「進化する介護」・・・・・ヘルパーの吸引関連資料      

 

*吸引とは

 1、突発的に喉に詰まった異物を吸いだす行為によって他者が他者を救命する医療行為

 2、気管にたまった痰や異物を吸いだす行為によって他者が他者を救命する医療行為

 3、気管や鼻に・・・・・・・・・・・他者が障害のある他者の介助として行う日常行為

現在のALSの吸引の理解は違法阻却性を用いた2の行為としての位置づけである。

しかし、2から3への移行が検討されている最中でもある。

 

1、介護保険法の成立過程とALSの在宅介護の幕開け

「介護は非医療的、非看護的、非専門的なもの」。日本の伝統的な家族規範によって、在宅介護は家族構成員などの世帯内で処理されるべきであるとされてきた。そのため、老人福祉法の老人家庭奉仕事業による地域・在宅福祉サービス提供も制定当初は任意的な行政要綱にもとづくものとされてきた。

しかし、高齢社会が見え始めた1989年、平成元年に高齢者保健福祉推進十ヵ年計画(ゴールドプラン)が定められ、1990年、平成2年には老人福祉関係八法が改正された。それによると@65歳以上の要介護高齢者を対象にA国の機関委任事務による老人福祉措置行政権限を市町村の団体委任事務に委ね、B要綱行政施策の在宅福祉サービスを、法措置による高齢者入居施設と同格の法行政措置とし、C在宅老人福祉対策事業は、ホームヘルプ(訪問介護)、ショートステイ(短期入所生活介護)、デイ・サービス(日帰り介護)、在宅介護支援センターの四本柱とされ、D公私の役割と協力関係が明示された(老人福祉法10条の3,4等)。

また1994年、平成6年3月には、1986年、昭和61年6月の閣議決定「長寿社会対策大綱」をふまえて、厚生大臣の私的懇談会「高齢社会福祉ビジョン懇談会」から、「21世紀福祉ビジョン=少子・高齢社会に向けて」と題する報告書が発表された。

ALSの在宅療養環境も以上のような高齢者の高齢者保健福祉推進計画の推進に伴って、しだいに整備されていった。1990年に在宅人工呼吸療法に社会保険適用、1992年には東京都・千葉県で在宅療養患者を対象に人工呼吸器の貸し出し事業が始まった。それは地域の病院が在宅療養患者のために人工呼吸器を購入する際、その購入費用を補助するというもので台数はそれぞれ年間たったの2台であった。しかし、呼吸器を購入する費用が調達できず、かかりつけ医が見つからなければ自宅療養に戻れなかった患者家族にとって、それは朗報であった。

 1996年に介護保険制度が国会に法案として上程された。その際、管直人厚生大臣に日本ALS協会はALSもその対象に加えることを要請した。在宅療養の普及にともない在宅患者は家族役割と頻繁なナースコールにも家人に対応してもらえる安心を取り戻したが、一方で家族介護はますます深刻化していたのである。特に夜間の吸引を伴う介護は家族から睡眠を奪い、病院にいれば中座も許され夜間や休日は自宅で休養できたものを365日24時間介護に拘束した。

しかし、期待の介護保険制度の開始時から日本ALS協会には苦情が殺到した。それは従来の障害者施策によるヘルパーが介護保険制度下では就労できず、新しいヘルパーとの交代を余儀なくされたこと、また、身体介護のサービス提供時間があまりに短く必要な介護をヘルパーに覚えてもらえない。ヘルパーが事業所の都合で交代してしまう。夜間や休日に対応しない。そして、もっとも必要なケアである気管からの吸引をしてもらえないので、ヘルパーがいても家族は患者の傍を離れることができず、それではまったく意味がない。不十分なサービスに対して1割(およそ3万8千円)もの自己負担は支払いたくないというものであった。そして、介護保険の利用がなかなか進まない中消費者意識に目覚めた患者家族から協会への運動の要請が日増しに高まったのである。

