プロデューサーズ

監督:スーザン・ストローマン

 最初の方の「プロデューサーになりたい」というナンバーで、この映画のトリコになった。会計事務所で夢想しているマシュー・ブロドリックが、「雨に唄えば」のジーン・ケリーのように、「ブロードウェイ・バレー」のナンバーのように、歌い踊るのだ。しかも嬉しい事に、タップを踏んでくれるではないか!
 最近のミュージカルがつまらないと言うか食い足りないのは、タップがないからだ。おれが生まれて初めて見た舞台ミュージカルは「ラ・マンチャの男」だったのだが、当時の染五郎は踊らなかった。真面目なミュージカルだからタップは出てこないし。その後見た「レ・ミゼラブル」も「オペラ座の怪人」も「ミス・サイゴン」も踊りがない!「ウエストサイド物語」はジェローム・ロビンスのモダンダンスはあったけど、ジェット団もシャーク団もタップは踏まなかった。
 そうなんだよねえ。舞台のミュージカル(それも日本で上演されるもの)はみんなマジなものばかりだから、50年代MGM映画みたいな、タップが似合うミュージカル・コメディみたいにできないもんねえ。
 映画では、アステアの優雅なタップを観、ジーン・ケリーのアクロバティックなタップを観ているから、このギャップは激しかった。
 おれが心から尊敬するアドルフ・グリーンとベティ・コムデンが作った、心から楽しいミュージカル・コメディはどこに行ってしまったのだ。映画で観るしかないのか。

 だから、マシュー・ブロドリックがステッキを持って、「アクロバットをしないおとなしいジーン・ケリー風」にステップを踏む姿と、きらびやかなダンサーズがわっと出て来て電飾もバッチリなステージで歌い踊るその光景に、おれは「ああ神様!」と思いましたね。これは新作なんだぞ!

 68年版の映画は、その当時が舞台だったから、この作品も時代設定は現代なのかと思っていた。しかし、50年代にしたのは、こういうオールド・スタイルの、タップダンスを盛大にやるからだったのか!
 大いなるサプライズの、ユマ・サーマンの優雅な唄と踊りを観よ!嬉しくて涙が出るぞ。ユマ・サーマンとマシュー・ブロドリックの事務所でのナンバーは、アステアとロジャースのコンビに例えられているが、これは「バンド・ワゴン」のアステアとシド・チャリシーでしょう。背の高さの違いといい、踊りのタイプの違いといい、「バンド・ワゴン」のホテルでの和解からセントラル・パークでの一連のシーンを髣髴とさせる。お見事。うっとり。

 もちろん、ネイサン・レインも素晴らしい。エネルギッシュな熱演で、アメリカにはこういう役者の伝統は絶対に絶えないんだなあ、凄いなあと心から思う。

 前半の見せ場は、上記のユマとマシューのナンバーと、驚くべき大量の老婆を出現させて踊らせた、ネイサン・レインとのナンバーだ。五番街を通行止にして撮影しただけあって、その映像はワクワクものだ。

 で。金は集まり最低な脚本に最低なスタッフ(この演出家との顔合わせの場面も、極めてナンセンスかつ、役者の達者さが素晴らしくて溜め息が出る。オカマの演出家ロジャーを演じたゲイリー・ビーチは、すべてのポーズがキマって、そのキマリ方がタダモノではない)が揃って、いよいよ初日。
 ここまでは68年版の映画に驚くほど準拠している。もっと変わっているのかと思ったが。まあ、68年版はジーン・ワイルダーとゼロ・モステルが主役で、演出もアクが強過ぎて、辟易する部分もあった。それが、今回は、マシュー・ブロドリックのナイーブで可愛くて上品な持ち味と、ネイサン・レインのエネルギッシュさはゼロ・モステルの系譜だが、脂ぎり方がもっとスマートな点で、旧作よりも上品というかバランスが取れて、いい感じになっている。ここまでは絶対にこの作品の方が素晴らしい。

