「麻痺し、麻痺しゆく身体のポリティクス」
在宅重度障害者としてのALSの実態調査から新制度の検証を始める

日本保健医療社会学会発表 抄録  於:立教大学

○川口有美子、北村健太郎 立命館大学大学院先端総合学術研究科後期博士課程

A,研究の目的   麻痺し、麻痺しゆく全身性障害者のニーズに政治はいかに応えうるのか。本論では在宅におけるALSの実態およびニーズ調査からその可能性について考える。
B,研究の背景   平成18年4月から障害者自立支援法が施行され、気管切開を伴う人工呼吸器装(以下TPPVと呼ぶ)の在宅患者は「極めて重度の障害者」として判定されることになった。だが制度設計の途上から当該の当事者団体等より問題点や要望が挙げられた。たとえば、新制度では同じALSや筋ジスでも、医師の意見書の記載事項(TPPVの有無や医療内容の記述)により給付に格差が生じることになる。ADLによる判定は公平なようではあるが、周知のとおり神経疾患は長期にわたって病態が日々変化するし、同居介護者の体調など、総合的なケア体制を勘案せねばならないので、介護給付にはある程度の弾力性が求められる。新制度ではTPPV開始後に給付量が増えるが、実際にはTPPV開始前から病状は不安定になるので生命に係わるリスクも大きく、常時の見守りが必要である。
本論では、進行性神経難病者のケアニーズや病態、進行速度等の多様性を尊重する視点から、自立支援法の障害程度区分判定や給付の在り方に着目し、制度の検証作業の第一歩として仮説立案をおこなう。
C,研究の方法  @病態の異なる在宅療養中のALS患者4名(うち1名は呼吸器未装着)のケアの様子を1分単位で24時間記録し比較した。そのうち2名(呼吸器装着者と未装着者)に面接調査を行い、ケアニーズについて自由に語ってもらった。AALSや筋ジスに、支援費制度で介護サービスを提供している事業所の責任者にインタビューを行い、新制度施行において不安に思っていることを自由に述べてもらった。
D,研究の結果  @気管切開をする前の患者も夜間介護のケアニーズは高く、社会参加、また、呼吸不全が始まれば予断のならない見守りが必要なことがわかった。
A新制度では長時間介護は事業者にとっての減益になる。特に医療的ケアが必要のない者の見守りは損益につながる恐れがある。
@Aの比較検討から以下のような仮説を立てた。
1、現行の障害程度区分の判定では、進行性患者のケアニーズの変化に柔軟に対応できないため、生命に係わる危機に対応できるだけの給付が即座にできない。特に呼吸器の選択時においてALS患者の意思決定を支えるために十分なケアが、公費で保障できないため、家族介護が望めない者や独居患者は呼吸器を選択しにくくなると考えられる。
2、自己負担が請求しやすい、ケアが楽であるなどの利用者の属性やケアニーズによる選別が、事業を安定させる用件になると考えられる。
E,今後の研究課題  研究結果の仮説を検証する作業をおこなう。
調査結果から、対象者のニーズに基づく分配の有効性は認められるが、支援費制度の時のように財源不足を引き起こす恐れもある。私たちはどのような理論によって、制度を設計すれば多様な障害に応えうる分配を行えるだろうか。その具体的な方法はどのようなものか。

up 20060615