そこで、日本ALS協会は吸引問題早期解決委員会(委員長、海野幸太郎)を設置し署名活動を展開し、2002年11月「ALS等のたんの吸引を必要とする患者に医師の指導を受けたヘルパー等介護者が日常生活の場で吸引を行えるようにしてください」との要望を全国から集めた18万近くの署名と共に当時の坂口力厚生労働大臣に直接提出した。早期解決を口頭で約束した坂口大臣はその要望を受けた国に預け、厚労省は2003年2月より8回に渉って「看護師等によるALS患者の在宅療養支援に関する分科会」を開催した。しかし、看護師や医師、学者などで構成された分科会では在宅介護の負担を軽減するような実質的な話し合いはなかなか行われず、相変わらず家族以外の者の医療行為を危険とみなし制限しようとしたために、不満をもった患者会はその5月「ヘルパー等介護者によるたんの吸引実施に関する要望書」を大臣に再度提出したりした。

 分科会では最終的な報告書を提示し、「在宅ALS患者の療養環境の現状にかんがみ、当面やむを得ない措置」として、ALS患者に限って3年間の時限つきで家族以外のものにも吸引を容認する方向でまとまった。しかし、その内容は以下のようなものであった。

@) 療養環境の管理

○  入院先の医師は、患者の病状等を把握し、退院が可能かどうかについて総合的に判断を行う。

○  入院先の医師及び看護職員は、患者が入院から在宅に移行する前に、当該患者について、家族や在宅患者のかかりつけ医、看護職員、保健所の保健師等、家族以外の者等患者の在宅療養に関わる者の役割や連携体制などの状況を把握・確認する。

○  入院先の医師は、患者や家族に対して、在宅に移行することについて、事前に説明を適切に行い、患者の理解を得る。

○  入院先の医師や在宅患者のかかりつけ医及び看護職員は、患者の在宅への移行に備え、医療機器・衛生材料等必要な準備を関係者の連携の下に行う。医療機器・衛生材料等については、患者の状態に合わせ、必要かつ十分に患者に提供されることが必要である。

○  家族、入院先の医師、在宅患者のかかりつけ医、看護職員、保健所の保健師等、家族以外の者等患者の在宅療養に関わる者は、患者が在宅に移行した後も、相互に密接な連携を確保する。

A) 在宅患者の適切な医学的管理

○  入院先の医師や在宅患者のかかりつけ医及び訪問看護職員は、当該患者について、定期的な診療や訪問看護を行い、適切な医学的管理を行う。

B) 家族以外の者に対する教育

 

 

○  入院先の医師や在宅患者のかかりつけ医及び訪問看護職員は、家族以外の者に対して、ALSやたんの吸引に関する必要な知識を習得させるとともに、当該患者についてのたんの吸引方法についての指導を行う。

 

C) 患者との関係

 ○  患者は、必要な知識及びたんの吸引の方法を習得した家族以外の者に対してたんの吸引について依頼するとともに、当該家族以外の者が自己のたんの吸引を実施することについて、文書により同意する。なお、この際、患者の自由意思に基づいて同意がなされるよう配慮が必要である。

D) 医師及び看護職員との連携による適正なたんの吸引の実施

(注:別紙参照)

○  適切な医学的管理の下で、当該患者に対して適切な診療や訪問看護体制がとられていることを原則とし、当該家族以外の者は、入院先の医師や在宅患者のかかりつけ医及び訪問看護職員の指導の下で、家族、入院先の医師、在宅患者のかかりつけ医及び訪問看護職員との間において、同行訪問や連絡・相談・報告などを通じて連携を密にして、適正なたんの吸引を実施する。

○  この場合において、気管カニューレ下端より肺側の気管内吸引については、迷走神経そうを刺激することにより、呼吸停止や心停止を引き起こす可能性があるなど、危険性が高いことから、家族以外の者が行うたんの吸引の範囲は、口鼻腔内吸引及び気管カニューレ内部までの気管内吸引を限度とする。特に、人工呼吸器を装着している場合には、気管カニューレ内部までの気管内吸引を行う間、人工呼吸器を外す必要があるため、安全かつ適切な取扱いが必要である。

