個人山行その11 日留賀岳・鹿俣山・男鹿岳

平成13年4月21日〜22日

日留賀岳(ひるがだけ)鹿又山(しかまたやま)男鹿岳(おがだけ)

栃木県の塩原温泉の北方、那須連峰の西側に男鹿山塊といわれるヤブの山を皆さんはご存知だろうか? 最高峰の大佐飛山(1908m)をはじめとして日留賀岳(1848m)、鹿又山(1817m)、そして男鹿山(1777m)からなる山域である。スキーやトレッキング、ペンションやテニスで通年賑わう那須高原とは対照的に、山深くひっそりとした地味な一帯だ。塩原から一番近い日留賀岳でも、登山口からの標高差1300m、往復9時間を要する行程が、なお「知るひとぞ知る山」のイメージを醸し出しているのだろう。

そんな地味な山域を好む職場登山クラブの先輩に誘われて、山玄人の山の楽しみ方を教わってきた。今回のメンバーはMさん(53)、Oさん(44)、女性のTさん(52)、と僕(25)の4名。「キョムの夏山登ろうコーナー」ですっかりコーチ気分になっていた自分だが、この一泊二日は山の先輩に色々なことを教わり、体力的にもかなり辛いものであった。とくに日留賀岳以北はガイドブックにも登山コースが載っていなく、藪こぎの続く険しい道であり、『MWV』(各ピークに登頂記念あり。明治大学ワンダーフォーゲル部だろうか?)がリーダー養成合宿を行っている人里離れた静かな山々であった。

4月21日(土)、家をでること2時間あまりで那須塩原インターに到着。 国道400号線で塩原の温泉街を抜ける。そこから箒川にかかる一本目の橋を右に折れて5分ほど林道を走ると右手に日留賀岳を指す案内がある。両側に畑の広がる道を2分も行くと民家が見えるので、そこが登山口となる。アスファルトに整備された駐車場に車を置かせてもらい、登山の支度をしているとここのご主人である小山さんが話しかけてくれた。ご主人が作られた詳細な登山案内図をいただき、無償で駐車場を提供してくださる好意に感謝をして登山の支度を整える。午前8:10の出発となった。小山氏宅からは竹林と松林の続く裏山のような登山道が続く。マツボックリを時には踏んづけながら最初はゆっくり呼吸を整えるように朝の空気を浴びる。天気は雨こそ降っていないもののガスがかかっている。今日はあまり展望は期待できそうにない。それでも、未知の山を登るフロンティア精神で僕の心は軽やか。ハイキングより重い縦走用ザックは昨夏の北岳以来で久しぶりだが、最近続いたハイキングの「トコトコ」ペースが縦走の「ジワリ・ジワリ」のペースに美味くチェンジして、一歩一歩前へ出るリズムが安定してきた。やがて30分ほどで鉄塔に出て、ここから1時間ほどの林道歩きとなる。

 

登山口での4名

静かなシラン沢林道終点

鳥居をくぐる

残雪が出てきた

 

林道終点からが本格的な登りとなる。クマザサとカラマツ林の道にはカタクリがいくつも顔を出していた。落ち葉を踏みながら何度かアップダウンを繰り返すと1時間ほどで平らな場所がある。小山さんの地図によると、ここが「ふくべの峰」と言われる場所らしい。そこで少し休んでまた同じような道をひたすら登る。今回は男女混合の4名パーティーで、3人とも登山の経験は僕より長く、ペースも速い。休憩もほぼ1時間に一本10分と、妻とのハイキングに慣れていた自分には大変だった。3名の後を着いていきながら確実に高度を稼ぐ。やがて1時間もしないうちに木で作った鳥居をくぐる。日留賀岳は山頂に神社を祭る霊山でもある。鳥居を越えたあたりから登山道に残雪が現れだした。木の根やクマザサのおかけで何度も足を取られてしまい、歩きづらい。土から雪へ徐々に割合が多くなって、ハイマツが出てくる高度まで上がるとキックステップで足場を作りながら登ることになる。稜線まで来ると風とガスが激しく、ハイマツには霧氷が付いている程に気温が下がってきた。残雪を越えると稜線沿いはシャクナゲが繁茂して両手を使って藪を泳ぎながらしばらく行く。その藪を越えたところで山頂の看板が見えてきた。

