第五回 医薬ビジランスセミナー 
平成18年10月22日 関西大学天六キャンパス

科学的根拠に基づいたインフォームド・コンセントのために
    薬づくり・情報づくり・病人づくりを知ろう!

分科会1.筋萎縮性側索硬化症治療ガイドラインを例に

人工呼吸器をつけること、外すことのインフォームド・コンセント発表要旨

  川口有美子(患者家族:NPOサポートセンター)、谷田憲俊(医師)


NPO法人さくら会/日本ALS協会 川口有美子

1、呼吸器を外す・・・自己選択/自己決定は可能か。

1)平成17年度「特定疾患患者の生活の質(QOL)の向上に関する研究」通称QOL班(中島孝班長)協力研究「長期における人工呼吸療法コンシューマーインサイト」川口と患者橋本操による全国患者30名対象とした聞き取り調査(患者の意見も千差万別。個人の価値観や人生観は尊重したい)

2)平成17年度QOL班分科会「ALSにおける事前指示書の在り方」に関する報告書[i]、(注1に伊藤博明医師による報告全文)

 ・呼吸器の取り外しに関する事前指示はできない。装着に関する事前指示に限定。

 患者から見た事前指示書(川口報告要旨)

・     リビングウィルには対話性・同時性がない

・     インフォームドコンセントに問題がある(以下の説明を中立的な説明といえるのか)

「一度つけたら外せない」「外したら私が罪人になる」「家族は介護地獄」、「お金がかかる、破産する」、「呼吸器は苦しい」、「寝たきり。天井を見たまま」。(ケアや社会保障の視点が乏しいALS観に基づいている)*反論「外せる」としたほうが付けられる。では「外せる」社会におけるALSケアの実態はどうか。特に介護技術の欠如。日本のALSケアでは主要なケアである「見守り」「痛みの回避」「コミュニケーション」など主要なケアはまったくなされない。

・     事前指示書の形式や取り扱い方(保管、費用、複写、原本をどれにするか、書き換え方法など)

・     意思決定ができない時の代理決定者としての家族には問題がある。利害関係。家族の定義。

・     事前指示書の撤回をどのように担保するのか。

・     意思決定能力の判定をするのは医師。家族にアドバイスするのも医師。結局は医師の裁量。

患者の意思を適切に反映する事前指示書の在り方には以上だけでも考慮すべき問題は多数。まだ議論にさえならない。(多様な利用者を想定した視点に乏しい)

3)厚生労働省による「終末期医療に関するガイドラインのたたき台」について

 

2 、呼吸器の取り外し・・別の文化・社会では可能だが。

1)呼吸器を選んだALSの人の言葉は国境を越えて驚くほど似かよっている。

“Focus on what you can do. Don’t cry over what you cannot do” (Jens Harhoff, Denmark ?Philadelphia 2004) できないからといって泣かないで。できることに目を向けて。

2)海外のALS事情(昨年のALS/MND国際シンポジウム、その他での報告)

*イギリスでは、ALSやMND(神経難病)には原則的には人工呼吸器は付けない。

(St.Christopher's Hospice、Dr.Sykesのレクチャー)[ii]

*アメリカでは、呼吸器をつけても後で外せる自己決定、自由主義。呼吸器を外す理由「介護してくれていた家族の転居」「娘の結婚式が終わったから」「お金がない」いくら患者の自己決定とはいえ、その「死にたい」理由の社会的倫理的背景が問われないのはおかしくないだろうか?

*カナダのSWの研究発表(APF(アライド・プロフェッショナル・フォーラムにて)。多くの患者がリビングウィルや事前指示書の文章を完成させないから、医療専門職はいかに患者のdecision making を支えるか。有効な事前指示書の作成のための研究。

3)あいまいな「安楽死」と「緩和ケア」

ドイツの神経内科医長411人に対する調査に回答を寄せた152人中、32%は呼吸緩和のための投薬を違法と考え、45%はモルヒネの使用は安楽死と同様と信じている。患者の4%しか事前指示書を完成しないが、88%の医師は事前指示書を有効と答え、回答者のおよそ3分の1が患者による安楽死や自殺幇助の要求に直面している。(Brasio GD,et al,Nervenarzt,2004Dec;75(12):1187-93)

★ 癌とALSにおけるそれぞれの「緩和ケア」。全く意味合いが違う。明確に分ける必要がある。

3、      重度障害者の人権はどこまで確立しているか?生きる権利とは?