○  入院先の医師や在宅患者のかかりつけ医及び訪問看護職員は、定期的に、当該家族以外の者がたんの吸引を適正に行うことができていることを確認する。

E) 緊急時の連絡・支援体制の確保

○  家族、入院先の医師、在宅患者のかかりつけ医、訪問看護職員、保健所の保健師等及び家族以外の者等の間で、緊急時の連絡・支援体制を確保する。

 

このように医師の責任や在宅医療ネットワークの支援体制の確保が先行し、その上で医療職ではない介護職の吸引を認めることになった。だが現実的には、ヘルパーの指導をおこなう訪問看護職員の確保はいつまでたっても困難を極めた。 地域の看護職はヘルパーに吸引などを指導しても医療保健でも介護施策においても算定できず無償の行為となり、しかもヘルパーの行為に対する責任の所在が不明確であった。また、気管カニューレ内に吸引カテーテルを留まらせては十分な吸引がおこなえないという患者本人からの苦情もあり、実際には気管の奥までしっかり吸引せよという命令が利用者である患者本人からあった場合、ヘルパーは困惑をしていまう。また、神経内科の専門医とかかりつけ医との連携がシステムとして構築されていないため、患者が気管を切開したりして退院し在宅に移行した場合に、ヘルパー教育がなされていない。家族にとってもこれは以前のままであり、いまだに多くの患者は呼吸器を着けられても病院からは何の指導もなくそのまま自宅に戻されているのである。

規則は出来たし措置としても一応は許容された。しかし実際にヘルパーに対して吸引を教えるのが誰なのか、そして制度として吸引が行われる社会的土台はまったく築かれていなかったために、このような措置がとられても多くの事業者はヘルパーに吸引行為をさせていないし、また、ALSには吸引をしない約束でしかヘルパーを派遣しない。ただ時が過ぎているのみである。

また、事業者側は経営面からも、ALSの介護はまったく儲けにつながらず、時に事業所の持ち出しで在宅療養を支えなければならないような場面も報告されている。たとえば、自治体の給付基準がかなり低く設定されていても、患者は自宅で療養する場合、どうしても自費が発生してしまう。しかし、長年の介護は家族の貯蓄を食いつぶし、所得の道を断っているのため支払い能力もないのが明らかであるから自費を徴収できないケース多く存在するのである。

2、支援費制度の導入

2003年にスタートした障害者施策の支援費制度は、介護保険とは違い障害者の自立支援を理念としてサービスの選択は当事者自身が行うことになっている。しかし、介護保険でも支援費制度でもALSの本人が自分に必要なサービスがわからない。進行性であるため今のニーズと一週間先のニーズが符号しないこともある。真に適切なサービスプランを提供できるケアマネージャーやコーディネーターは大変に希少であった。

また、他者を家族介護や訪問看護の補助とする一般的なALSの在宅介護の特殊性には配慮が求められ、経験せねばわからない個別的な要求が多い。コミュニケーションが困難でも患者本人は鮮明な意思を持ち、クレームは的確で回数もおおいので、それでヘルパーが追い詰められすぐに辞めたりするので、利用者と事業者の間で揉めることも多々ある。

ALSの在宅で行われている具体的な介護の内容に関する研究は希少であり、個別性とはいっても標準的な指標は必要とされる。24時間のうち時間帯によってもニーズは異なるし、また患者の体調や家族のイベントなどによっても要求される社会的な資源や支援は異なるのである。そのため、従来からALSの療養には医療的なケアも含めた柔軟で安全な介護体制がのぞまれている。

全身性障害者としての位置づけから、ALS患者にも重度障害者としての自覚と意思決定、自立が求められているが、多くの患者にとって他律的であることもまた安楽なのである。ヘルパーに介護職を超えたケアを望む患者家族も少なくはない。

