シービスケット
監督:ゲイリー・ロス
大恐慌時代の競馬の話、と理解していたので、特に見る気がしなかったのだが。
これはノノなんという素晴らしい作品なのだろう。地味だし、派手なスターも出ていないし、波乱万丈のストーリーもない。いや、登場人物にとっては充分に波乱万丈な物語なのだが。
しかし、ひたぶるに身に染みて、しみじみと感動する。
どうして大恐慌が起きたのかは理解出来るのだが、その後どうしてたくさんの人が破産したり職を失って、お金持ちが一夜にして浮浪者になってしまったのかが長年判らなかった。いろいろ調べて判ったのは、当時は「株の大ブーム」で、株価は右肩上がりのバブル。それが過熱した結果の大恐慌だったのだが、人々は靴磨きに至まで貯金すべき金を、いや、借金してまで株につぎ込んでいたから、大暴落が起きた時、一文無しになってしまったと。そればかりか借金まで背負い、株価の暴落で資金繰りが困難になって倒産した会社の社員は失業。
ほんの少し前までのアメリカの社会は過酷で乱暴だった(いや、今でもそうだろう)と思う。
その時代の物語。破産した富豪の息子は苦労に苦労を重ね、なんとか生き残って資産を維持した男は愛息を事故で失い妻も失い、天才的な調教師なのに一人森に住む男にも暗い過去がありそうだ。そんな三人が、これまた苦労に苦労を重ねた馬「シービスケット」を介するように出逢い、それぞれの「敗者復活」の夢を馬に託す。
足が折れて射殺されそうになった競争馬を救った調教師が「価値がなくなったからと言って命を奪う事はないじゃないか」と言う、そのセリフが後々まで三人の行動を象徴するようなキーワードになっていくのも感動的だし、何より感動して感心したのが、ワンカットで決めてしまうその演出。資産家が愛息を失った悲しみを、長々と描かないで遺骸を抱きしめるワンカットで表現してしまうし、天才調教師がシービスケットと破産した富豪の息子と同時に出会って同時にそれぞれの使い道を閃く下りも、切り返しを含めてわずか3カット。「これが映画だ!」とおれは叫んだね。カットとカットの間にある行間と飛躍。それこそが映画の快感であり、省略の芸術であるのだ。
そしてまた、出てくる役者がみんな味わい深いではないか。資産家のジェフ・ブリッジスは温かな男を滋味溢れる芝居で表現した。あの「ファビュラス・ベーカー・ボーイズ」や「ビッグ・リボウスキ」のあのジェフ・ブリッジスとは思えないほど、しみじみとひたぶるに身に染みて、物悲しい。実に素晴らしい。ポール・ニューマンに次いで、神話的スターの域に達したのではないか。
そして、天才調教師役のクリス・クーパー!「アメリカン・ビューティー」の隣人とはまた別の味を見せて、まるで「導師」のような役どころであり、聖人のような男を、これまた見事に演じきっている。
エグゼクティブ・プロデューサーでもあるトビー・マクガイアも光るけれど、上記の二人の圧倒的存在感に比べると、印象が隠れてしまう。でも、ライバルであり親友のジョッキーとの深い友情のシーン(これも短く的確に表現している)が、これまた感動的だ。
ノンフィクションが原作だが、その原作の一部分(なんだろう)をナレーションにしていて、その控えめな扱いが、余計に感動を誘う。
ゲイリー・ロスと言う監督については何も知らなかったのだが、上記のような巧みな演出は、映画表現の本質を突いていて、見事と言うしかない。短な表現は脚本上にあったことなのか編集で狩り込んだのか判らないが、どっちにしても素晴らしい。しみじみと素晴らしい。