『 障害者自立支援法と、福祉制度改革に思う 』
NPO法人ALS/MNDサポートセンターさくら会
橋本 操
【障害者自立支援法とALS】
信じられない事ですが、多くのALS患者に障害者施策は届いていません。「介護保険優先」の一文があるため、三万五千円の一割負担(介護度5の場合)を使いきり、なお半分以上のサービスを訪問介護で使うとの原則をクリアしなければ、支援費によるヘルパー派遣は不可なのです。ALS患者は、医療依存度の高いとされる障害者です。介護も熟練を要するためヘルパーの養成には、時間も研修費も掛かるため、介助者は慢性的に不足しています。結果的に、家族に介護負担が重くかかり、個人がその他の個人の生活を侵食しなければ、社会に生きることができないのです。
何度か社会保障審議会障害者部会を傍聴し、強く感じた事があります。その発言に、怒りすら覚えた有識者と呼ばれる委員の「ボランティアを活用すべき」とか「サラリーマンの月収より障害者への拠出金が多い事は、国民の理解が得られない」との意見は衝撃でした。支援費は、障害者の収入ではありません。
私が障害者である事により、多くの学生のQOLの向上とソーシャルワークの実践に寄与してきたと考えますし、それは、紛れも無い事実なのです。横道に逸れましたが、ALS患者が社会に暮らすためには、医療・福祉・保健の連携が不可欠で、その点が難病の難病たる所以でしょう。医療費を例にあげても、重度の場合は自己負担無しですが、軽度の場合は負担あり。保険適用外は全て自費です。今回、極めて重度の障害者には、包括払いが適用され、ALSで人工呼吸器を使用している障害者は、この枠に入るはずです。が、ここには多くの懸念が残ります。前述のように私たちは、極めて重度の障害者で、且つ医療依存度が「非常に」高いとされていて、訪問介護員(ヘルパー)の仕事も制約をうけています。介護保険開始後のヘルパー派遣は、まさに絵に描いた餅の状況が続いているのです。
【問題は、どこにあるのでしょう?】
厚生労働省は、現行の介護保険のベースを変えないと言っています。極めて重度な障害者は、包括払いを適用すると言っています。応益負担を上限を設けて導入すると言っています。ALS(筋萎縮性側索硬化症)の人工呼吸器使用者は、間違いなく「極めて重度の」に分類されるのですが、ALSで人工呼吸器使用者は、ALS患者の僅か三割弱なのです。7割の方は、「極めて重度」とは分類されず、永遠に3万5千+?+医療費の支払いが続くのです。
【応益負担の重さと包括の危うさ】
ALSの場合、多くは働き盛りの年代に発病し、家族は介護の担い手として見られます。家族の一人が発病すると、一家の収入が絶たれる事も少なくありません。これが故に、介護保険35万円の自己負担分3万5千円を使い切れず、支援費も届いていないのです。応益負担が導入されたら推して知るべし、絵に描いた餅になる事はALS当事者として断言できます。
支援費制度以前、私は介護保険3万5千円+障害者ヘルプサービスの応能負担で15万円近い金額を支払っていました。その金額は、ほぼ私の年金手当に相当するモノですが、当時は、配偶者も特別障害者手当が支給停止になる程度の収入があり、同居していましたから国民の義務として、必死に応能負担を払い続けてきました。が、独居の今は無理です。昨日も、社会保障審議会障害者部会委員の方が、臆面も無くテレビで語っていました「介護保険との統合を視野に入れている。障害者にも一割程度の負担は許容範囲では無いのか?」と言う主旨でした。当事者に視点を変えなければ理解できないとは思いますが「収入の増えない家庭から一円も取ってはいけないし、取れない」のです。介護保険開始時に、それまで無料で受けていた高齢者施策の巡回入浴を止めざるを得なくて、真っ白なケアプランしかできなかったケースを私は見ています。したがって、どの様な巧言甘言も鵜呑みにはできないのです。重度障害者が隣人と生きている文化を、再評価できるチャンスです。
【生きる事、生活する事】
