Column-1


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今年、おかんと桜を見た。
散ってゆく桜を。
たぶん、この年の桜を僕は、一生忘れないだろう。

春の光。
降り注ぐ、柔らかい、優しい光。

なのに桜は散ってゆく。

春の風。
暖かく頬を撫でたかと思えば、はっとさせる峻烈な風。

そして桜は散ってゆく。

僕たちが立つ、この星の重力が、桜の花びらを散らせてゆく。
回る惑星と呼応するようにくるくると、ひらひらと落ちて行く桜。

桜を見る。

5年前は、中学校の桜。以前に住んだ新宿の家の前。
おかんに電話しながら眺めた。
この頃から、おかんはちょくちょく家出してくるようになった。
音楽室から生徒たちの歌が聞こえた。
『今、富とか名誉ならば…』

4年前、新宿御苑の八重桜。
『笑う』とは記紀では、『咲う』と書く。
その意味を知る満開。笑顔。

3年前は、神田川沿いの桜。
川面に映る桜が川を染めていた。
仕事がうまくまわり始め、あの日も打ち合わせに向かう途中だった。
ただ、忙しい日々。
あの時の仲間たちはみんな元気だろうか。

2年前。
代々木公園の夜桜。
綺麗だった。
ただただ、綺麗だと思った。

1年前の撮影現場にて。
抜けるような青空に、枝を大きく拡げる鮮やかな桜。
最初の時の、最悪な気分を思い出させてくれた現場。
そして、まだだと思えた現場。

そして今年。
おかんの病室から桜を望む。

すぐに散ってしまうと分かっているから、みんな桜に集いたいと思う。
唄い、騒ぎ、楽しむ桜。
桜が咲くことより、散ることに思いが巡る。
また来年と思うことより、この年に咲いた花が散ることを思う。


さくらばな陽に泡立つを目守りゐるこの冥き遊星に人と生れて  by 山中智恵子


それでもやはり、心は乱れる。