ミステリを1冊・・・
最終更新日:2007年6月24日
読書室に入れるには遅すぎるけれど、どうしても紹介しておきたい愛音の大好きなミステリのページです
◆ファイロ・ヴァンス、登場◆
S・S・ヴァン・ダイン ベンスン殺人事件
◆ポワロ、登場◆
アガサ・クリスティ 殺人は癖になる
2006/08/17 UP
◆パリ警視庁の敏腕探偵◆
A・E・W・メースン 矢の家
2002/09/29 UP
◆世間を見続ける修道士◆
エリス・ピーターズ 氷の中の処女−修道士カドフェル・シリーズ
2002/8/27 UP
◆地道だけど、味のあるフレンチ警部◆
F・W・クロフツ クロイドン発12時30分
2002/6/28 UP
◆愛するヴァンス様(^^;◆
S・S・ヴァン・ダイン グリーン家殺人事件
2002/5/18 UP
◆プーさんのミステリ◆
A・A・ミルン 赤い館の秘密
2002/4/14 UP
◆僧正は何を見た?◆
ロナルド・A・ノックス 陸橋殺人事件
2002/3/14 UP
◆永遠の若さを手に入れた人たち◆
アガサ・クリスティ NかMか・運命の裏木戸
2002/2/16 UP
◆トップハットをかぶって死ぬ◆
ジョン・ディクスン・カー 帽子蒐集狂事件
2002/1/15 UP
◆歴史ミステリの決定版◆
ジョセフィン・テイ 時の娘
2001/12/24 UP
◆ミステリの醍醐味?◆
パット・マガー 被害者を捜せ!・七人のおば
2001/12/24 UP
◆次回予告◆
ジェームズ・ヒルトン 学校の殺人
◇今後の予定◇
リチャード・ハル 伯母殺人事件
アガサ・クリスティ 予告殺人
| ■赤い館の秘密 The Red House Mystery by A. A. Milne, 1921 |
| A・A・ミルン著 大西尹明訳 創元推理文庫(1982・48版) |
立派な弟に放蕩者の兄・・・15年ぶりにオーストリアから帰ってきた兄が弟の館を訪れて殺される。兄に会っていたはずの弟の姿は消え、鍵のかかった部屋には、兄の死体だけ。滞在中のお客たちはいるものの、容疑者は消えた弟のみ。だが、なぜ?
そこに居合わせたのは素人探偵志願。たまたま館に滞在中の友人に会いに出向いてきたのだが、友人をワトソン役に、念願の探偵仕事に取りかかる。秘密の通路、物静かな秘書がわりの従弟、数少ない道具立ての中に、素人探偵が見出した真実は?
「クマのプーさん」の著者として有名なA・A・ミルンが残した唯一のミステリ。ミステリ好きだったお父様のために書いたとか。容疑者らしい容疑者もなく(これで犯人が分からなかったらどうかしている・・・!と思われても仕方がないくらい人が少ない)、素人が二人、戯れるように探偵をする様子は、場違いだけれど微笑ましいの一言に尽きます。こういう味わいのミステリは、最近の新刊ではほとんどお目にかかれなくなりました。郷愁を誘うミステリです。
| ■陸橋殺人事件 The Viaduct Murder by Ronald A. Knox, 1925 |
| ロナルド・A・ノックス著 宇野利泰訳 創元推理文庫(1982・初版) |
ロンドン郊外のとある小さな村。元は荘園だった会員制のゴルフクラブ。週末ともなれば、ロンドンからやってきた会員たちが、クラブ片手に颯爽とゴルフ場に乗り出して行く・・・もちろん、彼らの中には、村に住んでいる人もいるわけで、ゴルフ好きの牧師を中心に、推理好きな4人組が例のごとく、プレイをしながらミステリ談義に花を咲かせていた・・・と、スライスしたボールを追いかけて、探し回るうち、なんと本物の死体にぶち当たる!
被害者は破産状態、事故か、自殺か、はたまた殺人か? 捜査を開始した警察を横目に、4人組も素人探偵に早代わり、想像力に翼をつけて一斉に羽ばたき始める。彼らの推理は真相を捉えることができるのか?