 で。ついに「春の日のヒットラー」(「ヒトラーの春」)の幕が開く。旧作でも、もっとも力が入った、圧巻のナンバーだ。
 このレビューの全体の構成は旧作と同じだが、旧作の方がチープで、その分、いかがわしさが漂って、しかもシャープで簡潔で、そのうえ、ルーティーンの踊りの要素がすべて詰め込まれていて大いに笑えた。
 この作品の、このレビューの場面は、いっそう金をかけ、ダンサーを増やし、踊りを洗練させ、長くした分、上質にはなったが『最低』ではなくなって、一長一短の感がある。
 旧作ではオカマのヒトラーがゲッペルスと絡むコントのようなスケッチがあったが、今回はヒトラー自身に歌い踊らせて、1幕1場のレビューショーに仕立てた。これはこれで素晴らしいし、例の「バスビー・バークリー風ハーケンクロイツの踊り」もパワーアップされているし。ただ……「the springtime of Hitler and Germany」と歌った後、チャンカチャンカと合いの手がはいるところで、旧作はもっと下品に腰を揺らしていたのが、今回は全体に上品になって、その分、バーバルなパワーが減ったように感じたのが惜しい。
 とは言いつつ、ラストで、舞台の上から落下傘部隊がわっと降りてくる趣向には、参りました。

 ショーが大成功すると破産する。ユマとマシューはリオに逃げ、ネイサンだけが捕まって、裁判。ここで小生、オシッコが我慢出来なくなって一時中座したが、予想通り、その裁判にマシューが現れてネイサンを弁護。二人揃って実刑を食らってシンシン刑務所へ。
 その中でも同じ手口で出資を募ってショーを準備中というのは旧作と同じ。旧作はここで終わったが、今回はその先がある。刑務所の中で準備していたショーが、突然の二人の恩赦でブロードウェイにかけられてそれが大ヒット。二人は名実ともに大プロデューサーになったのでした、というめでたしめでたしなエンディング。

 その上、長い長いエンドクレジットにも趣向があって、ラストのラストまで見逃せない。

 最終日の最終回で見てしまった事は、大きな失敗だった。あと2、3回は見たい。大スクリーンで見たい。

 ニューヨークに、大きな撮影所が新しく出来て、これがその第1回作品らしい。以前、クィーンズにはアストリアという撮影所があったのだが、狭いし古いし、敷地の半分は映画博物館になってしまったしで、新たに規模の大きなモノが作られた。ブロードウェイの街はセットで再現されて、それがまた、夢の世界と言う事を表現していて、素晴らしい。

 旧作と比較して、ちょっと不満も感じてしまったが、この作品を何回も見れば、こういうふうに変更した利点も判ってくるはずだ。そう思うと、もっともっと見たくなる。

 この作品には、「雨に唄えば」「バンド・ワゴン」といった50年代MGMミュージカルの最良の部分が詰まっている。懐かしくてエキサイティング。懐古趣味に終わらず、激しく現代。まったく素晴らしい作品だ。

 メル・ブルックスは、コメディ映画で一世を風靡したけど、もう過去の人になってしまったのかと思っていたら。この人の天才とバイタリティを感じる。
 あっちのスゴイ人は、スゴイ。そして、役者もスゴイ。マシューもネイサンもユマも凄いけど、ゲイリー・ビーチやロジャー・バートも凄過ぎる。

 ミュージカル、それも、タップをふんだんに踏むミュージカルは、アメリカが発明した、アメリカ人にしか出来ないモノだ。
 そして、芝居がハネたあとの、劇場街の興奮。あの活気に満ちた、夢のような街。くそう。また行きたくなってしまった。
 歌舞伎も素晴らしいしオペラもスゴイ。しかしミュージカルもスゴイ。世の中には、素晴らしいモノが山ほどある。それに触れられるのは、生きているからこそ。
 命ある事に、感謝したい。