題名 :フォールームス

監督 :アリソン・アンダース/アレクサンドル・ロックウエル/ロベルト・ロドリゲス/クェンティン・タランティーノ 

 ブラックコメディで一番大事なのは、『人でなし』だと思う。善良な(観客の常 識を代弁するような)主人公がとんでもない目に遭って、メタメタにされるのを見 て喜ぶ、というのがブラックコメディの基本だとすると、第1話は失敗している。
 まず、ティム・ロスに下手なジム・キャリーの真似をさせてはいけない。あくま で善良で真面目なドアボーイが騒動に巻き込まれてひどい目に遭わなければいけな いのに、これではもともと珍妙で馬鹿なボーイが妙な事に巻き込まれるだけの、あ まりうまくないコントだ。オムニバスの第1話なんだし、共演者のボルテージもア クも弱いので、ティム・ロスがここまで作った芝居をすると浮いてしまうだけだ。 この監督は、もうすこしコメディのABCを判ってほしい。魔女の儀式に精液が要 るからって、だからなんだ?と思ってしまう。
 第2話は少しマシだが、まだまだだ。第1話と同じ理由でダメ。共演者のアクが 弱いから、まだティム・ロスが空回りしている。彼の行動もよく判らないし。ただ 笑えたのは、奥さんが男性器の名称を際限なくあげ続けるギャグ。シグフェルド役 の男優がコワモテでやっているが、徹底度が足りないので、パワーがイマイチだ。 押され続けていたティム・ロスが反撃に出たらころりと態度が変わるという定石 も、あまりにマンマすぎる。定石はひねりを加えないと生きてこないのだ。
 で、第3話。
 これは傑作である。まず、アントニオ・バンテラスのテンションがモーレツに高 くて、ラテン男のヤクザぶりがもう、濃い濃い。カルピスの原液を一気飲みしたよ うな気分だ。バンテラスも悪乗りしてもうノリノリである。短編の場合は、このよ うにのっけからテンションが高くないとダメだという見本だ。これならティム・ロ スも浮かない。心無しか彼の芝居もナチュラルに見える。
 で、この話は、短編コメディのお手本のように巧妙に手を打っている。バンテラ スのクッサイこわもて男ぶりをのっけに売ってあるから、彼がカッコつけてたばこ を吸うだけで、ドアを開けるだけで笑いが取れる。こう来なくてはいけない。夫婦 でいったん廊下に出てまた部屋に戻るのも彼の執念深さを笑いに転化出来てるし。 エレベーターの中でのくそオーバーなキス!
 で、ワルガキが「足が臭い」とお互いをいびるのも伏線になってるし、テレビの エロ番組にこだわるのも、その後のカタストロフを生かす為にうまく使っている。 「用がなければ電話するな」というティム・ロスとの掛け合いもルーティーン・ ギャグとして見事に機能している。定石とはこう使うのだという見本である。
 で、ベッドマットの中にある死体のえげつなさと言ったら……。死体で笑いが取 れるのは、ブラックコメディとして大成功している証拠だ。
 そして、コワモテの夫婦が大オーバーに帰って来る……。もう、ここからの展開 は見事の一言。部屋の中でのエスカレーションを最高にうまくやっている。きつい アルコールにタバコの火は引火するわ、注射器が刺さるわ、死体は目を剥いて転 がったままだわ、火は余計に燃え広がるわ……。コワモテパパの目線での部屋の中 のフルショットが、もう、絶品だ。
 コメディは、リズム。運動神経なのだ。理屈では作れない。ロベルト・ロドリゲ スは、体で、皮膚感覚でコメディが判っている。1話2話が頭で作っているのとは 大違いだ。ロベルト・ロドリゲス……恐るべし。
 そして……トリはタラちゃん。タラちゃんのアクの強さは、並みの俳優では太刀 打ち出来ないから、ティム・ロスはここでもバランスが取れて安心して見られる。 こういうことなんだよ。キャラクターのバランスというのは。
 第2話でも出てきたジェニファー・ビールスが、とんでもなく美しい。うーん。 「フラッシュ・ダンス」の頃より格段に美しくなっている。妖艶といってもいい。 第2話では猿轡をされていたからイマイチ美しさが判らなかったが、この第4話の 彼女は美しい。その上、タイトルには出ていないが、アメリカの今泉慎太郎ことブ ルース・ウィリスも出てくる。ニューヨークにいる女房と電話で喧嘩してると言う 楽屋落ちギャグ。タラちゃんはわがまま一杯で「誰がこのクリスタルの栓を開け た!気が抜けてるじゃないか!」って暴れまくる。
 第3話は短いカットで責めまくるが、タラちゃんは長いショットで「しゃべく り」をじっくりと撮っている。これがまた……ラストを実に効果的にしている。 なんだかんだとティム・ロスを丸め込んで、「ライターの火が10回連続で点かな かったら指を切る」役を引き受けさせる。で、普通なら、10回まで引っ張ってハ ラハラさせるつもりかと思うじゃないですか。しかし、1回目で「すかっ……」ガ キッ!ぎゃあ!ばさばさとカネをかき集め逃走するティム・ロス。この急転直下の 速いカットは、もう、見事。笑い前にため息が出る。やっぱり、この4人の中では 先輩格のタラちゃん、余裕がありますな。このドタバタを効果的に見せる為にわざ と長回しをしていたというのも、「やるじゃん」という感じだ。というか……タラ ちゃんの、「どう?やったろ、おれ。どはははは」というニクイ笑顔が見えるよう ではないか。
 このラストの素晴らしさがあるゆえに、僕はこのオムニバス、最高の出来はこの 第4話ということにしたい。
 第1話がメタメタで、第2話がまあまあ。第3話で座り直して爆笑して感心し、 第4話で息を飲んだ。
 監督賞は……ロドリゲスさんでしょうか。脚本賞はタラちゃんかな。男優賞は、 文句なく、バンテラス。女優賞は、ビールスさん。
 まあ、インディーズと言っても、映画感覚と格の違いが如実に現れてしまったよ うな……。というか、ロドリゲスとタラちゃんが図抜けて凄いのでしょうな。