監督:グレン・ゴーイ
東京ファンタスティック映画祭前夜祭・アジア映画深夜秘宝館にて
好感の持てる作品。スクリーンの中から『憧れの人物』が出てきて主人公にアドバイスする、というアイディアは、ウディ・アレンがすでにやっている。そのひとつ「ボギー、俺も男だ」はボガートのそっくりさんをスーパーマーケットとか日常の空間に登場させて、「あのボガート様が」と思わせるギャグをも生んだし、「カイロの紫のバラ」はロマンス映画のヒーローが貧しい観客ミア・ファローに恋してしまうという涙無くしては見られない感動の映画だった。
今回は、予算の都合で、じつに慎ましい。ジョン・トラボルタに似ているわけでもない白人が出てくるし、元の映画「サタデーナイト・フィーバー」の一部を使っているわけでもなくて、それに似た映像を再現しているだけだが、こういうのは、『記号』である、とわりきっているのが、逆にサッパリした効果を生んでいる。素直に素朴に、あの時代への共感が湧いてきて、それがこの作品への好感になるのだ。
ダンス映画には、ある種のパターンがある。「サタデーナイト・フィーバー」以前にもダンス映画はあったけれど、この作品は今や作劇のスタンダードになっているのだから、考えてみれば名作なのだ。公開当時は馬鹿にしていて、労働者階級のアンチャンがディスコでウサを晴らす映画だろ、という認識しかなかった。トラボルタがバカ面だし、あのファッションのセンスが何とも言えないし(まあ70年代ファッションのすべてが恥ずかしいのだが)、そしてそして、あの美しくリリカルな歌を歌っていた好青年グループ・ビージーズが、突然非行に走ってだらしない格好をしてオカマになってしまうという衝撃もあった。
とはいえ、あの映画は、かなりの影響を世界に与えたのである。その『事実』を、映画の冒頭でどーんと示して、シンガポールの主人公に視点を合わせる。
今は反映するシンガポールだが、当時はまだそれほどでもなかった。トライアンフのバイクが高嶺の花だった。そこから始まるお話は、実にスタンダードな作りだ。奇妙な逸脱もない。
と、思っていたら、主人公に対するアンチの存在(ダメな兄に対する顔もいいし頭もいいよく出来た弟)でしかなかった弟が、突然「女になりたい」と言いだすのは、ここまで実に正統的に展開してきたから、ショックだった。これはいい。しかも話のテーマから逸脱していない。この作品はミラマックスがアメリカ配給をするようだが、こういう部分に惹かれたのではないのかなあ、と思う。これが無ければ、ただの「アジアのおっちょこちょいがディスコダンスに狂う話」でしかないのだから。
で、主人公は、「トラボルタには似ていないが存在はトラボルタのような映画の主人公である白人」に励まされそそのかされてダンス大会で優勝する為にダンスの練習に励む。パートナーは幼馴染で主人公の事を理解し気にかけてくれているちょっと可愛い娘。が、彼は突然ダンスに開眼し、ディスコの場をさらう見事なダンスを披露する。この感動のシーンは、カットを割り過ぎて、見ずらい。どんなダンス映画でも、もうすこしカメラをすえてじっくり撮っているはずだ。昔のMGMミュージカルの例は出さないにしても、せっかくのトラボルタのキメポーズがカットの彼方に消えていってしまうのが惜しい。ここは、ハッタリをかます部分に向けて収斂していくようなカット割りの工夫がほしかった。ヒトビトの記憶に残っているのは、あの高く掲げた片手でナンバーワンを示し腰をくねらしてポーズを決める、アレなのだから。
そうなると主人公の敵も多くなる。赤いベンツのオープンカーに乗っている、という『記号』だけで「金持ちの御曹司で性格が悪い最低なヤツ」という表現になっている若造のパートナー(これが、南方美人の典型で、ゴージャスな美しさだ)が主人公にチェンジしたのに腹を立てて彼を首にしたり、ダンス大会の当日、手下を使って彼をトイレで痛めつけたり。
しかし、主人公は、勝ってしまうのだ。この辺り、「傷ついてハンディを負っても勝つのだ」というエピソード(練習ではやらなかった新技をいきなり成功させてしまうとか)があると、サスペンスが盛り上がったのではないかとも思うが、この作品はダンス映画というだけではなく、青春グラフィティ映画でもあるから、あまりダンスばかりに関ってもいられない。
で、元の幼馴染の真情も判ったし、弟も救えたし、三年後の世界大会で賞金も得たし、で、主人公はハピーになって映画は終わる。
この手の映画は、こうでなければならない。
正直、シンガポールで映画を作っていた、という驚きがあった(仕上げ関係はオーストラリアに行ったようだが)。そして、音楽が重要な要素なのに、ミキシングに未熟なところを感じたし(ディスコのシーンなどではもっと音楽の音量が大きくてもいい。アメリカ映画や日本映画でも、台詞が聞き取れるギリギリまで音楽のレベルを上げてディスコの喧しさと熱気を表現する)、撮影技術にしても、タイのアクション映画のほうが数段スゴイと思ったが……この作品のいいところは、そういう未熟さすら、「手作りのアットホーム感」に転化されてしまうところだろう。