著者のノックスは、カトリックの神父様で、イギリスではかなり上位の聖職者になったとか。聖書の翻訳でも有名だそうですし、ほかにもかなりの著作があるようですが、ミステリも長編を6編、連作を2編残しています。あまり翻訳されない作家なので、知る人ぞ知るミステリ作家になるのかも。「ミステリ十誡」というのを出しているので知られていますね。
謎はシリアスに近いのに、どうしてもドタバタ劇みたいな印象を受けてしまう面白いミステリ。4人の素人探偵ならぬ探偵たちの点でばらばらな活動振りも、はちゃめちゃな推理の競争も、そんなに一生懸命こねくり回さなくても(^^;、と、ついつい苦笑してしまうのですが、それでも、面白いものは面白い!
| ■ベンスン殺人事件 The Benson Murder Case by S. S. Van Dine, 1926 |
| S・S・ヴァン・ダイン著 井上 勇訳 創元推理文庫(1979・41版) |
ふとした思いつきから、殺人事件の現場へ出向くことになった素人探偵ヴァンス。幅広い趣味と知識を駆使して、物的証拠とアリバイに拘る検察局を向こうにまわしての大活躍。容疑者がひしめく中で、真犯人を突き止めるのは誰?
ヴァン・ダインの処女作。登場人物が丁寧に紹介されているような気が・・・(笑)。初めて読んだヴァン・ダインは、実は、「カブト虫殺人事件」で、この作品ではないのです。たぶん、この作品から読み始めたのだったら・・・これほど好きになってはいなかったかもしれません。
| ■矢の家 The House of the Arrow by Alfred Edward Woodley Mason, 1927 |
| A・E・W・メースン著 福永武彦訳 創元推理文庫(1980・23版) |
共同経営者になったばかりの若手の弁護士ジムが、古参の弁護士に命じられてフランスはディジョンへと旅立つことになったのは、亡くなった顧客を毒殺したとの告発を受けたからだった。告発されたのは被害者と目される老婦人の姪で養女、告発したのは困窮している老婦人の義理の弟。見るからに悪そうな義弟があくどい脅迫者なのか・・・それとも・・・?
パリ警視庁からは、腕利きと名高いアノー探偵も出馬して、犯人との見事な心理合戦を繰り広げる・・・果たして「殺人」はあったのか? あったとしたら犯人は? ジムが見た真相とは?
いわゆる古典ものと呼ばれるミステリを読みあさっていたころに読んだ1冊。
今となっては懐かしいくらいの本ですが、読んだ当時はそれほどの感銘も受けず(笑)。あらためて読み直してみると、なかなかいいものですねぇ・・・
犯人はあれかこれか?位のミステリかもしれないけれど、心理的には核心を突いている変形ミステリの逸品です。
| ■グリーン家殺人事件 The Greene Murder Case by S. S. Van Dine, 1928 |
| S・S・ヴァン・ダイン著 井上 勇訳 創元推理文庫(1985・67版) |
静かに雪が舞う夜の静寂を裂いて2発の銃声が響いた・・・ニューヨークの旧家グリーン家で。撃たれた二人の令嬢は、一人は即死、もう一人は重傷を負う。当初は金目当ての強盗の仕業と思われていたものの、家族のものは次々と殺されてゆく。当主の死後、25年間はグリーン屋敷に住まねばならぬ。そうしなかった場合の罰則はただひとつ、相続権の喪失。家族でありながら、互いに憎しみを募らせ、残された財産を貪欲に狙う彼らの中に犯人が?
ひとつ殺人が起こるたびに、少なくなってゆく家族。残された人々の、誰が犯人なのか? 冷徹に眺めるヴァンスの目の前に浮かび上がる真相は?
