障害者自立支援法によるALS等の長時間介護にかかる問題点
2007年4月1日 川口有美子

本報告書では、次のことを順次述べる。
T、平成18年10月から本格的に実施された障害者自立支援法(以下、自立支援法)が、ALS等医療的ニーズのある者の在宅療養に与えた影響とその解決策、また激変緩和措置などの通達や予算化された対策について。
U、自立支援法においても保障の対象にならなかった難病の支援の必要性について。(本文から割愛)

T、ALS等医療的ニーズのある在宅療養者に障害者自立支援法が及ぼした影響
1、 居宅介護は必要があれば重度包括支援対象者の利用も可能である。
自立支援法における居宅介護は、短時間(1回当たり30分〜1.5時間程度が基本)集中的に、身体介護や家事援助などの支援を行う短時間集中型のサービスであり、その報酬単価は、重度訪問介護と比較して高い単価設定になっている。これは1日に短時間の訪問を複数回行うことにより、居宅における介護サービスの提供体制を強化するために設定されているものであり、利用者の生活パターンに合わせて居宅介護を行うためのものである。従って重度包括支援の対象に判定された者でも、必要があれば利用することができるはずだが、区市町村によっては、1日3時間以上介護が必要な者に対しては、従来の居宅介護の身体介護(1時間4200円ほど)から、単価の安い重度訪問介護(1時間1700円ほど)への切り替えを積極的に行っているところがある。そのため、サービスを居宅の身体介護から重度訪問に切り替えられ、収益率の激減した利用者から撤退する事業所が相次いでいる。身体介護を1日に複数回利用可能なことを記した通知は、厚労省から発出済みである。周知徹底が必要である。[1]
 
2、 事業所収入の激減から、独居ALS患者の在宅療養が破綻している。
 
移動介護や重度訪問介護の基準単価が低下したことにより、軽度の利用者や知的障害者の移動介護を多く提供してきた事業所は軒並み減収になった。そのため、長期にわたって個別の研修を必要とするALSの利用者は、事業所の負担となることが多々あるため、サービスの提供を断られる傾向にある。独居のALS患者の場合、更に深刻な事態になっている。たとえば、特定できる2名の独居患者の生活が困難になっている。そのうち二名とも病院に緊急避難し現在も入院中で在宅療養再開の目途がつかない。一方の者が住民票を置く当該の市町村では、事態を重く見て独居の重度包括支援対象者に対して、1日24時間の介護保障を検討しているが、身元保証人がいないため当人は地元に戻れない状況となっている。もう1名は支援者が事業所に派遣の継続を依頼している最中である。事業所の確保のためには、多様なケアを必要とするALS等への十分な報酬加算が必要であろう。しかし、単価が上がる同時に給付時間の減少につながらないことが重要である。
 
3、      重度包括支援対象者が重度訪問介護を利用する場合の15%加算の判定に地域格差がある。
 
十分な加算ではないが、重度訪問介護利用時、重度包括支援対象者(障害判定区分6以上)は重度訪問介護(障害判定区分4)の単価の15%加算とされた。しかし、自治体による審査判断により、明らかな重度包括支援対象者でも7.5%加算の判定にとどまっているケースが少なくない。(気管からの呼吸器装着者で、通常のコミュニケーションが困難な者が15%加算対象だが、コミュニケーションの不可の判定が曖昧)利用者負担に加算請求がされるわけではないが、事業所にとってはサービスに対する正当な評価にならない。現段階では、気管切開した者に限定されるが、通常の方法での会話が困難な者については、基準単価より一律15%加算になることを、通達等で明示し徹底して欲しい。
 
 
4、      介護保険優先による自立支援法利用の抑制がある。
 
介護保険を使用しても更に障害者施策による介護が必要な場合は、上位法である介護保険を全額利用した後に、利用可能になることが条件となっている。しかし、介護保険では、障害者施策では日常生活援助の一部と理解されている日常的な吸引や経管栄養を含むケアプランを作成できない。また一般的に高齢者の介護保険を中心に扱っている事業所のヘルパーは、障害者のケアに理解が乏しく、吸引も実施しない傾向になるため、多くのALS利用者はサービスに満足できず介護保険の全額を使い切れていない。そのため自立支援法だけにある重度訪問介護の長時間サービスが利用できない地域が多発している。高齢で重度の身体障害のある者は、複合的なケアニーズが発生するため、介護保険優先の適用を撤廃し、利用者のニーズにより、どちらのサービスも最初から利用できるようにしたい。
 