ALS当事者による運動

・ 2000年、公職選挙法における在宅郵便投票の代筆を求める

選挙権があっても麻痺などで自筆できない者(高齢者を含めると20万人以上)は郵便投票できなかったが、ALS患者が原告となり国に損害賠償を提訴した。2002年に敗訴したが東京地検は「違憲状態」とし、2003年3月に議員立法提出、全会一致で選挙法改正。だが、周知していない。手続きが面倒で在宅投票はあまり進んでいない。

・     2002年、ヘルパーの吸引を求める運動(全国からおよそ17万8千の署名を集めた)

医師法第17条「医師でない者は医療行為ができない」の解釈→ 家族だけに医療行為を容認→ 家族が24時間介護をするなら呼吸器を付けてもいい(家族介護がALSの生存条件になってしまった)→ だから家族に優先的に告知をしてきたし、している。→現実に基づいて、治療選択権を家族に付与していることが本人に病名を告知はしない状況をもたらしている。介護負担と経済的問題を優先させる医師と家族の合意で呼吸器がつけられる実態。幼児の場合も同じ。

・     2005年、自立支援法に独居のALSの24時間介護/介助保障を求めた →重度障害者等包括支援(呼吸器TPPV装着者のみ優遇しALSの病態変化に配慮がない給付システム)

・     2005年、尊厳死法制化反対(NPO法人さくら会) 

これまでALSにのみ起きてきたことが一般市民に拡大する。尊厳死法(仮)や治療不開始・停止のガイドラインは国がその生存権を保障しきれない重度障害者や重病人、高齢者の「死による救済」「受け皿」になる恐れ。医療を受ける権利の略奪。


以下は資料

□■データー■□ 厚生労働省科学研究費補助金

「ALS患者にかかる在宅療養環境の整備状況に関する調査研究」

平成15年度 研究報告書 主任研究者  川村 佐和子

*     全国の保健所(保健センターを含む)598ヵ所から有効回答519ヵ所を得た。回収率86.7%

 

ALS患者数             5,771人 (平成14年度ALS申請者  6,646人)

 

●人工呼吸器装着患者        1,530人

●在宅人工呼吸器使用  男 529人(67.9%)

            女 249人(32.0%)

           合計 779人(100%)

●総合的なADL   全面介助 719人(92.3%)

          一部介助  40人( 5.1%)

          ほぼ自立   7人( 0.9%)

          不明    13人( 1.7%)

●医療処置が必要な760名のうち

吸引            722人(95.0%)

胃ろう           524人(68.9%)

膀胱カテーテル留置     214人(28.2%)

酸素療法          157人(20.7%)

●主な介護者

配偶者           656人(84.2%)

子ども           235人(30.2%)

ヘルパー          196人(25.2%)

看護師           153人(19.6%)

子の配偶者          50人( 6.4%)

●その他の介護者

協力してくれる家族がいる   95人(32.3%)

なし            125人(42.5%)

(約75%が家族だけで介護をしている)

●人工呼吸器使用期間

1年未満          116人(15.6%)

1〜2年未満        140人(18.8%)

2〜3年未満        118人(15.8%)

3〜4年未満         81人(10.9%)

4〜5年未満         66人( 8.9%)

  5年以上        215人(28.9%)

 

MAX 23年   *人工呼吸療法により長期療養が可能である

 



□■参照■□

 [i] 「神経難病における事前指示書のありかたに関する研究グループ」準備会の進捗状況報告

厚生労働省難治性疾患克服研究事業「特定疾患患者の生活の質(Quality of life, QOL)の向上に関する研究」班、分担研究者、 国立病院機構新潟病院診療部長  伊藤博明

ALSなどの神経難病領域では、診療指針が十分に普及していない状況であるのに、各種の事前指示書が提案されている。このままでは「患者さんの自己決定だから」と、治療を放棄する医療機関がでてくる恐れがある。

このため厚生労働省難治性疾患克服研究事業「特定疾患患者の生活の質(QOL)の向上に関する研究」班(班長:国立病院機構新潟病院、中島孝)では、患者さんを守り難病ケアの質の向上に寄与する目的で、「事前指示(書)」(Advance directives)に関して、その必要性にまで遡り根本から議論する会合をもった。メンバーは班員と有識者を中心とし、非公開で計3回、延べ10時間半おこなった。公表されている事前指示書、自己決定内容の表現方法等の文献を幅広く収集して資料とし、それらを参考にして委員各自の立場から発言・討論した。さらにメーリングリストを用いて確認をおこなった。その一部は平成17年度研究報告会にて各委員から報告されたが、今後は細部のすり合わせ等をおこない、関連研究班の担当者との交換意見も反映させ、本年6月に中間報告の公表を予定している。