病気(神経衰弱)療養中に読んだミステリの数々が、ミステリ作家ヴァン・ダインを作り上げました。その生涯に12作のミステリを発表しただけですが、そのいずれもが平均作以上。ことに、グリーン家殺人事件と僧上殺人事件は絶品中の絶品です。どちらを取り上げるか悩んだ結果、今回はグリーン家にしました。
探偵ファイロ・ヴァンスは、考えようによっては素っ頓狂な人物で、たぶん、好き嫌いがひどく分かれるだろうなぁ・・・と思うのですが、私は好み(笑)。といっても、文字に書かれたヴァンスだから我慢できるのかもしれません。こんな人間が実際にそこにいたら・・・とんでもなく鼻持ちならないよなぁ!
| ■帽子蒐集狂事件 The Mad Hatter Mystery by John Dickson Carr, 1933 |
| ジョン・ディクスン・カー著 宇野利泰訳 新潮文庫(1976・6刷) |
霧深いロンドンの街に頻繁に起こるおかしな帽子盗難事件を追っていた記者が殺された! ゴルフ服を着た被害者は、盗まれたシルクハットをかぶり、胸を中世の鉄矢で射抜かれて倒れていた、昼なお暗い、あのロンドン塔で。おりしも、シルクハットを盗まれた紳士の家からは、貴重なポオの未発表原稿が盗まれ、誰が見ても単なる馬鹿騒ぎ、としか思えなかった事件は、冗談事ではなくなった。ロンドン警視庁のハドリイ警部は、早速フェル博士の出馬を乞う・・・
果たして殺人は帽子蒐集狂の仕業か? 盗まれた原稿とのかかわりは? 飛び出すゴム鼠は、フェル博士にどんな推理をもたらすか?
霧のロンドンを舞台にしたちょっと絵になるミステリです。活躍するのは、大きな太鼓腹に、ぶるんぶるん震える二重あごのフェル博士。公式にはいったいどんな立場なのかさっぱり分からないけれど、突拍子もない事柄から推理を働かせて、見掛けとは裏腹に非常にスマートな手腕で、すっきりと難事件を解決してくれます。
ちょっとゴシックロマン風のおどろおどろした雰囲気と、じっくり書き込まれた鮮やかな人物像との対比も見事な作品。ディクスン・カーの作品の中で、最も好きなものです。
| ■クロイドン発12時30分 The 12:30 from Croydon by Freeman Wills Crofts, 1934 |
| F・W・クロフツ著 大久保康雄訳 創元推理文庫(1981・33版) |
クロイドンから飛び立った一機の旅客機・・・事故にあった母の元に駆けつける小さなローズは、興奮のまなざしで窓の外を眺めていた。隣の席には父が、前方の席には祖父とその付き添いが座っている。事故にあった母のことは心配だけれど、飛行機に乗るのは初めて。素晴らしくワクワクドキドキするような体験だった。
が、ふと見てみると、祖父は寝ているらしい・・・こんなときに眠り込むなんて! ローズには信じられなかった・・・そして、飛行機がパリに到着したとき、眠っていると思っていた祖父は亡くなっていた。一人の老人の死は、病死か自殺かあるいは事故か?
突然の死で始まった物語は、いきなり犯人の独白に引き継がれます。さまざまに状況が変化するたびに、一喜一憂する犯人には、時に同情しそうになりますが、やはり殺人は殺人。最後は犯罪が暴かれてしまいます。
活躍するのは、地道なフレンチ警部(のち、主任警視に昇格)ですが、この作品は、倒叙ミステリなので、普段でも地味で目立たないフレンチ警部のこと、さらにひっそりとしています。フレンチ警部が出てくるミステリは、いずれもその丹念な捜査方法と一歩一歩確実に犯人を追い詰めてゆくところに深い味わいがあるのですが、この作品では、その前段階として、犯人側から見た犯罪の展開も同じくらい丁寧に書き込まれているのが魅力です。
| ■殺人は癖になる〜メソポタミアの殺人〜 Murder in Mesopotamia by Agatha Christie, 1935 |
| アガサ・クリスティー著 厚木淳訳 創元推理文庫(1979・7版) |
アメリカから中東に派遣されている遺跡発掘調査団の中で起こった殺人事件。調査団のメンバーは、いずれも高名な考古学者たちばかりで、和気藹々と、まるで家族のように仲良くしていたと言うのだが・・・折りよく居合わせたポワロが捜査を依頼されるが、調べるに従って、犯人は内部にいるとしか考えられない状況になる。
ポワロの助手役を務めるのは一人の看護婦。「殺人は癖になる」−ポワロがつぶやくこの一言に、彼女ははっとする。果たしてその言葉どおり、第二の殺人が! 被害者が残したなぞの言葉の意味を、ポワロは解くことができるのか? 屋上から見た美しい日の出は、ポワロにどんな天啓をもたらすのか?