5、      患者間、地域間格差が生じている。
 
重度訪問介護での長時間サービスの実施事業所がある地域とない地域とでは、介護体制の地域間格差が広がっている。ヘルパーの医療的ケアや長時間介護が実現している地域では、深夜も含む長時間滞在が進み、家族介護者のQOLが高まったが、そうではない地域では家族の介護疲労は深刻さを増している。また、支給決定においても、制度改正前の従来の利用者と新しい利用者の支給量格差には不公平感が否めず、新たな受給者に不満が募っている。障害者自立支援法が、当初目指していた「公平性」や「透明性」を確保する意味での地域間あるいは個人間の格差は解決されず、かえって広がっている。
 
6、      24時間介護が必要な者の介護保障は全額を国庫負担ですべきである。
 
自立支援法の財源は、義務的経費になったものの、国庫負担の基準が設定されてしまっているため、実質的には、上限が設定され管理されているのと同じである。自治体による上乗せは可能だが、ALS等の人工呼吸器利用者や、そのような者の在宅独居生活に理解が乏しい地域ではおこなわれていない。そのため、生存のために24時間以上の介護給付が必要なTPPVの独居者に対しても、十分な支給がおこなわれず、患者の治療選択と継続の自己決定に多大な影響を及ぼしている。生存のために24時間以上介護が必要な独居の呼吸器利用者に対しては、自治体の裁量に任せず、国が義務的経費で介護保障を全額負担することを検討されたい。
 
7、      重度訪問介護ヘルパー養成研修の推進策が予算化[2]された。
 
当事者はALS等個別のコミュニケーション方法の習得にかかる実地研修費用を求めてきた。
これが全額事業所の負担であるために、ALSを倦厭する事業所が多かったのだ。だが、今年度と来年度は、ALS等の利用者に介護派遣をおこなう事業所一件につき、年間100万円(最重度は200万円)の特別助成がある。前もって県から国に対して助成の要望をあげる必要があるが、費用は国と都道府県の折半になるため、地方自治体は適用を避けることが予想される。ヘルパーの医療的ケア研修に対する理解と自治体(特に保健福祉関係者)による積極的な支援が求められる。
 
8、      ヘルパーの資格化や、在宅ケアの「監視」が制度の利用抑制になる恐れがある。
 
訪問看護や介護保険のヘルパーと違い、自立支援法において長時間継続して介護に入るヘルパーは、資格化せず社会から広く人材を集めるシステムがよい。個々の患者宅で十分にOJTに時間をかけることが安全性を高めることにつながるからだ。たとえ、長期に渡る講習により標準的なケアを学んだとしても、利用者独自のケアを個別に習得するのでなければ、コミュニケーションを最も重視するALS等の利用者には決して受け容れられない。自立支援法の重度訪問介護のヘルパーは、介護の未経験者であってもOJTに時間をかけることにより十分効果があげられることは、利用してきた多くの患者家族が実証している。障害福祉は当事者主体の理念に築かれてきたものであり、当事者の生活を支えることを第一義として在宅でケアを担う多職種の協調は、家族を含む当事者の「日常生活」を充実させるために、非常に重要である。従って、制度における文面や文言は、職種に上下関係を作らず、高圧的にならないように、慎重に選ばれなければならない。
 
9、     介護保険と自立支援法の理念の違いが、ケアマネジメントを困難にしている。
 
介護保険にはケアマネージャーが、自立支援法には相談支援員が配置されるが、介護保険では利用者のニーズを反映したケアプランというより、利用者をプランに組み込もうとするケアマネージャーは少なくない。介護保険の制度設計において、進行性疾患に必要不可欠な柔軟性や個別多様なケアニーズに理解がないこと、家族介護者に対する支援を考慮しないことは大変な問題である。介護の社会化により家族の負担を少しでも軽減しようという思いがケアマネになければ、良いケアプランを立てることはできない。不本意のプランでかえって他人が家庭に入ってくることが負担になっている患者家族も少なくない。ケアマネージメントにおいても、双方の制度の整合性は問題になっている。
また、介護保険では今年度から、加算要件(体制、重度、要員)をクリアすれば、請求時に1−2割の加算ができる。ただし、その加算費用は、給付限度額から支出となるため、利用者にとっては、時間当たり単価は値上げと一緒で、強いては、利用可能な時間が減ること意味する。プラン状況によっては、時間換算で▲17%になる。これまで同じ人が来ていて、質もかわらないのに、時間数が17%も減ることは、療養環境確保(量)の視点から制度設計に不備があるといわざるを得ない。
 
