派手な映画ばかり見ていると、この作品の、日本映画ならではの細やかでセンシティヴな部分を見落としてしまう。
見て、しばらく経つごとに、この作品の良さがじわじわと、しみじみと湧いてくる。
久々の、日本映画の、青春映画の、傑作ではないか。
この映画のこと、思い出すと悲しいもの。
主人公の少年は、少女と傍目にはごく普通の初恋をし、お互いがお互いを好きなのだと知り、幸福の絶頂になり、ついには結ばれる。しかし。
彼は、フェチでマゾだったのだ。普通のセックスでは、駄目なのだ。
しかし、彼女はあくまでノーマルなのだ。普通の17歳の恋がしたいのだ。
ああ。
悲しいではないか。
女の子が惚れた男はホモだった、という以上の、物凄い壁。
少年は、しかし、自分の衝動を抑えきれない。
「ぼくは、犬や。お前の犬や」というときの彼。ロングショットで捉えているから表情は判らないが、その前後の、彼のなんともいえない、切ない顔。
せつない、というのは涙をそそる。
僕はフェチでもないしサドでもマゾでもないが、彼の困惑と苦悩は理解出来る。
自分でもめちゃくちゃだと思いながら、彼は、彼女に虐められる事で『彼女と繋がっている実感』を得る。生きている事、彼女が自分の事を考えている事、を実感する。
哀しいよなあ。切ないよなあ。
が。彼女も、彼に嫌がらせをし、冷たくし、虐めると、「不思議な気持ちよさ」を感じてしまうのだ。
剣道部の先輩と恋人になり、先輩とのセックスを彼に見せる。無理な買い物を命じる。
まー、相手がこんな美少女なら、なにをされてもいい、という気持ちにはなる。
で、今、ふと、冴えない醜い中年が美少女にいたぶられるが中年はますます『もえもえ』になっちゃう、という話を思いついたが、これはモロに「痴人の愛」だね。谷崎はやっぱり凄い。
しかし、彼女としては、そんなことをして快感を感じる自分が嫌だし恐い。そんなことをするのはいけない事だと思っている。しかし、彼にしてくれといわれてはいるけれど……気持ちいい。
滝のある温泉に彼と先輩を呼び出す彼女。
このシーンがもう、切なくて切なくて。
女王様と奴隷の関係を知り、困惑す先輩。この先輩はとてもよい人でスポーツマンらしい公正な人。若大将のようなヒトだ。だからこそ、彼と彼女の異常な関係に困惑し、理解出来ず拒絶する。
しかし彼は先輩の目があろうがなんであろうがひざまづいて彼女の足を舐めるのだ。
ああ。
「私が死のうと思ったけど、どうして私が死ななきゃいけないの、と思った。あんたが死んだらええ」
「うん。死ぬわ。お前が死ねいうんなら死ぬわ。でもな、お前が死ぬまで僕の事忘れんとってくれよ」
ああ、なんと切ない。
結局、この奇妙な関係続いていく事を匂わせて終わるけれども、とっても素晴らしいと思った事がいくつか。
・地味だけど風光明媚な地方都市が舞台だということ
田舎の方が、アブノーマルな人間は住みにくい。すぐ噂になるし、好奇の目が注がれる。そして、アブノーマルは都会の病気だという誤解があるが、そうじゃないんだ、田舎の人間にもアブノーマルはいるのだ、と描いた事。その通りなのだ。
そして、田舎だからこそ、主人公二人の魂の揺れがビビッドに映像に定着した、と思う。
・主役二人が素晴らしいこと
少女を演じた「つぐみ」。彼女は自分が女王様であると意識する前後で顔が違う。前は、清純な美少女で、彼の腕の中で小さく震えているのが似合う花のような乙女なのだが、その後は、顔に妖艶さまで漂う。
で、彼を演じた水橋研一。彼はこの撮影後、ノーマルに戻れたのか、それとも彼自身フェチでマゾなのか、と思ったほど。彼女を見上げる切ない震えるような目がとてもとても印象的で、胸掻き毟られる。監督が言っていた「爽やかだけじゃダメだし変態だけでも困る」というキャラクターを見事に、本当に見事に演じていた。
脚本と演出が素晴らしい事
後半は原作から離れてオリジナルだと言うことだが、その部分がとても映画的だし胸に染みるエピソードの連続だ。
この物語は、フェチ&SMという形を借りているが、男女の判りあえなさ、というものは永遠で普遍のテーマであるから、余計に観る側の胸を、徐々に、ゆっくりとじわじわと掻き毟る。
彼らをキャスティングし、控え目な演技の中に『真実』を引き出し、とても上品に(これは大切な事だ。品良く描くというのはとても難しい)まとめたこの監督の才能と力量は素晴らしいと思う。次の作品を見たい、と熱く思わせてくれる。
この題材で新人が多いキャスティングで、商売のことが心配になってしまうが、地味なのにこんな素晴らしい映画を送り出した日活は褒め讃えたい。この線が続く事を日活には強く強く期待したいと思う。