ポワロが出てくるシリーズの1冊ですが、ヘイスティングス大尉が助手役として出てこないところが、私の好み(爆) ヘイスティングス大尉は、シャーロック・ホームズのワトソンよりもさらにひどいと思うのです。クリスティの作品では、特に旅行関係のシリーズはお薦めですが、その中でも、この1冊はお気に入り。お気に入りなのに、長らくラインアップされていなかったのはどうして?とは聞かないでね。
| ■NかMか N or M? by Agatha Christie, 1941 |
| アガサ・クリスティー著 深町真理子訳 ハヤカワミステリ文庫(1980・4刷) |
46歳って、こんなにも「爺さん扱い」されるのか? 戦争下のイギリスで、それらしい仕事を何にももらえないトミーはぼやいた・・・先の戦争では、あんなに活躍したって言うのに! まだまだどんなことだって出来るのに! 自宅では、トミー以上に冒険好きなタペンスが、猛烈な勢いで編み棒を動かしながら、憤懣やるかたない気持ちを抑えかねている・・・若かったトミー&タペンスもはや初老と呼ばれる年代にさしかかり、さしあたってできることは後方支援だけ、とあって意気消沈していたのだが、突然、懐かしい情報部からお呼びがかかった! しかし、それはトミーだけ、ナチの大物スパイ<NかM>の正体を探るように依頼されたトミーは、一人目的地の南イングランドへと向かう。
が、なんと、着いたそこには編み物をするタペンスの姿が! 二人して情報部を説得し、敵地下宿屋で、正体不明のスパイを暴きだすことになる・・・はたして、スパイは誰なのか? 謎めいた下宿屋の女主人? ドイツからの亡命青年と彼に恋する下宿屋の娘? それとも厳格な退役軍人そのものの少佐? あるいはいかにも病弱そうな夫と影のように従うその妻? 幼女が歌う「があがあガチョウのお出ましだ!」はタペンスにどんなひらめきをもたらすのか?
秘密組織でデビューした夫婦探偵のトミーとタペンス。結婚後も仲良く探偵業を続けて、可愛い双子を育て上げ、今は初老と呼ばれる季節を迎えたところ。子供たちは独立して、なにやら戦争に役立っているらしいけど、私たちだって捨てたものじゃないのに・・・そんな不満を一気に爆発させるかのように、見事に大物スパイの正体を暴きます。大活躍するのはおおむねタペンスで、トミーは偶然、何か役立つものを発見するだけ、というのは、シリーズ全体を通して変わらないような気がします(笑)。
| ■被害者を捜せ! Pick Your Victim by Pat McGerr, 1946 |
| パット・マガー著 中野圭二訳 創元推理文庫(1984・初版) |
第二次世界大戦下のアリューシャン列島に駐屯していたアメリカ海兵隊員たちは活字に飢えていた! 何かが起こるのをじっと待っている彼らは、活字と見ればどんなものでも片っ端から読み漁り、本も新聞もぼろぼろ。クリスマスも近いある日、一人の海兵隊員が故郷からの小包を受け取った。美味しい中身(缶詰の詰め合わせ)はもちろん大喜びだったけれど、一番の喜びは、詰め物の新聞紙、だったかもしれない(笑) 新聞のきれっぱしは手から手へと回し読みされる・・・最新流行ドレスの広告、ボクシングの試合、株式情報・・・そして、殺人。破けた一片には、海兵隊員ピートが勤めていた職場での殺しの記事が載っていた。
が、そこには自供した犯人の名前は載っているけれど、肝心なことが抜けていた。被害者は誰か? 一瞬の沈黙の後、彼らは素晴らしいことを思いつく。「10ドル賭けた!」・・・内輪の情報を良く知っているピートがいる、犯人はわかっている、わからないのは被害者だけ、候補者は10人、これで当分退屈せずにすむってもんだ!
