シャ乱Qの 演歌の花道

監督:滝田洋二郎

 大傑作。僕はこういうナンセンスな映画が大好きであるという事はあっても、同時上映の「キャッツ・アイ」の出来が大惨事であっても、相対的にこの作品が面白く見えたという事ではないだろう。この作品が、絶対的に面白いのだ。
 
 まず、シャ乱Qに、こういうオチョクリ企画をやらせた、ということが成功の一因だ。こういう冗談企画を受けて立ち、その上、サマになるというのはいろんな歌手・バンドは多けれど、彼らだけだろう。「一発、あなたと」というセリフを言わせて大丈夫なタレントが他にいるか?その意味で、シャ乱Qというのは貴重な存在だ。
 で、タイトルが、「演歌の花道」で、彼らを演歌歌手にしてしまうという楽屋落ちギャグを最大にして唯一のモチーフにしたのも成功の一員。
 また、滝田洋二郎を監督にしたというのも、成功の大きな理由だろう。今の日本で、こういう題材を巧く料理出来るのは滝田洋二郎か金子修介しかいない、と思う。しかし、シャ乱Qというグループの個性を考えるならば、多少オゲレツなギャグを得意とする滝田さんが最適任だったと思う。
 パンフを読むと、「中途半端は止めて、極端にいこう」というポリシーがあったようで、これは、この種のスラプスティックには絶対に必要な事だ。このジャンルでは、登場人物に複雑な性格づけなどいらない。むしろ笑いの邪魔になる。主人公はあくまで無垢。悪漢はあくまで悪。脚本家諸氏は、この関係を「チキチキマシーン猛レース」をガイドにしたらしいが、ぼくに言わせれば、ブレイク・エドワーズの「グレート・レース」のトニー・カーチスとジャック・レモンの関係だ。
 で、無垢な主人公・乱之介は、実はまったく無垢ではない。しかし、女・カネ・名声という「欲望」にかけては無垢の(純粋な)思いを持っている。思えば、チャプリンもキートンも、自分の欲望に対しては無垢の存在なのだ。「イッパツやりたい」「金が欲しい」「有名になりたい」という煩悩の塊である彼のキャラクターと存在は、もっとも成功するスラプスティックの主人公の条件を備えている。
 というわけで、この作品はスラプスティックの基本をきちんと踏んでいる。そして演出も俳優の演技も脚本以上にスラプスティックというものを判っている。陣内のあのハイテンションの芝居あってこそのこの作品だし、平幹二朗のような『別格の偉い』俳優までもが目玉をグリグリさせての大ドタバタ演技。これである。
 脚本のシカケとしては、陣内扮する『先輩演歌歌手・黒井ひでと』の乱之介攻撃をもっと多くして欲しかったが(最低あと一回は欲しかった)、それもすでに脚本段階で検討済みだったのだ。となれば、今の形がいろんな事を総合すると一番よかったのかもしれない。
 乱之介の控えに回ってしまう『苦節10年以上の、生きる不幸』の演歌歌手・岬一郎役を、尾藤イサオが、もう絶品の演技で見せてくれる。控え目で人がよくて損をしてしまう『いいひと』は、今や尾藤イサオの右に出る人はいない。なに?SMAPの草薙?甘い甘い。尾藤イサオの芝居には、「苦労してるんだけど屈折した笑顔で隠してしまう苦労人独特の切なさ」が滲み出ているのだ。
 松尾貴史も、映画ではやっときちんと彼の力を引き出せた、という感じで役にもハマっているし、彼自身の細かい演技のシカケも生かされていて、見ていて楽しい。
 
 で、この作品は、一方で音楽映画でもある。シャ乱Qの既存のヒット曲を演歌バージョンに編曲してしまうこと自体がギャグなのだが(この種の「音楽の冗談」は、「題名のない音楽会」でよくやっていたネタであり、その編曲が完璧であればあるほど凄いギャグになる)、そのスタッフに船山基紀を起用して、きっちり作っている。このあたりをないがしろにしていないのが、これまたこの作品の成功の一因である。この作品のために作られた演歌もまったくもって演歌していて、それを陣内がハイテンションに歌い上げているから、もう爆笑だ。
 
 演歌というのは、ド真面目、クソ真面目なジャンルだ。愛、涙、人情、恨みなどなどのどろどろべたべたを真正面から歌い上げる。これほどパロディや茶化しの対象になりやすいものはない。演歌ファンにしてみれば不愉快極まりないとは思うが、歌の中身や歌手の在り方、演歌の芸能界(同じ歌でも演歌だけは特殊なんじゃないか)の在り方というのは、非演歌ファンから見れば最高の笑いのネタになる。で、ここまでカリカチュアしてしまえば、演歌ファンでも笑ってしまうだろう。そういうわけで、滝田監督と脚本家のチームは非常にアタマのいい戦略を取ってそれに成功したのだ。
 
 この作品に散りばめられたギャグも、オゲレツなものも含めて非常に豊富。特に、岬一郎関係の、「歌えば必ず雨が降る」というルーティーン・ギャグ(一天にわかにかき曇り、というのを合成を巧く使って見せている)を一気につるべ打ちして話の展開のテンポを上げているのは見事というしかない。
 また、つんく自身の「オカマと寝てしまった」スキャンダルをギャグにしてしまっているのも、腹が据わっているというかなんというか。
 演歌界のドンの娘がニューヨークに行くのに何故か船を使い、その行先案内板に「経由:ホノルル・サンフランシスコ……」と書いてある細かなギャグも楽しい。
 
 僕は、こういう作品をこの上もなく愛してしまうのだが、作り手側も楽しんでギャグを投入しているのが判って、とても嬉しくなってくる。
 ラスト、リアルな「シャ乱Q」との整合性を考えてか、演歌グループからロックバンドに変身させて終わっているが、映画としては『ド演歌(というよりムード歌謡)グループ』のまま暴走したままで終わった方が虚構の終幕としてはよかったのではないかと思うが、まあ、いろいろ事情もあったのでしょう。ファンサービスというものも考えたのだろうし。
 
 僕としては、この手の作品が興行的にもヒットして、次々に作られる事を期待する。そして、この作品よりももっとギャグが多くて、ギャグのために巨費を投じる気運も盛り上がってほしい。ウエットな人情喜劇がこの今の世の中でも評価されてしまう日本だが、この作品のようなドライなスラプスティックがたくさん作られて、今の日本をガンガン笑いのめしてほしいものだ。