 事前指示(書)に関して委員が共通に理解したと思われる議論の方向性を以下に記すが、中間報告書の公表までは、準備会や研究班の公式見解ではないことを断っておく。

@「指示」は患者の権利であり、どんな時点でも取り下げを含む変更・見直しができる必要がある。A単なる患者の希望ではなく、医療者と患者との間でおこなわれるインフォームドコンセントを踏まえて、それを補完する目的の場合にのみ意味がある。この点が、「尊厳ある死」の観点から一方向的におこなわれる「尊厳死の宣言書(リビング・ウィル)」とは異なる。Bごく近い将来にはおき得ない状態や想像が困難な事は、指示内容になじまない。意識障害などで患者本人が意思表示不能になったときの、緊急処置内容に限るべきである。C患者の自己決定過程をサポートする多専門職種ケアの充実が前提である。

以上を考慮した事前指示(書)ならば、一定の条件下では有用と考えることには意見の一致をみた。しかし、前提であるインフォームドコンセントやケアの質が十分に担保されている現状とはいえず、基本的な信頼関係さえ乏しい事例もあるとの指摘がなされた。また事前指示をしないという決定も尊重されるべきである。

さらに「事前指示」という用語の見直し、および代理人(代諾人)の指名やvalue profile による方法も含めて検討し、何らかの指針の作成を目指す。関連する他研究班との合同検討会もおこなっていくことが議論された。

 

[ii] 「英国では1967年以来根治療法のない疾患に対して、緩和ケア(Palliative care)が行われ、聖クリストファーホスピスのシシリー・ソンダースらによってALSに対しても緩和ケアが提供されてきた9。緩和ケアとは根治療法のない患者の生きる意味の崩壊をくいとめ「尊厳死」意識を解消し最後まで最高のQOLを目指すケア過程であり、「美しく死ぬ」ことを目標とするケアではない。その中で、個々の緩和ケア技術(Palliation)や心理サポート技術などが工夫されてきた。PalliationとしてはALSの呼吸苦に対するオピオイド投与が強調されることが多いが、NPPVもまた、英国の緩和ケアにおけるPalliationのひとつとして実践されている。このような歴史の中で、Motor Neurone disease association(http://www.mndassociation.org/)は年に一回ALS/MNDに関する国際シンポジウムを主催し、そこで各国のモデルの情報は共有され相互に良い影響をあたえあっている。日本の難病ケアモデルと英国の緩和ケアモデルは、ケア原理として根治療法のない重篤な疾患に対して、Quality of deathを高めるという考え方をとらず、最高のQuality of lifeを目指すという共通の目標を持ったものと理解されてきている。」 (中島「ALSにおける呼吸療法総論」『神経内科』2006:64(4))

 



以下は資料
□■データー■□ 厚生労働省科学研究費補助金
「ALS患者にかかる在宅療養環境の整備状況に関する調査研究」
平成15年度 研究報告書 主任研究者  川村 佐和子
*     全国の保健所(保健センターを含む)598ヵ所から有効回答519ヵ所を得た。回収率86.7%
 
ALS患者数             5,771人 (平成14年度ALS申請者  6,646人)
 
●人工呼吸器装着患者        1,530人
●在宅人工呼吸器使用  男 529人(67.9%)
            女 249人(32.0%)
           合計 779人(100%)
●総合的なADL   全面介助 719人(92.3%)
          一部介助  40人( 5.1%)
          ほぼ自立   7人( 0.9%)
          不明    13人( 1.7%)
●医療処置が必要な760名のうち
吸引            722人(95.0%)
胃ろう           524人(68.9%)
膀胱カテーテル留置     214人(28.2%)
酸素療法          157人(20.7%)
●主な介護者
配偶者           656人(84.2%)
子ども           235人(30.2%)
ヘルパー          196人(25.2%)
看護師           153人(19.6%)
子の配偶者          50人( 6.4%)
●その他の介護者
協力してくれる家族がいる   95人(32.3%)
なし            125人(42.5%)
(約75%が家族だけで介護をしている)
●人工呼吸器使用期間
1年未満          116人(15.6%)
1〜2年未満        140人(18.8%)
2〜3年未満        118人(15.8%)
3〜4年未満         81人(10.9%)
4〜5年未満         66人( 8.9%)
  5年以上        215人(28.9%)
 
