ヴァーホーヴェンは世界一の悪趣味な監督かもしれないが、馬鹿で単細胞ではない。だから、この作品も非常に身も蓋もなくておぞましい度100%なのだが、戦意高揚のせの字もない。この作品を見て、右翼だの戦争賛美だのというヒトは存在するはずもないと思うが、もし仮にいるとしたら、その人は相当に感受性に乏しいと思われる。
まず、この作品は、ヴァーホーヴェンが意図したかどうかは別にして、軍隊の『新兵さんいらっしゃい』PR映画の痛烈なパロディになっている。新兵募集のPRは万国共通に、ひたすら軍隊の任務の崇高さをヒロイックにうたい上げる。この作品に登場するのはインターネットのようなネットワーク画像とおぼしいが、中身は同じ。
かつて「アトミック・カフェ」というこれまた痛烈な映画があったが、その中で引用される軍のPR映画(というかこの映画は全編軍のPR映画の再編集なのだ)と同じタッチなのに感心した。
ヴァーホーヴェンは「ロボコップ」でも、近未来のニュースショーとCMのパロディをやっていたが今回は、それが全編になったと思えばいい。
しかし。まともな神経を持っていれば、地球連邦軍に志願する者はいないだろう。
この映画が想定する未来は、軍による独裁国家(民主主義の否定に立脚する)らしいが、前半の軍隊訓練のシーンで、僕などは「ああ、平和で良かった。軍隊には絶対行きたくない」と思ってしまう。そしてちらりとキューブリックの「フルメタル・ジャケット」が浮かんだ。
考えてみれば、悪趣味で身も蓋もないヴァーホーヴェンと脚本家のエド・ニューメイヤーが、近代戦、特に白人対黄色人種の戦争であった太平洋戦争・朝鮮戦争・ベトナム戦争をイメージしなかったといえば嘘になるのではないか。この作品の敵は巨大オバケ昆虫であるから極めてデフォルメされているが、アメリカ軍の兵隊から見ると、バンザイ・アタックして来る日本兵、ウンカの如く湧いて来る中国・北朝鮮兵、ゲリラ戦に長けてジャングルのどこにいるのか判らないベトコンと、人間の感覚では計り知れないエイリアンをWイメージさせているのではないか。……たぶん、戦争に参加したアメリカ兵たちはきっとそう思っているだろう。
そういうふうな感じがあるから、僕は、ベトナム戦争のイメージがちらついた。そしてきっと、戦場はこうだったのだろう……。
パンフに監督インタビューが載っていて、「CNNは政府側から映像を撮っているが、例えば湾岸戦争の映像は、イラク側から撮ればうんと違ったものになったのではないか。私はそっちの側の映像を撮りたかった」と言うような事を語っているが、まさに、その演出意図は100%以上達成されている。
SFとはいえ、これほどまでに惨たらしく(バリバリ機関銃を撃っている兵隊の首が、ワンショットで切断され飛んでいくのだ。小技だが、心底驚きましたね)残酷に描かれれば、どんなものであれ、戦争はイヤダと思う。そして、「お国(地球)のためなら命なんか」とヒロイックに言い放ってしまう主人公たちは、軍国教育を受けた結果か、と思うと、つい数十年前の我が国を思い出してしまう。戦争はイヤだし軍国主義もイヤだ。
ペキンパーの秀作「戦争のはらわた」も、その残酷描写で、見たものは「戦争は絶対ゴメンだ」と心に誓ったはずである。この作品もその効果は抜群である。平和団体はこぞってこの作品を推薦して必見作品に指定しなければならない。タテマエとお題目だけの反戦映画より、この作品を見た方がどれだけ反戦意識の向上に役立つ事か。
そう考えると、ヴァーホーヴェンは、悪趣味かもしれないが(しつこいね(^_^;))、並み大抵の監督ではない事がハッキリする。やはりヨーロッパの知性というものは侮れないのだ。一筋縄ではいかない。映画が(映画の中の政府のメッセージである)戦意高揚を高く歌い上げればあげるほど、主人公たちがヒロイックに燃えれば燃えるほど、兵隊たちが勇敢に戦えば戦うほど、無残に散れば散るほど、勝利に喜べば喜ぶほど、気分は暗くなり、鬱屈してくる。心の中に重くて苦い澱がたまる。ちらりと登場するテレビ(インターネット?)・キャスターが「この戦いは人類が先に手を出したという見方もありますが」と言っているから余計にそうだ。ハインラインの原作がどう描いていたかは知らないが、この辺りの目配りはさすがである。極悪非道な冷血昆虫どもが善良な人類に襲いかかる、という単純な構図ではない事を(しかし政府=軍管制下の報道ではまったく触れられていないが)たった一言で判らせるのだ。