以下に、ヘルパーが患者や家族といった利用者から介護を依頼されたときに、最初にどのように対応するべきかガイドラインを試みに標してみる。

1、医療的ケア(吸引)について患者との間に同意書を作成する。

  *→同意書の作成のしかた

2、医師や看護職の指導により医療行為を行う。その場合、患者の日頃の健康状態に注意をして、何らかの異変を見つけたらすぐに家族に連絡をし医療職の判断を仰ぐ。患者の体調がすぐれない時にはたとえ家族から介護を強制されても断っていい。

3、医師や看護との連携を強める。何でも相談ができる関係を築いておく。

4、介護職の最たる役割は、患者の手や足などの動力元として忠実に患者の希望をかなえることにある。コミュニケーションの方法をまず取得する努力をする。

5、患者のみならず、同居する家族がいる場合、家族の健康精神面でのサポートも必要である。また、家族との関係から患者との信頼関係が築きにくい場合もあるが、時間が解決することも多いので粘り強く対応する。

6、自分で判断せずに周囲に相談をすること。迷う場合は家族または看護職に相談をすること。

7、災害時の避難方法について利用者や事業者と日頃から相談をしておくこと。

 ・アンビューの使い方・アンビューの場所・連絡先・避難方法・家族の居場所の確認

 ・事業所との連絡・

8、患者に強制された事柄(セクハラなど)について悩まず家族や事業者に相談をすること。 *→同姓介護について

9、その他

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

04)東京都の全身性障害者介護人派遣事業では2002年度で1時間1430円、8時間支給された区では1日11,440円。練馬区、板橋区、杉並区のALS療養者には上乗せがあった(未調査)。中野区では1ヵ月平均354,640円の支給実績。この制度では市区町村に障害者が介護者を推薦登録し、介護時間に応じて介護者の銀行口座に介護料が振り込まれた。実際には代表者一人の銀行口座に全額を振り込んでもらってそこからの支払いは患者自身か家族が行っていた。各利用者ごとに介護者への支払い方法や基準は工夫され好きなように設定されていた。たとえば、ベテラン介護者には1800円、初心者には800円というように時給に差をつけてベテランを優遇したりしていた。支援費制度の導入に伴い各介護者の銀行口座への振込み実績が「みなし介護人」の登録証発行の条件となったため、上記のような方法をとっていた患者宅で働いていた介護者はみなし介護人資格を得ることができなかったこともあった。支援費制度目前にして各介護者の銀行口座への振込みを依頼する利用者が増えたため、区の職員も介護者の銀行口座の駆け込み登録に事務作業は倍増し業務に追われていた。支援費制度への移行に伴いALSもこの事業の対象から外されたが、外さないで欲しいという声も多かった。大雑把な制度であったため、各利用者により運用の仕方に工夫の余地があり、使い勝手はよかったのである。これらの制度について『生の技法』「第8章私が決め、社会が支える、のを当事者が支える―介助システム論―」(立岩)p228−265に詳しく解説されている。

05)介護保険は40歳以上で開始。支援費制度は年齢制限なし。

筆者はALS療養者や家族からの電話や面接、e-mailなどを媒体に在宅介護相談を受けたりするのだが、述べたような事例や家族の経済破綻などの相談もあり、これらALSなどに起こる諸問題を看破するためには、介護保障としての現金の直接支給は必要なのではないかと思う。この理論を制度に具現化していく必要は(すべての障害者に適応される必要はないのだが)でてくるだろうと思っている。このように考えていくと、「ダイレクト・ペイメント制度」*07)的なものの導入の検討とそして同時に「パーソナルアシスタント制度」的なものの可能性も探る必要がある。これら2つの約束事は特殊な介護技術のニーズや長時間介護が必要な全身性障害者の暮らしに応じるための根本原理ではないだろうか。介護事業運営やALS療養支援活動を通して筆者はこの2点についての必要性を確信しているのだが、ただ、そうした場合、自己決定できない人や自律困難な人にはコーディネーターが必要なのだが、そこを誰が担うのかが問題である。また、医療的ケアが必要な場合、ヘルパーが患者を引き受けやすくするにはどうするか、などの問題は残る。単純な発想を当てはめれば介護保険のようなケアマネージャが浮上してしまう。アセスメントを行う専門職の配置はケアの標準化をもたらすだろうが、それは提供者側の都合である。

