ラブ・アクチュアリー
監督:リチャード・カーティス
これが映画だ。しかも、小粋で憎いテイストとウィット溢れたこのムードは、まさにイギリス映画。
トップシーンのヒースロー空港到着ロビーで再会を喜ぶ人たちのスケッチが、この作品のテーマをどんと見せている。この作品は酒落たラブコメではあるけれど、かなり骨太だ。テーマは頑としてあるが、それをストレートに言うのではなく、ウィットにくるんで囁く。ここが、この作品の真骨頂だ。
気に入った秘書にチョッカイを出したアメリカ大統領にムカついた弱腰首相が、いきなりアメリカに宣戦布告しそうな勢いで噛み付いて、一躍国民的ヒーローになるエピソードが最高。ヒュー・グラントが持ち味を出して最高に巧いし、今の国際情勢を皮肉っているし、このキャラクターの気持ちを表しているし、笑わせてジンと来る。達人の芸だ。
濡れ場のスタンドインの二人のエピソードも泣かせる。スタンドインなんかマトモに扱われないから(日本映画にはこの役職すらなく、助監督がやったりする)、彼らの屈折はよく判る。そして、延々続くライトセッティングの間、とても暇な事を知っているから、無名の役者なのであろうこのキャラクターの心情が実によく判って、ほろほろ来る。
妻を亡くした建築家(?)のエピソードもぐっと来る。何か話していて突然感極まって絶句してしまうあの感じ。そして、妻が遺して行った「連れ子」との微妙な関係。それが男同士のいい感じになっていくのは、ささやかだけれど心に残る。リーアム・ニースンが繊細なところを見せるだけでもほろほろ来てしまう。
親友の新妻に惚れてしまって困り果てる男のエピソードもいい。その新妻がとびきりの美人で、しかも性格も良いと来れば、親友の妻なら奪って逃げるわけにも行かないし。
作り手が一番感情移入しているのは、コリン・ファース演じる作家だろうか。弟に恋人を寝取られて傷心を抱えて南フランスで仕事をする。この作家が、「文学者」ではなくB級アクションを書いている、というのが実に愉快。
アメリカではイギリス男がモテるんだ、と激しく思い込んでミルウォーキー(ニューヨークでもなくロサンゼルスでもないのが愉快)に行った男が、夢に描いた通りモテモテになるのは、夢オチかと思ったら本当の事だったと言うのも愉快。
ローワン・アトキンソンが天使と言うかキューピッドと言うか、そんな感じで出てくるのが秀逸。このオッサンだからこそ、味わい深い。
あと、カムバックしようとクソみたいな焼き直しを歌って開き直る老ロッカーとか、心に残る話の中で、アラン・リックマンとエマ・トンプスンの話だけが平凡だったのはどういう意図があったのだろう?
監督のリチャード・カーティスは喜劇の分野での功績により大英帝国上級勲爵士を授与されていると言う事は、「サー」なわけ?
それはどうでもいいが、コメディに優れた才能は、人間の機微をとてもデリケートに描き出せる。人間観察しているからコメディが書け、それゆえに人間の機微に通じるからだろうか。
とにかく、脚本も書いたこの監督の手腕には舌を巻く。オフィスやアパートの中の「感じ」がこれまでの作品に共通するセンスを感じるが、ここらへんにも強烈な作家の自己主張を感じる。そういう強いものを持ちながら、作品はデリケートで「北風と太陽」の太陽のように穏やかな語り口。エピソードの絡み合い方も絶妙だし、美男美女を排して普通の人の風貌を持つキャスティング(ヒュー・グラントとか美人の新妻とか例外もあるが)も見事。素晴らしいとしか言いようがない。