この作品は、逆説的反戦映画の傑作なのである。たぶん、この鮮やかでパワフルな逆説ぶりはキューブリックの「博士の異常な愛情」と並び賞せられる事になるだろう。
キャストは、ほとんどが新人。だから、主人公・リコのイカレポンチさ、カルメンの性悪女的魅力、デイジーの不良女ぶりがハナについて、出来の悪いバカどもの映画か、と思ったほどだ。
が、この作品はヒーロー逆転劇(「ジャガー・ノート」などで鮮やかな先例あり)のようなヒロイン逆転劇のようであり、正統派ヒーロー劇だ。カルメンとデイジーの立場が逆転したかと思いきや、やっぱり元の鞘に収まるし、主人公・リコは、この作品の世界ではまっとうなヒーロー成長劇に成りきっている。が、その根幹には、強烈な風刺と批判精神があるのだ。
映画の作りがまったく正統的な戦争映画(たぶんこの手の映画は第二次世界大戦中量産されたはずだ)であればあるほど、批判精神が浮きぼりになる。その意味で、繰り返すが、ヴァーホーヴェンの手腕は見事というしかない。
で。
敵の巨大昆虫軍団は、実におぞましい。このおぞましさを前にしては、「もしかして人類の方が悪いのかも」という疑問は吹き飛んでしまう。
その意味で、敵を昆虫にしたのは大正解。これ以外の敵はいない。とにかく、昆虫の気味悪さといったら、ない。例えば、突如凶悪になったゴキブリが大挙して人間を襲いはじめるという映画を想定しても鳥肌が立つのに、この作品に出てくる昆虫は、ゴキブリの数億倍凶悪でデカくて強いのだ。まあ、なかなか死なない、というイメージは、殺虫剤をこれでもかと撒いてもこっちに向かって来るゴキブリのイメージそのものだが……。
ロングショットで、無限に登場する昆虫軍団のあのおぞましさといったら!
そして、人間を刺して振り回す、あのショットの惨たらしさといったら!
カルメンが心惹かれている名パイロットの脳味噌が吸い取られる(しかもすぐに吐き出されてしまう(^_^;))ゲロが出そうな残酷さといったら!
いや、ゴキブリの白い腹とそこから生えている脚がわじゃわじゃと蠢くあの感覚をもっと映像化したり、ゴキブリが死にかけてもわじゃわじゃと動くあのサマをもっと取り入れれば、もっともっと気味悪くなったろうが、それでは客が来なくなる恐れがある。今のままでも充分に悪趣味で気色悪い。僕なら、あんな敵と遭遇しただけで失神してたちまち餌食になってしまうだろう。
考えてみれば、あんな強大な敵と戦うのに、生身では非力な人間が、どうして海兵隊みたいに敵の惑星に降り立ってマシンガン程度の武器で戦おうとするのか不思議だし、あれじゃ負けるでしょ、と言いたくなるのだが。だって人類にも、「ニューワー弾」とかいう超強力な爆弾があるではないか。それに、核攻撃すればいくら地底に隠れていても、敵は死んじゃうんじゃないのか?
そして親玉のあの肥大した芋虫みたいなヤツのリアル感が、弱いのが難といえば難なのだが……。
とはいえ、上記のような不満や文句は、この作品の持つ毒と批判精神と巨大昆虫の圧倒的迫力を前にすれば、何と言う事もない。文句あるなら作ってみろ、である。
日本においては、同時期に「エイリアン4」があったのが残念だった。「エイリアン4」にはアートの香りがあり、同じブラックユーモアとシニカルさでも、おフランスのエレガンスが感じられて、それが救いになっている部分があったが、この作品は、もう、なんと言っても、これでもかというくらいのリアルなおぞましさと残酷さでゴリゴリと押して来る。救いも何もない。現実の戦争に救いがないのと同じくらいに。これがヴァーホーヴェンの力量だし持ち味なのだが、女性には受けないタッチだと思う。男にだって……やっぱり、彼らは肉食人種なんだなあ……。