MAX 23年   *人工呼吸療法により長期療養が可能である
 


□■参照■□

 [i] 「神経難病における事前指示書のありかたに関する研究グループ」準備会の進捗状況報告

厚生労働省難治性疾患克服研究事業「特定疾患患者の生活の質(Quality of life, QOL)の向上に関する研究」班、分担研究者、 国立病院機構新潟病院診療部長  伊藤博明

ALSなどの神経難病領域では、診療指針が十分に普及していない状況であるのに、各種の事前指示書が提案されている。このままでは「患者さんの自己決定だから」と、治療を放棄する医療機関がでてくる恐れがある。

このため厚生労働省難治性疾患克服研究事業「特定疾患患者の生活の質(QOL)の向上に関する研究」班(班長:国立病院機構新潟病院、中島孝)では、患者さんを守り難病ケアの質の向上に寄与する目的で、「事前指示(書)」(Advance directives)に関して、その必要性にまで遡り根本から議論する会合をもった。メンバーは班員と有識者を中心とし、非公開で計3回、延べ10時間半おこなった。公表されている事前指示書、自己決定内容の表現方法等の文献を幅広く収集して資料とし、それらを参考にして委員各自の立場から発言・討論した。さらにメーリングリストを用いて確認をおこなった。その一部は平成17年度研究報告会にて各委員から報告されたが、今後は細部のすり合わせ等をおこない、関連研究班の担当者との交換意見も反映させ、本年6月に中間報告の公表を予定している。

 事前指示(書)に関して委員が共通に理解したと思われる議論の方向性を以下に記すが、中間報告書の公表までは、準備会や研究班の公式見解ではないことを断っておく。

@「指示」は患者の権利であり、どんな時点でも取り下げを含む変更・見直しができる必要がある。A単なる患者の希望ではなく、医療者と患者との間でおこなわれるインフォームドコンセントを踏まえて、それを補完する目的の場合にのみ意味がある。この点が、「尊厳ある死」の観点から一方向的におこなわれる「尊厳死の宣言書(リビング・ウィル)」とは異なる。Bごく近い将来にはおき得ない状態や想像が困難な事は、指示内容になじまない。意識障害などで患者本人が意思表示不能になったときの、緊急処置内容に限るべきである。C患者の自己決定過程をサポートする多専門職種ケアの充実が前提である。

以上を考慮した事前指示(書)ならば、一定の条件下では有用と考えることには意見の一致をみた。しかし、前提であるインフォームドコンセントやケアの質が十分に担保されている現状とはいえず、基本的な信頼関係さえ乏しい事例もあるとの指摘がなされた。また事前指示をしないという決定も尊重されるべきである。

さらに「事前指示」という用語の見直し、および代理人(代諾人)の指名やvalue profile による方法も含めて検討し、何らかの指針の作成を目指す。関連する他研究班との合同検討会もおこなっていくことが議論された。

 

[ii] 「英国では1967年以来根治療法のない疾患に対して、緩和ケア(Palliative care)が行われ、聖クリストファーホスピスのシシリー・ソンダースらによってALSに対しても緩和ケアが提供されてきた9。緩和ケアとは根治療法のない患者の生きる意味の崩壊をくいとめ「尊厳死」意識を解消し最後まで最高のQOLを目指すケア過程であり、「美しく死ぬ」ことを目標とするケアではない。その中で、個々の緩和ケア技術(Palliation)や心理サポート技術などが工夫されてきた。PalliationとしてはALSの呼吸苦に対するオピオイド投与が強調されることが多いが、NPPVもまた、英国の緩和ケアにおけるPalliationのひとつとして実践されている。このような歴史の中で、Motor Neurone disease association(http://www.mndassociation.org/)は年に一回ALS/MNDに関する国際シンポジウムを主催し、そこで各国のモデルの情報は共有され相互に良い影響をあたえあっている。日本の難病ケアモデルと英国の緩和ケアモデルは、ケア原理として根治療法のない重篤な疾患に対して、Quality of deathを高めるという考え方をとらず、最高のQuality of lifeを目指すという共通の目標を持ったものと理解されてきている。」 (中島「ALSにおける呼吸療法総論」『神経内科』2006:64(4))


up:20061023