07)ダイレクト・ペイメント制度。イギリスのコミュニティケア法(1996)による利用者経由の現金の直接給付。コミュニティケアの利用者はサービスの直接給付とダイレクト・ペイメントの現金給付のどちらかを選択できる。日本における支援費制度では事業者と自治体間の代理受領が行われ金銭の利用者立替がない。ダイレクト・ペイメントはフレキシブルな制度であり、利用者の自己決定を尊重するが、利用者はサービスの選択と管理を自分で行う必要がある。自立生活を促進する法のひとつで日本の支援費制度への適用も可能という。(小川)

09)『生の技法』第8章の7で立岩が8項目に渡って提案している(1)地域格差の是正(2)所得保障とは別立てで(3)障害種別の区分けをしない(4)判定に対する異議申し立て制度、代理人の存在(5)介護資源の給付方法(6)コーディネーターとしての非営利機関の必要性(7)(6)の組織が未成熟な地域ではある程度は行政がそれを担う必要性(8)組織経営のあり方について

 

 

「医行為」について

 

○ 医師法(昭和23年法律第201号)

 第17条  医師でなければ、医業をなしてはならない。

第31条  次の各号のいずれかに該当する者は、3年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

 一 第17条の規定に違反した者

 二 (略)

2 (略)

 

【解釈】

 

 医師法第17条に規定する「医業」とは、当該行為を行うに当たり、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為(「医行為」)を、反復継続する意思をもって行うことであると解している。

 

○ 保健師助産師看護師法(昭和23年法律第203号)

 

  第5条  この法律において「看護師」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、傷病者若しくはじよく婦に対する療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者をいう。

 

 

第31条  看護師でない者は、第5条に規定する業をしてはならない。ただし、医師法又は歯科医師法の規定に基づいて行う場合は、この限りでない。

2 (略)

 

第43条  次の各号のいずれかに該当する者は、2年以下の懲役若しくは50万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

 一 第29条から第32条までの規定に違反した者

 二 (略)

2 (略)

 

家族の医療行為について

家族が行う「たんの吸引」に関する違法性阻却の考え方

 家族が行う「たんの吸引」について、当該行為の違法性が阻却される場合の要件としては、下記のようなことが考えられるのではないか。

 (家族が行うことについて患者が同意していることが前提)

 

(1) 目的の正当性  ○  患者の療養目的のために行うものであること

 

 

(2) 手段の相当性  ○  次のような条件の下で、「たんの吸引」を実施 ・ 医師・看護師による患者の病状の把握

・ 医師・看護師による療養環境の管理

・ 「たんの吸引」に関する家族への教育

・ 適正な「たんの吸引」の実施と医師・看護師による確認

・ 緊急時の連絡・支援体制の確保

 

 

 

(3) 法益衡量  ○  「たんの吸引」が家族により行われた場合の法益侵害と、在宅療養を行うことによる患者の日常生活の質の向上を比較衡量

 

(4) 法益侵害の相対的軽微性  ○  侵襲性が比較的低い行為であること

 ○  行為者は、患者との間において「家族」という特別な関係(自然的、所与的、原則として解消されない)にある者に限られていること(公衆衛生の向上・増進を目的とする医師法の目的に照らして、法益侵害は相対的に軽微であること)

 

