄光を掴むにはものすごい努力と、努力だけではどうしようもない事もあることを思い知らされる。一度は白馬の王子様に乗っかって楽な人生を送りたくもなるけれど、「それでいいのか?」とどうしても思う。まだ若いのだし弱いのだし後ろ盾もいなくて心細いのだし。お金がなくて生活が苦しいのは、最高にしんどい。そして彼女は、大きな波が怖い。一度、九死に一生を得るような体験をしてしまうと、絶好の波が怖くて仕方がない。
 この作品は、そんな才能あるが脆い心をもったサーファー少女が、畏れを克服して大波に挑んで行けるようになるまでを真摯に綴っている。だから、感動するのだ。ハナから鉄の意志を持って頑張り続けるヒロインは、仮に実在しても、尊敬の念は抱いてもあんまり感動しない。頑張るには金持ちの親とか親戚とかスポンサーがついているから出来ることだし、一心不乱に集中出来る環境があればこそだ。
 だけど世の中、そんなに恵まれたヤツはほんの一握り。たいがいは才能がありながら、頑張りきれずに脱落していく。淘汰されるのが常とは言え、現実は非常に過酷だ。
 だから、生活苦の少女が、プロフットボールのスターとの結婚を夢見ても、「あいつは馬鹿な駄目な女だ!」とは思えない。毎日掃除に入るホテルの部屋はリゾート仕様でゴージャスなんだから、いつかは客としてこの部屋に泊まりたいと誰しも思うだろう。
 そういうわけで、この作品は周到に考えられた脚本がいい。話の展開にとても説得力があるのだ。真面目とは言えない仕事ぶりだが悪い事はしない。その姿勢もいいじゃないか。
 
 が、この作品のヒロインの感情を観客に理解させた、最大の功労者は、映像だ。波の恐怖と魅力を、ここまで描き出しフィルムに定着させた映画があったろうか。
 冬のノースショアに襲いかかる巨大な壁のような大波。実際に見たことはないが、この映像は、「怖い!」と思わせる。スクリーンから飛沫が飛んできそうなシャープな映像で、目の前に圧倒的に迫ってくる巨大な波の壁を見せ付ける。その恐怖は、観客にびりびりと伝わる。
 おれはへなちょこボーダーだが、あの波の怖さは、肌で判る。すごく怖いと思う。だから、ヒロインが絶好の波を目の前にして怖じ気づいてしまって動けないのもすごくよく判る。波に飲まれて海中でもがき、頭上を巨大な波がゴーッと通り過ぎていくのは、怪獣が通過するようで、その映像の力は物凄い。圧倒的だ。
 すべてが実写ではなくCGの力も借りているのだろうが、テクノロジーの進化というものは恐ろしいほどだ。「波」というもののすべて(とは言わないが、片鱗とは言えここまで見せられれば圧倒的だ)を見せてくれた撮影の力には、本当に脱帽だ。水中撮影のクルーは、大変な仕事を為し遂げたと思う。なんせ、自然が相手なんだから、いい波を撮ること自体難しいんだし。
 録音もいい。飛沫の「しゃーっ。ぱしゃぱしゃ」という音をヴィヴィッドに拾い上げている。これも凄い。職人芸と言うか、監督が海というものを判ってないと、具体的な指示は出せないだろう。その意味で監督のストックウェルの演出はポイントをすべて捉えた、見事なモノだ。
 
 もちろん、ドラマ部分もいい。ヒロインの微妙な感情の動きをきちんと捉えているし。しかし一番巧いと思ったのはヒロインの妹が反抗してふくれる、あの表情を引き出して捉えたことだ。
 ヒロインを惑わし応援するスター選手は結局のところヒロインを真剣に愛しているのか、その愛は「期間限定」なのか判らない。しかし、「男に頼らず自分の道を自分の足で歩く」ヒロインには敬意を持って同じスポーツマンとして接していくだろう。ロコのサーファーが敬意を持ったように。
 
 ディティールを記していくと、とても丁寧に細かく撮られているから語り尽くせないが、一見ワルなロコのサーファーも、波を愛するものとしてはイイヤツなのだ。カツアゲとかはしてるのかもしれないが。
 で、ドラマとしていろんな葛藤のシーンがあり、大会となり、決定的な波に乗れるかどうかという瞬間がやってくる。プロの名のある有名サーファーも思わず応援してしまうほど、ヒロインは頑張る。それが感動するんですなあ。
 試合で争う相手も思わず応援してしまう、という図式は日本のスポコンの典型だが、絵空事になっていないのは、応援する有名サーファーたちは、自分は高得点を叩き出して余裕があるのだ。だから、最高の波を前にして竦んでいるヒロインを心から応援して、彼女のライドが成功すると大喜びしてくれるのだ。
 でも、この場面は、泣ける。とても泣ける。必死になって波を掴まえ、乗り、チューブを抜けていくところでは、本当に手に汗握った。全身に力が入った。
 
 ヒロインは大逆転して大会に優勝して夢を掴み一躍有名になってアメリカン・ドリームの体現者となる、というバカな展開にはならない。映画はあくまでシビアだ。いい波を掴まえられなかったヒロインは、最高のライドを見せたけれど総合点数では予選通過も出来ず、敗退してしまった。しかし、「あの瞬間に、ビーチ全部の人の心を掴んでしまった」という、実にニクい展開になる。
 この展開は、実に巧い。絵空事のウソにはならず、ここまで感情移入した観客を失望させることもなく、ヒロインは恐怖を克服して、なおかつ有名サーファーから仲間として迎え入れられる。
 これから頑張れる、という爽やかな余韻を残して終わるから、この作品はしみじみと感動するし、最高の後味を残すのだ。
 ノースター映画なので、ヒロインのケイト・ボスワースの演技が巧いとか、そういう事はあまり書きたくない。映画の全体として、予期しない、不意を疲れた感動に襲われて、とても幸福なのだ。
 
 映画っていいなあ。海っていいなあ。