うーん。こりゃあ観客を選ぶ映画だなあ。というのが見終った直後の感想。
これはまったくのプライベート・フィルムと言ってもいいのではないか。巨額の製作費を投じ、空前の豪華キャストを動員し、最新のテクノロジーを駆使した、ティム・バートンのティム・バートンによるティム・バートンのための映画。
僕は最高に楽しんで見たが、この面白さは普遍的なものではない。アメリカであまりヒットしなかったのも頷ける。ライバル作品「インデペンデス・デイ」も相当にミョーな映画だと思ったが、この作品を見てしまった今は、あの作品はフツーの映画だった、と言いたくなる。
僕はこの作品が好きである。愛していると言ってもいい。前作「エド・ウッド」は見直せば見直すほど切なく面白悲しい傑作だ。そういうエド・ウッド的世界の最良の理解者であるティム・バートンが『火星人来襲モノ』を撮れば面白いに決まっているのだ。
まず、タイトルバックに登場する空飛ぶ円盤の大群の撮影にノックアウトされた。円盤をま俯瞰で撮影した例があったろうか。僕の知る限りない。
そして、空前絶後の『大人気ない』火星人。異星人に『大人気ない』というのもヘンだが、今までの宇宙人は、悪の存在でも、もっと『もっともらしい意志』があったはずだ。地球侵略とか人類の脳侵略とか……。しかしこの作品の火星人は、ただただ地球人をイジメに来ただけなんじゃないかと思う。「インデペンデンス・デイ」の宇宙人なんか、問答無用で攻撃してきたもんね。本気で地球侵略したいなら、生身の姿を曝して光線銃をバリバリ撃ちまくらないだろう……。地球人がセックスしているのを覗いていひひと笑っているのも悪趣味。
その上、この火星人は、もう、地球人を殺して殺して殺しまくる。円盤から照射する「破壊光線」もあるけれど、戦力の主力は「地球アタック隊員」だ。歓迎レセプションに出席した人、アメリカ議会の人、フランス大統領他最高指導層を殺しまくる。これはもう、みもふたもない。それに、A級のスターがどかどか白骨と化していく。スケルトンになるのを免れたのは、ジャック・ニコルソンとピアース・ブロスナン、サラ・ジェシカ・パーカーだけだ。だけどこの3人も死ぬんだけどね。
この作品中、最高のギャグは、あのいかがわしい『自動翻訳機』ではないだろうか。メモリーが激安になっている今、3インチのオープンリールのテープを巻き戻してガチャガチャやってるのには笑ったし、この一連の破滅劇の最大の原因が『誤訳』にあったのではないかとさえ思う。昔、「黙殺」と言う言葉が「無視」と訳された結果原爆が落ちてしまった例もありましたなあ。後半、火星人が自動翻訳機を首から下げて「我々と仲良くしよう」というフレーズを再生しながらばたばたと殺戮していく悪夢のようなシーンがあったから、翻訳がどうであろうが故意にやってるように見えるけれど……。
ピアース・ブロスナンのもっともらしい学者も最高だ。この作品の中で彼が最もいかがわしくもっともらしい。まあ、インテリのパロディとしていちばん判り安いのではあるが……しかし、天下の007を『宙吊り首だけ人間』にしてしまっていいのか?サラ・ジェシカ・パーカーの『犬女』も強烈だったが。
ニコルソン先生は、これもミョーな大統領をやるよりも、いかがわしさの極みのホテル・オーナーを演じてる方がハマっていたが、両方とも救いようのない人物(この大統領はスピリットがあるのかないのかよく判らん)で、ニコルソン先生、あんたも好きねえという感じ。グレン・クローズは特に見せ場がなくてお気の毒。マーティン・ショートは怪演をする場面があるかと思ったら終始「ストレスから買春に走る報道官」をマジメにやっていた。マイケル・J・フォックスも、あまりいい所なくスケルトンと化してしまった。ロッド・夜の大捜査線・スタイガーは老けましたねえ。しかしこの種の映画の場合、好戦的保守反動軍人がもっとも見識がありまっとうな主張をし筋を通す人物に描かれてしまうのはフシギ。今回も、結果的にはロッド・スタイガーの言う通りに……してもだめだったのだ、やっぱり。
アネット・ベニングはなんだか美人度が増した感じがした。特に口元が上品になった気がしてファンになった。ファンといえば、黒人バス運転手を演じたパム・グリアーの気品に惹かれた。なんかこの人、知性を感じて、いいですね。ナタリー・ポートマンは大人になったねえ。シルビア・シドニーって、まだお元気だったんですね。しわしわのおばあちゃんだけど、可愛く老けましたねえ。リサ・マリーは「人間CG」と言えそうな、現実ばなれした身のこなしを演じきって凄い。あの腕の振り方なんか、人間業ではない。バートンの恋人になると、こういう難しい役をやらなければいけないのね。ポール・ウィンフィールドはパウエル元統合参謀本部議長にクリソツで、しかも「人間こつこつと一つ事をマジメにやっていれば報われるんだ」と苦労人だなあと思わせる感慨を吐露した直後にスケルトン化するのだから可哀想。