障害者自立支援法の応益負担が、喧伝されている通りの上限額であれば、衣料費、食費の殆ど不要な私には支払えるかも知れません。寝ていれば良いのですから。24時間365日。でも、それは自立支援でも、社会保障でもありません。社会生活の剥奪です。地域社会に生きる個人として、少なくとも一般に食費が削れるものでしょうか?普通は餓死すると予想されますが、いかがでしょうか?この時代に、障害者がバタバタと餓死してゆく。これは、起こり得る現実です。ALSは医療依存度が高いとされ、訪問介護より訪問看護の利用が望ましいとされています。しかしながら、難病中の難病と言われる私でも、看護師の訪問は平日のみです。たとえば私は現状、24時間の介護保険+支援費を受けています。
訪問看護の単価は一時間4000円(市場価格)で、もしも包括が数百万になっても、資格要件がついたら訪問看護が三百万円弱になり、支援費が幾らあっても足りませんね。
『病院から在宅へ。安心して自分らしい生活を』
特定非営利活動法人ALS/MNDサポートセンターさくら会
北谷 好美
障害を持つ私達にとって、自分達が暮らしている地域社会において安心して普通の生活ができる保障が必要です。
特に、私のように最重度の難病といわれているALS患者にとっては、この度の自立支援法によって今までのQOLを下げることなく在宅療養を維持していけるかどうかが最重要課題となります。
ALSは進行性の難病ゆえ、病気の進行と共に介護の形態も変わってきます。私は未だに人工呼吸器は使っていませんが、将来的には呼吸器をつけて在宅で生き続けたいと思っています。ALS患者のうち呼吸器をつけているものは約3割にすぎないと云う実情を考えると、介護保険と支援費制度無しにこの選択をすることは不可能です。
両制度を組み合わせて、医療・看護・介護体制を整え、在宅でも自分の望む生活を送る事は可能ですが、其処には、さまざまな問題があります。
私の場合、いままでの支援費制度の時間数では足りませんでした。時間数が足りないと云う事は、必要なサービスが受けられないと云う事です。ALS患者の大半は、24時間介護が必要なのです。介護が受けられないということは、死活問題なのです。
支援費は介護保険を使いきらないと使えないという不具合もありました。他にも問題点は多々ありましたが、なんとかなっていた所に、また今度の改革です。予算が足りなくなったから、1割負担にしますでは、あまりにズサン過ぎます。多くの障害者は仕事を持っていません。特に、難病の患者が就労に就く事は難しいとおもわれます。収入がないから支払えないのは当然の事で、そういう社会的弱者を救えないとなると、この国の将来が不安になります。
いままでは、従来の支援費制度と介護保険制度でなんとかなっていましたが、すべてのALSの在宅患者が私のように、ある程度のレベル(十分ではないけれど)を持って生活しているわけではありません。私の事をお話しますが、これはほんの一例に過ぎないと云う事を念頭に置いて聞いて下さい。
私は34歳で発病。36歳で妊娠。37歳で出産。発病当時は自分の事は、かろうじてできていたものの39歳ぐらいから全介助、24時間体制が必要となりました。今は24時間を介護者と過ごしながら、今年10歳になった娘と夫と暮らしています。当然の事ながら、障害年金だけでは生活はなりたちません。夫が仕事をしないで介護に専念するなど到底無理な話で、一家全滅になってしまいます。24時間を他人介護に頼らざるを得ないのです。
私は主婦であり、子育てをする母であり、夫にとっては悪妻であり、ALS患者としては活動家?(ようやく活動を始めたばかりですが)として、障害に負けずに自立してやって行こうと思っています。こんなに過酷な病気でありながらも、在宅で療養生活を過ごせるということが、生きる力を与えてくれるのです。
もし、私が妊娠・出産をあきらめ、病院の白い壁に囲まれて、進行する病気と孤独の狭間で闘いながら生きる方を選ばざるを得なかったとしたら、今の私はいなかったかもしれません。