10、 重度障害者等包括支援の実現には、サービスに見合う十分な報酬と事業者への支援、各施設の従業規則を緩和するなどの柔軟性が必要である。
 
今回、障害福祉課ではALSの週間ケアモデルの事例として、いくつかの家族構成を検討したが、家族全体のQOLの向上を目指した。今後、療養場所がますます在宅にシフトしてくることを予想すれば、在宅と地域の通所看護や施設を利用するケアミックスは、介護者のレスパイトのためにも実現しなければならない。家族の介護疲労は患者の治療継続に対する意思を弱めてしまう大きな要因であるから、呼吸器の装着・取り外しの議論の前に、患者の意思決定の背景にある家族の福祉にも目を向ける必要があろう。
図は、学童のいる女性患者のためのケアプランである。社会保障の乏しい地域では、母親には呼吸器を装着する自由はないに等しく、ALSにおけるジェンダーも問題とされるべきであるが、せめて子の成長を見守りたいという女性患者は少なくない。
そのような患者の実例を元に作成したモデルプランである。日中は、夫の通勤と娘の通学に合わせて、通所介護へ。夜間深夜帯は家族の負担を軽減するために、ヘルパーが滞在し介護をおこなう。家族関係の安定と子どもの健全な育成のためには、同居家族がいても独居患者同様24時間近い介護保障が必要である。だが、同居の配偶者は多くの場合で介護のために就労から退くことになってしまっている。そうなれば、このケースでは、子の教育費の財形もできないばかりか、母親の介護もいずれ子の義務となり、縛り付けることにもなろう。その他にも高齢の家族による高齢の患者のケアプランや、若年層の患者のための自立プランなどが考えられる。  
このように、包括的なプランでは、家族構成や将来の希望を聞き取った上で、一ヶ月当たりの給付量を試算するシステムが必要がある。身体介護のみならず、通所看護への移動にも二人以上の付き添いがいるし、療護施設でのデイケアや短期レスパイトに馴染んだヘルパーの付き添いを求める患者の声は切実であるが、施設外職員の勤務が容認されるか否かは定かではない。包括払いでは予算が先行し必要なサービスを限定するものにならないようにしたい。患者のニーズに見合ったサービスの予算化が求められる。

重度障害者等包括支援サービスのモデルプラン

1のまとめ
1、24時間介護が必要な独居患者には、国庫負担により給付の全額を国が保障すること。
2、ALSの在宅介護を受け持つ訪問看護と訪問介護の各事業所やステーションに対する、諸所の助成を柔軟に継続しておこなうこと。
3、ALS等にサービスを実施する事業所の増進のためにも、サービス単価を高く設定するという提案もありえるが、利用者の給付時間の減少や自己負担の加算として反映されないように、報酬単価とは別枠の予算で保障すること。 
4、ヘルパーの専門性や資格化は、常にヘルパーを補充せねばならない長時間介護が必要な患者のニーズに適合しない。コスト面からも、一般の地域住民を有償ヘルパーに採用し活用する方法を考えること。
5、地域の医師会と病院の連携により、定期的なレスパイトの場所と予算を確保すること。
6、介護の社会化により、家族介護者の福祉に配慮した政策を推進すること。
7、ALS等のケアを特別なケア(それを利用する特別な人たち)として位置づけない政策的配慮。
8、ケアプラン作成において、介護保険と自立支援法のサービスを柔軟かつ同時に、前後なく利用できるようにすること。
9、高齢者のニーズを基に作成された介護保険のサービスに、日常的な吸引や経管栄養の注入、血行を促し関節をやわらかく保つための体操やマッサージなど、神経難病の人の身体介護に必要なケアを明示し、算定できるようにすること。TPPVの患者に必要なケアをケアマネに周知すること。
10、国の通達が自治体の保健福祉行政に即時に反映され、福祉や介護保険の申請窓口でも徹底されること。
11、通知や政省令の文言は、利用者を主体とする理念で統一されていること。


[1] 10月30日付の重度訪問介護に関する解釈通知。11月2日に障害福祉課から都道府県にメールで送付。[2] 12月26日 障害保健福祉関係主管課長会議《自立支援対策臨時特例交付金による特別対策事業》《在宅重度障害者地域生活支援基盤整備事業、F別紙4》参照のこと。資格要件を満たす事業所に助成。

 本文は難治性疾患克服研究事業報告書「特定疾患患者の生活の質(QOL)の向上に関する研究」班報告書に掲載した。

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