監督:石井輝男
東京ファンタスティック映画祭前夜祭・アジア映画深夜秘宝館
これは、映画というよりも、映画の形を借りた、また別のもの、という感じだ。私憤あからさまというか、私情丸出し大暴走映画とでもいうべきか。
石井輝男は、『ある事』をやりたくてウズウズしている。それが映画の冒頭からモロに判る。お話のイントロとかなんとかとか、そういう『面倒な事』『どうでもいい事』は完全に無視なのだ。だから、前田通子(!)の閻魔様がある若い女の子に突然声をかけて「あなたに地獄を見せてあげましょう」と言っても、その若い女の子は「はい」と二つ返事をしてしまう。どうせヒロインは地獄を見る事になるのだから、この際めんどうな手続きは大胆に省略して、あなたが観たい・私が見せたい『地獄』を早く始めましょう、ということなんだろう。客席からは、失笑のような笑いが出たが。
で。主に「M君事件」と「オウム事件」が俎上に上げられる。事件の解釈は、もちろん、石井監督の私的なものである。だからM君は「罪を逃れたい為に精神異常を装い」ということになるし、オウム側弁護士は「この三百代言め」と舌を抜かれることになる。
M君事件については、短く描く為に、M君にモノローグをさせて大事な部分を説明させてしまっている。石井監督にとっては、M君事件は腹立たしいし許せる事ではないけれども、詳細に論証すべきものではなかったようだ。この作品は、すべて、オウムを断罪する為にあるのだから。
実は、ヒロインは、オウムの出家信者だった、という設定。で、閻魔様が反省をさせる為に「オウム(映画の中では「宇宙真理教」)のありのままの姿を見せてやろう」ということになる。
映画のサービス的には、このヒロインの女の子は、冒頭で鬼に身ぐるみ剥がれそうになり、キャミソールとパンティという薄物を着たままだ。これが全裸よりもそそるのは、おれが中年になったからか。
それはともかく、サティアンの内部セットが組まれて、教祖と信者との性的関係も見せ、ポアを連発する教祖に盲従しおべっかを使う幹部、という状況をこれでもかと見せる。この辺りの描写は、今までに知られている事実に沿って、かなりリアルに再現されている(と思う)。特に、坂本弁護士一家殺しのシーンは凄惨である。
で、教祖は無間地獄、幹部は焦熱地獄に落とされ、オウム側の弁護士(青山氏と国選弁護人が混同されているようだけど、たぶん、裁判批判の為に、意図的に混同したのだろう)はやっとこでビローンと舌を伸ばされぶち切られる刑。
もちろん、石井監督は、オウムを支持した学者にも容赦はない。
ここまでばっさりやられると、爽快ではあるけれど……。この辺り、場内は拍手喝采だったし、僕もスッとしたけど……国選弁護人の舌まで抜くのは如何なものか、というジョーシキが頭をもたげてしまったのも事実。
なんだか、ボヤキ漫才の過激版を映像で見たような気分だ。
映画会社各社が相手にするのを拒否したのは、この映画はあまりに「石井監督の個人的怒り」が充満していて、映画としては破綻しているように感じるからか。
丹波哲郎先生が、終盤に突如登場して鬼たちをばっさばっさと切り倒して悠然と去って行くのだが、これは、世相を批判した事に「なんちゃって」という姿勢を見せたいから作ったシーンなのだろうか。世の識者の見解を求めたいところである。
ここまで自分の言いたい事をずらりと並べた作品は、やはり、作家の映画、になっているのだろう。
石井監督のグロ趣味は健在で、その意味でも作家の映画なんだなあ、と思わざるを得ないのだ。
ヒロインを演じた佐藤美樹ちゃんは、デビュー作がこれだと、今後、波乱万丈な芸能生活が予想されるが、すでに地獄を見てしまったのだから、恐いものなどないだろう。これからも出し惜しみせずに、頑張ってほしいものである。