第二回 神経難病における音楽療法を考える会
2005年6月10日
神経治療学会終了後
鳥羽市民文化会館
17:30〜20:00
「 音楽が難病にもたらすもの 」
NPO法人ALS/MNDサポートセンターさくら会
日本ALS協会東京都支部
川口有美子
「もっぱら、私の生は比類ないものであるという意識から、宗教、学問、そして芸術が生じる。そしてその意識が生そのものである。」(ヴィトゲンシュタイン『草稿』p.265;1916)
哲学者らは芸術と生とに深い関係性を見出して数々の言葉を残していますが、難病と闘う人々も日々生きる意味を問い直す中で自分の生を「比類なきもの」と知り、過酷な生とも折り合いをつけていきます。そして、やがてその身体環境にあった楽しみを見出すこともできるようになり、生命倫理と芸術の架橋を思わせるような気づきが与えられる人もいます。
たとえば、私の母は在宅療養中のALS患者ですが、闘病4年目に「美しいものを美しいと感じていられる間は生きていくつもりです」と言い残しました。今はもっとも過酷な症状を示して、私たちとのコミュニケーションもなくなりましたが、母のその言葉に私たちは逆に支えられているのです。
ALSの人は発病から最終的なステージに至るまで長い経過を辿りますが、事あるごとに社会からの逸脱を感じるので絶対的孤独に苛まれる日々もあります。しかし、芸術はその普遍性や平等性において、孤独な患者さんの心の深遠に到達し時には医療や介護を圧倒してしまいます。私たちがどんなに患者さんのために努力しても、決して触れることができない最も奥深い部分から患者さんを癒して変えてしまいます。
中でも音楽は単にその芸術性のみならず、さまざまな効用をもっています。たとえば、
@音楽はその平等性においても比類なきもので、すべての人々が公平に楽しめるものですから、患者や障害者にも社交の場を提供してくれます。Aその非言語性は発語の厳しくなった患者さんにストレスを与えませんし、非常に自由が制限された療養生活の中で「選択の自由」を患者さんにもたらします。B懐かしい音楽は想い出を喚起して患者さんを内面から癒してくれます。
上記のような効用を踏まえて音楽を緩和ケアとして日常的に取り入れることにより、患者さんのインフォームドコンセントを助け、ナラティブの書き換えを促す効果が期待できるように思われます。
特に発症直後から呼吸器を装着するまでのもっとも不安の強い初期の時期に上手に音楽を取り入れることはよりよい選択を可能にするためにも有効だと思われます。また、意思の伝達が困難になった最重度の患者さんには脳波や脳血流を用いた意思伝達装置の訓練で脳を活性化させるためにも音楽を有効に用いることができるように思われます。
そして音楽を趣味として生きがいにつなげた活動をされている方もおられます。たとえば千葉の船後さんは作詞と演奏活動により社会参加を実現して成果を挙げています。
このように難病患者にとって音楽とは本当の治癒が可能になる日まで、もっとも有効な緩和ケアのひとつになりえると思われます。そしてまた、患者さんと共に神経難病と闘う人々にも新たな目標やアイデアを与えてくれるだけではなく、病いの現実から一時でも解放された安らぎの時間を共有する機会を提供してくれることでしょう。
抄録送信 20050501
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