(5) 必要性・緊急性  ○  早急に「たんの吸引」を行わなければならない状況が不定期に訪れるが、医療資格者がすべてに対応することが困難な現状にあり、「たんの吸引」を家族が行う必要性が認められること

 

家族以外の者の医療行為について

平成10年度厚生省老人保健健康増進等事業、介護保険の導入を展望した訪問看護業務分析に関する研究において「訪問看護業務の難易度」調査によると、全国で訪問看護を実施している5年以上のエキスパート看護師104人に対し、訪問看護のケア内容130項目の難易度を調査した結果、もっとも難易度の高いケアの小分類として、1番が在宅人工呼吸療法が2.51、次が酸素供給器、人工呼吸器等の管理2.5、と続き、5番目に呼吸リハビリと続く。訪問看護の技術として高度な専門性と熟練した技術を要するものとして以上が挙げられている。(財団法人 日本訪問看護振興財団、担当者:常務理事 佐藤美穂子)

「 ALS患者の方から「吸引をホームヘルパーにさせて欲しい」という要望が上がっていることについて、現行制度では私どもが十分対応できてないと思われることに大変心を痛めています。ALS患者の吸引は、一人ひとり個別で、その時々に状況判断が求められる難易度の高い看護です。ALS患者の方が安心して家庭で療養が続けられるように、また、24時間365日付き添っていらっしゃるご家族のご負担を軽減するためにはどうすればよいか、訪問看護体制や制度について検討され、改善が図られるように切に望んでいます。」

 

1 訪問看護の現状

 

  ○  訪問看護ステーションは全国で約5,000ヶ所、30万人の方が利用されるまでになり、この10年間の伸びは著しいものがあります。

○  しかし、日本の在宅医療はやむを得ずご家族が医療処置を行うことを前提としてなりたっており、在宅医療体制の整備が十分されてこなかったことを残念に思います。訪問看護サービスは、訪問看護ステーションの2ヵ所併用が平成14年4月からできるように拡充されましたが、サービス量として不十分と思います。必要なだけ訪問看護をご利用できるようにサービスを早急に充実させたいと考えます。

 

○  訪問看護ステーションは4〜5人の看護師等が運営している小規模事業所であり、要介護4,5の方を多くケアしています。毎日訪問するALS患者の方には、24時間体制でボランティアとなることも多く、体力的に厳しい状況になり、開設母体から「赤字になるから」と止められることもあると聞いています。訪問看護ステーションの規模拡大や病院の訪問看護との協働が望まれます。

 

2 連携

 

  ○  在宅ALS患者の支援は医療依存度が高いため、介護保険のケアマネジャーより保健師か看護師がケアのマネジメントを行う方が適しているのではないかと考えます。介護保険制度が始まってから、ケアマネジャーがいるため、難病にかかわる保健師の役割が後退しているとの声が聞かれます。ALS患者のケアは介護ではなくて医療保険がベースになる在宅医療であり、地域の支援ネットワークづくりやチームケア体制を強化するために、もっと積極的に保健所の保健師が行政の立場からかかわり、潜在看護師を含めて訪問看護等看護職の活用を図る必要があると考えます。

○  医療ニーズがある患者でも訪問看護がケアプランに入らないことがあります。訪問看護と訪問介護の協働を強化して、それぞれの専門性を発揮し、ALS患者のQOLを高める必要があります。ホームヘルパーは医療行為行わない職種であるため、より頻回に訪問するホームヘルパーと訪問看護師の情報交換を密にしてチームケアを充実させる必要があります。

 

3 吸引の危険性

 

  ○  ALS患者の方は、様々な病状の変化があり一人ひとり状態が異なる特徴があります。吸引により引き起こされる合併症やリスクも多く、医学・看護学の知識・技術に基づいた個別の判断力が必要です。現状でホームヘルパーの養成課程から考えて、命にかかわる行為をホームヘルパー一般の業務として拡大することは難しいと考えます。患者自身の要望や、その方にあった吸引の仕方があるので、家族のように特別のなじみの関係で長く付き添える方が必要となってきます。ホームヘルパーが誰でも「業」として行うケアではないと考えます。