日留賀岳に到着したのが13:00であった。あいにくの天気で、展望は全くダメだ。山頂周辺は低木が広がっているので、晴れていればいい展望だろうな、と少し残念だ。また明日もここを通過して下山するので、明日の天気に望みを託して昼食をとる。

 

 

日留賀岳山頂にて

MWVのプレートが山頂にあった

藪コギが続く

霧氷が美しい

 

いよいよここからが本格的な藪こぎだ。日留賀岳山頂よりこれから先へは道がない。いきなりシャクナゲ林の中に突入だ。胸まである木々が本当に邪魔だ。展望も利かないので、30cm程度に切った青ビニール紐で今通ったところを見失わないように巻いていく。現在自分がどこのあたりを歩いているのかもさっぱり分からないままの1時間20分。ようやく一呼吸できる場所にでたら、そこは林道だった。

この林道は塩那道路と立派な名前があるそうで、昭和40年に自衛隊によって開削された。ただ、あまりにも土砂崩れが多いために現在は殆ど交通がないらしい。当然今の季節は残雪が多く、山の斜面に沿うような形で雪が付いていた。

 

テントを張ったつもりが…

フキノトウが顔を見せた

雪の林道が続く

林道とはいっても斜面だ

 

ちょうど道路上に雪のない場所があり、テント場にピッタリということもあったのでテントを幕営することになった。時間は午後2:40。藪こぎで疲れていた僕は「よし、これで今日は終わりか!」という安堵しきっていたのも束の間、リーダーのMさんが「おーい田方、ここから男鹿岳まではどんくらいかかる?」と質問してきた。雑誌の登山記録のコピーを見ながら逆算して「だいたい4時間くらいでしょうか」と答える。「4時間だと明日ヤバイな。今日はもう少し先のひょうたん峠まで行って、朝一で狙うとするか! テントは撤収すんべ」と、せっかく設営したテントを畳むことになった。安堵しきっていた僕はガックリ。頭では「ここで先に行かないと男鹿岳は登れない」と分かっているのだが、気が抜けた後の林道歩きはしんどかった。

林道には予想以上に残雪が多く、ガスにも邪魔されて例のビニール紐を木に括り付けて迷わないようにする。黙々とただ時間だけが過ぎる。頭の中は何も考えていない。ただひたすら歩くのみである。

 

ひょうたん峠が見えてきた!

プレハブ小屋前で

フキノトウ料理が美味い

                        

幻のテント場から2時間程行ったであろうか、ひょうたん峠という鞍部に到着した。午後5時。峠にはこの塩那道路開通記念の石碑とプレハブの作業小屋があった。ラッキー!とばかりに、小屋を借りることにした。小屋内にテントを張って、防寒対策は完璧だ。それが決まったら皆の作業は早い。小屋の角に細引きで物干しを作って、濡れた衣類を乾かす。荷物を中に入れなくていいので、テントでは足を伸ばしてゆっくりとできる。いよいよお待ち兼ねの酒盛りだ。僕の持ってきた焼酎をCCレモン&カルピスで割って皆で乾杯。テント設営の間、雪に差しておいたので冷えていて美味い。Tさんがさっきの林道でとれたフキノトウを醤油と砂糖で甘辛く煮てくれた。酒飲みにはフキノトウの苦さがたまらない。Oさんが梅干ときゅうりと鰹節で浅漬けを作ってくれた。梅干は焼酎にも入れて熱燗でいただいた。マーボー春雨とちらし寿司で疲れ果てた体にご褒美を。Mさんの山に対する熱い思いなどを聞きながら楽しい夜は更けていった。

 

 

 

4月22日(日)、Oさんの携帯電話のアラーム『パッフェルベルのカノン』の音楽で目を覚ましたのは午前3時30分。ラーメンを注ぎ込み、5時に出発。今日は雲が高くて展望が利く。小屋を出るとすぐ東に那須連峰が見渡せる。茶臼岳、朝日岳、三本槍を始めとして東北自動車道から眺める那須の山とは逆の形だ。なだらかな林道歩きが今日のスタート。

 

雪庇ぎみの林道脇

那須連峰が一望できる

男鹿山頂で!