一番困難だといわれているコミュニケーションについても、在宅ならば、慣れた介護者に自分の意思を伝える事ができます。病院では、どうでしょうか?決められたタイムスケジュールの中で、ただ淡々と月日が過ぎていくような気がします。そこでは、母である事も、妻である事もなく、患者というだけの役割のない個人になってしまいます。
ALSと云うと呼吸器を付けて寝たきりだとおもわれがちですが、呼吸器を付けても在宅療養を続け、積極的に外に出掛けて生活を楽しんだり、社会的にも活躍されている方が大勢います。
また、私のようにALSでも呼吸器をつける前の患者に対しては、比較的手がかからないと思われがちですが、呼吸器をつけている患者と同等、または、それ以上のケアを必要としています。そして、呼吸器をつける前の患者の多くは、病気の進行が早く介護が追いつかないのが現状です。
私の場合も全身制介護人派遣制度のときは、呼吸器をつけている人達が16時間認められていたのに、呼吸器をつけていないからというだけで8時間しか認められなかった経緯があります。福祉事務所に何度も嘆願し要望書を出し、ようやく認めてもらいましたが、娘が小さかった事もあり、私にとっては大変辛い時期でした。本当に大変なのは呼吸器をつける前なのかも知れません。
安心して在宅療養を続けるためには、吸引などの医療環境、訪問看護、ヘルパー体制などを十分に整えなければなりません。もう一つ大事な事は、家族の負担を減らす事です。家族介護が限界を超えると患者は病院行きを選ばざるを得ません。社会福祉制度や医療環境を充実させて障害を持つ者も安心して暮らせる社会を構築できるように、皆さんのお力添えをお願いして終わりにします。 2005年5月11日(水曜日)
『無理です、無茶です』 さくら会 川口有美子
制度移行には十分な準備期間が必要。急な環境の変化に弱者は耐えられません。性急すぎます。
【吸引+長時間のニーズに応えて】多くのヘルパー(事業者)は吸引をせず、単価の安い長時間利用や日常生活支援は断られます。
【地域格差の解消はできるか】ALSで日常生活支援利用者は全国で80名ほど。それもほとんどが大都市圏に集中しています。地方の患者は長時間ヘルパー利用ができず、家族に完全に依存した自由がまったくない生活を強いられています。
【事業者やヘルパーの資格要件】事業者や従業者の資格要件を厳しくすれば介護従事者がいなくなります。また、医療的ケアと言っても素人の家族にできるのです。しかし、今の単価では安すぎて利益を追求する一般の事業者が参入してきません。ALSの介護研修に平均150時間以上(当社)、家族へのピアサポートも必要ですが、すべて事業所の負担になっています。
【定率負担?】介護保険の1割負担は所得が激減した難病家族を直撃し、乏しい家計から支払いたくない患者家族は介護保険を使わず、支援費制度も使えていません。今もほとんどが24時間介護を家族だけで行っていて、患者の子供たちは高等教育や就職、結婚の機会を奪われました。疲れきった家族の介護ミスで患者が死んでいます。本当にこれが福祉なのでしょうか。
【障害に応じた介助や介護】それぞれの障害に、その時々の症状に応じた柔軟なサービスと見合った支給量とが必要になります。たとえば、ALSでは呼吸器装着の前にどれくらいの支援が受けられるかで、障害者として生き続けるか、病人として死んでいくか決まってしまいます。また、3障害統合と言っても身体、知的、精神、難病といった個々の障害の多様性に応える工夫が現場サイドできない制度では意味がありません。同時進行で尊厳死の法案化が検討されているようです。自由を奪われた人たちが自己決定できるとしたら、それは真の自立や平等への道ではなく死に繋がっていく道になりそうですね。
【生存権の保障は国の仕事】医療ニーズが濃い障害者には、地域の福祉行政が責任をもって生存権の保障をしてください。民営の事業者や委託機関に丸投げして責任を放棄しないでください。2005年5月15日