 

 

 

4 対応案

 

  ○  訪問看護師が専門的な呼吸ケアと吸引を行うことで、吸引回数が減ったり、感染症を起こすことが少なくなったなどのデータがあります。訪問看護師がフットワークよく動けるように活動や判断の幅をもたせてください。ご家族の休める時間を確保するために訪問看護体制の工夫も不可欠と考えます。さらに、人工呼吸器を装着された方に質の高い、納得されるケアが提供できるように研修等で技術を強化したいと考えています。また、唾液の自動吸引機のような機器も補完的に使うことで、ご本人の精神的負担が軽減されるのではないでしょうか。今後、機器の開発も積極的に進めていただきたいと希望します。

○  訪問看護師もホームヘルパーも自分の仕事にプロとしての誇りを持って専門性が発揮できることが利用者の利益につながると考えます。サービスの質の向上が課題となっている現在、訪問看護サービスが足りないからと、その改善のために汗をかくことなく、結論を出されることのないように慎重に取り扱っていただきたいと考えます。

 

 医療保険による訪問看護で週3回入れない理由は、訪問看護ステーションのマンパワー不足。常勤ナースが管理職1名で他は非常勤。他市に比べると非常勤が多い。難病・末期の患者を複数抱えられない。回数が増えると赤字になる。24時間体制をしていないから等です。制度は沢山あっても、全部使える患者は数少ない。経済的に余裕がなければ、1割負担でも払えない。(長岡資料)

 

気管切開をしている患者の「痰の吸引」の種類別の危害の内容について
(事務局試案)

痰の吸引の種類

引き起こされるおそれのある危害の内容

口腔鼻腔内吸引 (喉頭まで)

長時間の吸引が行われると低酸素血症を引き起こす恐れがある。

咽頭部を刺激すると患者が嘔吐し,気道を詰まらせる恐れがある。

高い(過大な)吸引圧で吸引すると口腔内・鼻腔内の粘膜を傷つけ出血する恐れがある。

カニューレ内部までの気管内吸引

清潔保持が徹底されないと感染症に罹患する恐れがある。

長時間の吸引が行われると低酸素血症、肺胞の虚脱、無気肺を引き起こす恐れがある。

カニューレ下端より肺側の気管内吸引

◎専門的排痰法が行われていれば、カニューレまで痰は上がってくるため、基本的にカニューレより深い吸引は不要。
 (繊毛を傷つけることから、口側に分泌物を輸送する機構が破綻することがある。)

吸引によって刺激され、咳そう反射(残存している場合)がおこりカニューレの位置の移動や抜去による出血、気管切開孔の閉塞の危険性がある。

清潔保持が徹底されないと感染症に罹患する恐れがある。

気管分岐部の粘膜を傷つけ、出血をおこす恐れがある。

長時間あるいは高い吸引圧での吸引が行われると、末梢部の空気まで吸入されて低酸素血症、肺胞の虚脱、無気肺を引き起こす可能性がある。

迷走神経そうを刺激することにより、呼吸停止や心停止を引き起こす恐れがある。

気管粘膜を傷つけ、粘膜のびらんや気管拡張を招き、気管食道ろうや大血管穿破による動脈性の大量出血による失血死を引き起こす恐れがある。

 

 

ALS患者を支援する主な事業(平成15年度)の図

○川村委員

 といいますのは、きちんと研修事業を行いますと、自治体の公的な研修修了書が渡さ

れます。私なども担当していますが、100人ぐらいに同時に講義をする研修の一部で、

たんの吸引について説明したとしても充分なことはできません。しかし、公的な研修修

了書が渡されているのだから、ちゃんとできるのだと言われると、担当する者としては

とても困ってしまいます。今までの議論としては個別的な指導、特定の個人に対しての

指導ということで限定されていたと思うので、誤解をされるときついので、質問しまし

た。できれば誤解されない表現にしていただければ幸いです。

 