で。
核兵器も効かず、万策尽き果てかけた時に偶然から判る『最終兵器』。これがヨーデル調のレトロ流行歌(こういう部分、松竹が作るパンフは細かいタイトルを書いていないから資料価値がないのだ。写真を多用して誤魔化して。東宝系のパンフの方がデータをきちんと載せているし分析とか基礎知識とかが載っていて有益だぞ。松竹、もっとしっかりせんかい!もう30年前から変わらないんだ!)だった、というのは、「キラー・トマト」にも出てくるのかもしれないけど、やっぱりモトネタは誰かが指摘していたように、東宝のX星人でしょう。ある音に弱くてばたばたいってしまうあのチャチさをバートンは巨費を投じて再現していると思う。今回は脳味噌が爆発するし。そう思えば、あのX星人も、そうひどいものではなかったのかな。いや、やっぱりひどかったな。
この作品についての深読みがパンフにあれこれ載っていたが、半分以上がコジツケなのでいやになった。これではまるでティム・バートンがオマージュ作家のようではないか。ニコルソンが二役をやったからって、「博士の異常な愛情」とどう関係があるというの?そういう表面的な事だけを捉えて関連づけるような低能な事はするなといいたい。作品のテーマなりモチーフに係って来なければパロディとは言わんのだよ。
さて。
この作品は、「悪い火星人が攻めてきて地球人が逆襲する」というお話だが、その正統派的作品は、いうまでもなく「インデペンデンス・デイ」だ。あの作品が大ヒットした理由は、極めて直流な作り方をしているので、見ていてスカっとするのだ。
が、この作品はそうではない。ティム・バートンのプライベート・フィルムだという理由はそこにある。彼流の、極めてアクの強いツイストとアイロニーと毒気のオンパレードなのだ。
この手の話は、アンチ・ヒーロー的な作り方をするのはしんどい。「ID4」では飛行機乗りの大統領を無理矢理ヒーローにしてしまったから、話にシンが通った。
こういうお話は、ヒーロー誕生でもいい、ヒーローの成長でもいい、ヒーロー(もしくはその予備軍)が存在し、彼を物語の芯に据えておかなければいけない。この作品の場合、ヒーローたりえる資格があるのは、ルーカス・ハース演じる『ダメ弟』だろう。元ボクサーのバイロンとかトム・ジョーンズ(どうしてこの人なんだ(^_^;)。どうしてこの人が動物みんなに慕われて歌を歌い出すカットで映画が終わるんだ(^_^;))は脇のサブ・ヒーローであって、映画全体を支えるヒーローではない。
が、このルーカス・ハース(以下、役名のリッチー)は後半も後半で、やっとヒーローめいた動きを始めるが、おばあちゃんを助けその際に偶然に知った『最終兵器』を活用し出してからエンドまでが短すぎる。
この手の展開の場合、『水戸黄門プロセス』が絶対に必要だ。つまり、隠忍自重。リッチーはあのヨーデル歌のレコードを軍当局に持ち込んで「これで火星人をやっつけられる!」と主張するが当然ながら相手にされず無駄な犠牲は増えるばかり。で、リッチーが自力で街宣車(アメリカにはないか(^_^;))でレコードを流すと、あ〜らフシギ。で、軍の司令官はきちんとリッチーに頭を下げて……そしてラストで、亡き父親に代わってアメリカ臨時大統領(なんせ副大統領も国務長官も死んでるし、議員は全員スケルトンだもんね)になっている娘(この娘と共闘するシーンも必要)に勲章を貰う……あ。こういう展開にしたら、モロ「ID4」になってしまうぞ。まあ、あの「ID4」も相当におバカな映画だと思ったけど、この作品にかかっては台なしだ。
僕は、ホラ話は贅沢に大仰にデラックスに作らなければならないという主義を持っているが(だって、貧相なホラ話・ハッタリ・デマなんて面白くない)、この作品は誠に贅沢。豪華絢爛。これ以上ぜいたくなホラ話はないだろう。
「ID4」は、かつてB級SFにハマった少年が大人になって、マジメに『あの世界』を再現したと言うべきか。この「マーズ・アタック!」は、同じくB級SFにハマってはいたが、斜に構えるのが身に着いてしまった(それは彼の知性から来る照れだろう)人物の、素直で正直な夢の再現だ。エメリッヒはゲルマン的質実剛健的実直実用的体育会的態度で傑作を作ったが、ティム・バートンは、悩めるアメリカ的軟弱的インテリ的照れ隠し的文化系的態度がそのまま出てしまったのだろう。僕はエメリッヒ的世界は作れそうもないから、あそこまでの脳天の突き抜け方にほとほと感心してしまう。が、バートン的世界は僕に近い。だから彼のエド・ウッドへの思いに触れると切なくなってしまって心の琴線ががらんがらんと掻き乱されてしまう。彼には、ハリウッドで、巨費を使いまくって、これからも極私的商業映画を作り続けてほしい。プライベート・フィルムも、スターが出て見せ場があればメジャー作品になる。クローネンバーグなんかその典型ではないか。がんばれティム・バートン。