題名 :セブン 

監督 :ディヴィッド・フィンチャー

 見たのが3日前だが、すぐには感想を書く気になれなかった。
 最初の印象は、『不快』の一言だったが、時間が経って印象が発酵して来るにつ れていろんなモノが見えて来た。ここまで考えさせられて、見たあとの『処理』に 時間を要する映画も珍しい。ある意味で、「2001年宇宙の旅」と同じ様な地位 を占める作品ではなかろうか。
 積極的には認めたくはないが、傑作である。たぶん、映画史上に残るのではある まいか。
 フリッカーが出て撮影に失敗したようなタイトル文字。これが、この映画を象徴 している。感情・感覚・感性を掻き毟る。
 ラスト・シークエンス以外ずっと降っている雨。なぜか明かりをつけずにハンド ライト(日本語を忘れた(^^;))のみの明かりで見渡していく室内。激しい手ブレを 起こすカメラ。シネスコならではの横長を生かして作り出す不安定な構図。時折入 るサブリミナル映像(2ヵ所は判った。映画の編集を知ると現場を離れても1コマ の感覚は鋭敏になったままだ)。
 映像のヒトコマヒトコマを見逃すまいと、息を詰めて見る事を強いられるし、ど うしてもそうなってしまう。これほど観客に緊張を強いてしまう作品も珍しい。傑 作たる由縁である。おかげで、のっけのデブの死体が呼吸をしたのも見逃さなかっ たが(^^;)。
 意地悪く見れば、聖書とかを持って来ると、ただのサイコホラーが高級に見えて 来るじゃん、と思わないでもないが、脚本を書いた当人がニューヨークのタワーレ コードの店長、というのがミソだ。僕もそれに類したバイトをした事があるが、世 間の汚い面を見る事を強いられる日々を送っていると「神も仏もないものか」と言 う心境になって来る。で、その店長はその思いを脚本に昇華出来たが、犯人はそう ではなかった、と言うべきか。
 元FMOVIEのメンバーの須賀さんがパンフに書いてあった古典についてはまるで 教養がないのでよく判らないが……。
 ただ醜いデブだとか、美人を鼻にかけてるとか、性病持ちの娼婦というだけで殺 されるのはたまらん。強欲の弁護士とかは死んでもらっても一向にかまわないけど ……。
 この作品の思想的部分は、実は、演出の成果で『意味深』になっているのではな いか。他の監督が他のキャストで(たとえば刑事をマイケル・ダグラスとマイケ ル・J・フォックス)やれば、がらっと印象も違うだろう。「7つの大罪」をキー ワードにするというふうな手法は、クリスティを持ち出すまでもなく古くからやら れていた。まあ「7つの大罪」は初見参だろうが。普通の派手なアクションスリ ラーとしてつくることも可能だったのだ。その場合はラストの処理は大幅に変わっ たろうが。しかしそういう作り方をしていたら、この作品がここまで観客にショッ クを与え見てからしばらく尾を引く出来にはならなかったろう。
 この作品を見る限り、世も末だと思うし、こんな地獄のような世界は叩き潰すし かない、と思えないこともない。そういう世界を歪んでいると思わずに生きている 人間はハンマーで叩かないといけないと思えない事もない。しかしながら、世の 中、そう捨てたものでもないし、最悪でもない。デブであろうが強欲であろうが美 人を鼻にかけていようが娼婦が性病を持っていようが生産的でない変態であろう が、別に自分に迷惑な存在でなければいいじゃないの。しかし……と考え出すと、 無限ループになる。
 ブラッド・ピットとモーガン・フリーマンは最高の演技を見せた。この二人の キャラクターの造形(脚本・演出)も立体的で、ただの熱血刑事、ただのベテラン 刑事に終わっていず、それぞれコダワリがあり筋を通す性格がよく判る。それが人 物造形に深みを与えているし、この二人も見事に消化して立体的なキャラクターと して演じ切っている。モーガン・フリーマンの存在は、この作品のテーマに通じる 最重要なポジションだが、それを見事に、かつ魅力的に演じているのに僕は感嘆し た。
 ブラッド・ピットの刑事の妻も、細かく描写されているので、重要なポジション なのだろうと思っていたが……予想される展開だとは言え、実にむごい。しかし、 『あれ』が入っていた箱は、軽すぎないか?あの運送屋は軽々と持っていたが、 『あれ』はずっしりと重いんじゃないのか?まあ、『あれ』本体ではなく、パーツ が入っていたのかもしれないが……(^^;)。

 とにかく、この作品は、1回見ただけでは作品中に込められたメッセージ・仕掛 けをすべて消化出来るはずがない。あと数回見なければなるまい。そして、不快さ を突き抜けたところに見えて来るものがあるはずだ。
 そのあまりの重層的な作りに、僕は圧倒されて感嘆したままだ。「リケンのふえ るワカメ」をそのまんま飲み込んで、胃の中でぶわっと増えてしまったような胃の もたれを感じている。まあこれほど見終ってぐったりと疲れ果てた作品もそう多く はない。
 「エイリアン3」は見ていないが、このフィンチャーという監督は、タダモノで はない。また次の作品を見たいが、新作を次々作ってほしくない(^^;)。5年に1本 程度で結構。毎年新作を見ていると、こっちのアタマが冒されてしまいそうだ。