人工呼吸器の選択をめぐる在宅ALS療養者のナラティブ
患者の生きる力をささえる医療専門職の役割

2006年日本難病看護学会報告抄録、於札幌

長期療養中のALS患者を対象に、TPPVに対する意識とその変化について調査し、治療選択の意思決定に影響を及ぼす要因を探るためテーマ分析を試みた。
【研究目的】TPPVの利用が患者にどのような影響を与えているのか、患者の語りから解釈学的な分析をおこなう。
【研究方法】意志伝達装置によって文章作成が可能な31名(縁故法)のALS患者に対し、e-mailや面接調査等で質問し20名からe-mailで回答を得た(内2名は家族の代筆)。調査協力者も回答を提供する際に、自分の気持ちをよく説明することによって共同で分析を行ったことになり公表の同意を得ている。得られた回答について分類→分析→考察を行い、テーマを定義した。さらに追加質問および訪問などの二次調査を行い、分類→分析→考察のプロセスを深めていき、テーマ間の関係を検討した。
【結果】以下のテーマを定義し、それぞれの関係性を検討した。
1TPPVに対する意識の変化、2選択をめぐる権利と義務、2-1アンビバレントな気持ち、2-2コミュニケーションが絶たれる恐怖、3「死ぬこと」と「外されること」の違い、3-1置き忘れられた治癒の可能性、3-2安楽な死と尊厳ある生、3-3患者の尊厳死と医療職のモラル、4生きられない社会的背景
【考察】本調査によって、TPPVが呼吸不全の緩和ケアとして患者にも高く評価され、使用後にナラティブ(語り)が書き換えられ、生きる喜びを与えていることが明らかにされた。だが一方で患者は長期にわたる療養において心理的なダメージを受けやすく、自らの生に対する価値判断も揺れ動きやすい不安定な状況に置かれていることがわかった。身体の自由を失っても内面の自律が保たれている彼らは、家族に介護されながら家族構成員としての役割も果たそうとしている。特に退職前後に発症した男性患者には共通して非生産的な自分に対する資源配分への遠慮や家計の節約、妻子の健康状態に対する気遣いが垣間見られた。多くの者が重度コミュニケーション障害を恐れており、もしそうなったら呼吸器の停止を望むともいうが、意思確認もなく家族の承諾だけで突然呼吸器を外されてしまうことの恐怖を語っている。しかし、重度コミュニケーション障害のあるALSのQOLもケアを担当する者の技術や主観に左右されるので、親しい介護者とは個別固有の方法で意思疎通が続いている患者もいる。
【結論】TPPVをめぐる患者のナラティブは体験後に肯定的に変化しているが、体験前は他者のアドバイスに影響を受けやすく、自己決定と言われる治療選択にも他律的な要因が強く働くと考えられる。また、ケアを受ける者と提供する者のナラティブは相互に影響しあい変化を促すので、患者のQOLもケアの提供者の心身の状況で変化する。治療選択や継続において看護の果たす役割は非常に大きいと思われる。