ワシントンへ問い合わせの手紙を出したピートは、それから10日間、家事改善協会−これがピートの元職場だ−での4年間を語り続けた・・・
被害者はわかっていて、犯人がわからない・・・それが普通のミステリですが、パット・マガーの初期作品は、これを逆手に取ったものばかり。処女作の「被害者を捜せ!」では、文字通り、いったい誰が殺されたのか?を20人の海兵隊員たちが推理します。それも、元職員の語る過去4年間の出来事をたった一つの頼りにして。1度目よりも2度目、3度目が美味しいミステリです。
| ■七人のおば The Seven Deadly Sisters by Pat McGerr, 1947 |
| パット・マガー著 大村美根子訳 創元推理文庫(1986・初版) |
結婚してイギリスに住むようになったサリーは、ある日、ニューヨークの友人から1通の手紙を受けとった。そこには、おばがおじを毒殺して、自らも自殺したことが書いてあった! しかし、どのおばが、そんなことを? 七人のおばがいるサリーは気にかかって眠ることが出来ない・・・手紙にある手がかりは、毒薬を入手したおばは半年間も躊躇した挙句に毒を盛ったということだけ。その間、もちろんおじと一緒に暮らしていたそうな・・・半年間は夫と過ごしていたというのなら、少なくとも、おばの一人は除外できそうだ・・・私がイギリスにやってきて3ヶ月になるけれど、テッシーおばさんの夫は行方知れずのままだったもの。それでもまだ、おばさんは6人もいるわ!
眠れぬ様子のサリーに、夫が提案する・・・今までおばさんたちについて詳しく話してくれたことはなかった。どうだろう? ひとつここで、全部話してみてくれないか? 過去の事実がすっかり明らかになったら、一体どのおばさんがおじさんを毒殺したのかわかるような気がするんだ・・・もちろん、本当に起こった話は、明日にでも図書館へ行って、ニューヨーク・タイムズを探せばすぐに見つかるだろうけど・・・
パット・マガーの2作目は、被害者も犯人もどちらもわからないミステリ。女ばかりがごろごろしている大家族の中で、突然起こった殺人は、いつ、どこで、誰によってされたのか? 謎を解き明かす手がかりは、両親を亡くしたサリーが過ごした日々の中に隠されている!? 個性的な、あまりにも個性的な七人のおばさんたち。誰が殺人者になってもおかしくはないほど、複雑に絡まった人間関係だけど、思ったほど読みにくくはなく、むしろすっきりしていると言ってもいいくらい。
| ■時の娘 The Daughter of Time by Josephine Tey, 1951 |
| ジョセフィン・テイ著 小泉喜美子訳 ハヤカワミステリ文庫(1984・6刷) |
イギリス・プランタジネット朝の最後を飾る、極悪非道な王様リチャード3世は、本当に、幼い二人の王子(亡き兄の息子たちだから彼にとっては血のつながった甥たちでもある)を手にかけたのか? 捜査中に骨折し、つまらない入院生活を送るスコットランドヤードのグラント警部は、退屈しのぎに持ち込まれた数々の肖像写真のひとつに眼を奪われる・・・こと「顔」に関しては一家言を持つグラント警部、あまりにも良心的過ぎた人物だ・・・そう判断した肖像画の人物が、かの悪名高いリチャード3世と知って仰天する。まごうかたなき悪人を、ほんの一瞬とはいえ、善人と見間違えるなんて!
しかし・・・リチャード3世が幼い王子たちを殺したというのは、通説にはなっていても立証はされていなかった・・・興味を覚えたグラント警部は、ベッドに臥したまま、文献から得られる情報のみを頼りに、歴史に埋もれた真相を探り出そうと決心する。協力者は、歴史を研究しているアメリカ人留学生。二人がたどり着いた結論は・・・?