髪が霧氷状態に…

 

早朝の残雪は一部凍結の箇所もあり、Mさんが先頭に立ってピッケルで足場を作ってくれた。林道から尾根に入ると藪コギが続く。シャクナゲの藪を抜けてシラビソやダケカンバが現れるともう山頂は近い。男鹿岳の山頂へは、ひょうたん峠から1時間20分で到着した。このシーズンに何人くらいの登山者がピークを踏むのだろうか。山頂は静けさの支配する世界であり、時折ウグイスが僕らを祝福するように声を上げるだけであった。

最北まで到達できたので、あとは昨日来た道を引き返すことになる。ひょうたん峠でテントやシュラフをパッキングして林道歩きが始まった。

昨日の疲れて歩いた林道とは少々気分が違う。メインピークを踏んで皆の気分も高揚し、せっかくなので“藪山中の藪山”である鹿又山に登ることになった。林道と尾根の合流する場所から道なき道をひたすらキックステップで登る。藪コギはいっそう激しい。両手で木々をかき分けて足元の窪みに気をつけて一歩一歩。山頂へは林道より30分程で到着だ。そこには国土地理院の調査員が残していった木の三角矢倉がそのまま残っていた。この頃になると天気も徐々に良くなり、日留賀岳から男鹿山までの稜線が一望できるようになった。長い、本当に長い稜線だ。

 

大佐飛山が大きく構える

ハイマツの霧氷

藪コギももう少し

青空が広がってきた

 

昨日はガスっていて全く展望がなかったが、むしろなくてよかったと思った。あの距離を見ながら歩いたとしたら、精神的に相当まいっていただろう。鹿又山から下ってまた林道へ合流する。昨日採り残したフキノトウをスタッフバックに詰め込んで意気揚揚。帰りを待つ妻へのお土産だ。

日留賀岳への登り返しは、いいペースだった。稜線のハイマツは西風にさらされて霧氷をつけており、遠目で見ると白い花が咲いているようだった。その霧氷をカメラに収めていると、突然キラキラ光出したので驚いて上を見ると、念願の太陽がお目見えだ。太陽が見え始めたらそれを追うように青い空がダイナミックに現れてきた。山頂に着くころにはまさに360度の大展望。日光、尾瀬、会津、磐梯、安達太良、吾妻、那須の山々が春の土筆のように顔を見せていた。

ここまで来れば後は下るだけだ。昨日キックステップで登った雪の斜面を、グリセード風に一気に滑り下る。鳥居を越えてクマザサ帯へ。昨日は下を向いていたカタクリも、今日は太陽の光を存分に浴びて風車の形に変身している。麓の林道歩きではタラの芽を頂戴し、車のある小山氏宅に到着したのは午後1時40分であった。その後は塩原のかんぽの湯で汗を洗い流し、Mさんご推奨の那須高原にある「萌」というオシャレな喫茶店であたたかいおもてなしを受けた。

「藪コギ」という山の楽しみ方は、快適登山とは違っていっそうアドベンチャー要素の強いものだ。今回は、HPで「アドベンチャー」とは銘打っているものの最近は冒険心を忘れてしまった僕に、山の奥深さを教えてくれた。また、現在はルートがしっかりしている山であっても、藪を裂いて道を開拓していった先人の偉大さがちょっぴり分かったような気がした。

尻セードで斜面を降りる

《コースタイム》

4月21日(土)

小山宅8:35発 … シラン沢林道終点9:35 … ふくべの峰10:45 … 鳥居11:30 … 日留賀岳13:00着

13:25発 … 塩那道路14:25 …(林道にて幕営するが撤収 14:40発) … ひょうたん峠17:00 【幕営】

 

4月22日(日)

ひょうたん峠5:05発 … 男鹿岳6:20着 6:35発 … ひょうたん峠7:30着 7:50発 … 鹿又山8:45着

… 塩那道路9:45 … 日留賀岳10:45着 11:05発 … 鳥居11:50 … 林道終点12:55 … 

小山宅13:40

 

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