歴史ミステリと言えば、これが一番じゃないでしょうか・・・得られる情報は文献に書かれているだけ。過去に起こった事実と、いわゆる事実だと言われているもの、それから、時の人々が「残したい」と思った出来事。追うものは現代警察を代表する警部。いつの時代でも、犯罪の元になるのは「いったい誰が得をするか?」 伝聞証拠は追い払い、物証だけを追い求め、いつしか真(?)の犯罪者を追い詰めてゆく様子は、見事。もしグラント警部があの時代にいたならば、おそらく消されてしまったでしょう(笑)
| ■運命の裏木戸 Postern of Fate by Agatha Christie, 1973 |
| アガサ・クリスティー著 深町真理子訳 ハヤカワミステリ文庫(1981・初版) |
引越しってホント、楽じゃないわ。私たちも年なんだわ・・・
引越しにつきものの大騒ぎ。電気やらガスやらの配管工事に、荷物の整理。新しい家は気に入っているんだけど、ちゃんと落ち着けるのはいったいいつになることやら。とはいえ、今回の引越しでは、懐かしい本をたくさん手に入れたのだ。雨降りなんかで、ほかにすることもなくて退屈なときに、ゆっくり読めるわね・・・
が、そうやって楽しみながら本の整理をしていたタペンスの手が、ふと止まった。飛び飛びに引かれた赤い線。好奇心に駆られたタペンスがつなげて読んでみると、そこにはひとつのメッセージが現れた! 「メアリの死は自然死ではない」 こうなったらもう、タペンスを止めるものは何もない。早速調査を始めたタペンスに、いつしかトミーも巻き込まれてゆく・・・本の持ち主は半世紀前に病死した少年だと突き止めた二人は、スパイがらみで起こった過去の殺人事件を鮮やかに解き明かす。
トミー&タペンスシリーズの最後の本。
この本で登場する二人は、子どもたちが孫を連れて泊まりに来るのを楽しみに待つ老齢の夫婦になっています。でも、好奇心も冒険心も昔のまま。忠実なアルバートや忠犬ハンニバルに助けられて、颯爽と・・・とまではいかないけれど・・・果敢に謎に挑戦します。謎解きが大好きな彼らにこういう事件はぴったりかも。彼らは決して年老いてはいない。謎をかぎ当てる鼻も、好奇に満ちたまなざしも、何もかもが、永遠の若さを証ししているように思います。年を経て出来なくなることが増えたとしても、胸踊る経験を追い求めることだけは止めずにいよう・・・そんな気にさせてくれます。
| ■氷の中の処女 The Virgin in the Ice by Ellis Peters, 1982 |
| エリス・ピーターズ著 岡本浜江訳 教養文庫ミステリボックス(1992・初版) |
1139年の冬・・・イングランドは相変わらず内乱のさなかにある。逃げ惑う避難民たちの中にいるはずのとある貴族の姉弟の行方がふっつりと消えてしまった。辺り一帯には、内乱に乗じた盗賊たちが夜毎跋扈し、少なからず虐殺が繰り広げられているとあって、彼らが預けられていた修道院から、二人の消息を尋ねる修道士が旅立ち、同じ宗派のシュルーズベリにやってきた。。勝気な姉娘が無茶なことをしでかしたのでは? 話を聞いたカドフェルは、早速捜索に出かけ、無事に弟を見つけるのだが、凍りついた小川の中に、若い娘の死体をも見つけてしまう。なおも捜し続けるカドフェルの前に、一人の若者が現れる・・・
入り乱れる人々のもつれを少しずつ解きほぐしたカドフェルがたどり着いた真相とは? あの若者はどんな秘密を胸に抱えているのか?
12世紀イングランドの季節と、それに彩られた人々の暮らしを、丹念に描きこんだ真珠のようなミステリ・シリーズ、カドフェル修道士シリーズの6作目です。どの作品も甲乙つけがたく、好きなものばかりですが、迷った挙句に、カドフェルに素敵な、ちょっと早めのクリスマス・プレゼントがあるこの作品を選びました。ミステリよりも、そっちの謎のほうが好きなのです(^^;