○山崎委員

 関連です。星委員が保健所全体の機能と言われたニュアンスは非常によく分かるので

すが、逆に保健師の立場から言いますと、難病の対策というのは、非常に動きにくい業

務の1つになっています。つまり、結核は結核予防法に規定されているなどいろいろな

法定業務になると、例えば、訪問のための交通費なども予算的に非常に得やすいわけで

すが、難病は本当に業務がしにくい側面があるという現場の声もありますので、私は最

後の行の「保健所保健師が担うべき総合的な調整機能は極めて重要であり、今後とも調

整機能の充実強化を図るべきだ」というのは残して、きちんと保健所保健師について、

この分科会から提言をしていただいたほうが機能が果たせるのではないかと思っており

 

○星委員

 4頁の(2)の(1)も気になる表現です。これも表現の問題なのでしょうが、「在宅

への移行の判断は、医師の判断に基づくものであるが」と書いて、「患者の病状や患者

の療養環境も踏まえた、適切な退院時指導の実施を促進するため、退院時指導の基本的

な指針作りが必要である」とあります。これは3つのバラバラのことを1つの文章の中

に書いているので、大変分かりにくい文章になっています。

 最初の、在宅への移行は、医師の判断に基づくのだというのは、そうでしょう。そし

て退院時指導が適切に療養環境を踏まえて実施されることが重要だというのは、それも

そうでしょう。でも、そのために行うことが退院時指導の基本的な指針作りなのかとい

うと、退院時の基本的な指針作りが、適切な退院時指導の実施に直接繋がるものなの

か、素朴な疑問です。言っていることは何となく理解できますが、現実に必要なこと

と、「そのため」以降の必要であるということが重なっていないような気がするのです

が、いかがでしょうか。

 

○星委員

 これは時間的な経緯からすれば、在宅への移行に至るまでにどんなことが必要かを整

理するということがあって、退院時指導があって、在宅の療養生活があるわけです。実

は3つは連続しているが、いま議論しているのは退院時指導という、ある時点のものだ

けを抜き出しているから大変違和感があるので、連続する3つの事柄が極めて大切だ。

それらについてみんなが理解し、在宅への移行がうまくいくようにしようということが

ここに書かれるべき項目だろうと私は理解しています。

 

この点は前から、座長と私の見解が微妙に違ってきて、傷害罪のことを問題としてい

るのではなくて、基本的には医師法17条のことを問題としているので、考え方が傷害罪

の違法阻却の場合とは違ってくるだろうと思っておりますが、これはいいと思います。

それはともかくとして、ここに条件がいくつかあって、前回も少し質問しましたが、従

来の経緯を考えていけば、たんの吸引の範囲を口鼻腔内の吸引から気管カニューレ内部

までの気管内吸引とすると限定した場合に、現実問題として気管カニューレ内部を超え

て、気管に入って吸引する人は出てくると思います。そのときに、それをどうやって、

誰の責任でチェックしていくのか、事後的なコントロールとかモニタリングを誰がどう

いう体制でしていくのか。それはあくまでも個々の医師の責任において行うのか、ある

いは全体として、こういう問題についてシステムを作ってチェックしていくのかという

ところを知りたかったわけです。

 答えは個々の医師の責任だということになるのだろうと予測していますが、別に医師

を信頼しないわけではないのですが、それで本当に患者の安全性が保たれるのかという

ことについて私は懸念を持つのです。いちばん最初の議論から申し上げているように、

個々の問題としてではなくて、制度論として問題解決すべきだということで、私はずっ

とそのことを申し上げてきたし、途中までは制度論としてどう問題解決するかという形

で議論が進んできたと思います。途中から個別的な問題として議論が進んでいきました

ので、最後になるので時間を取るつもりはないのですが、安全性の確保ということを懸

念するので、そのことについて関連して質問と意見を述べさせていただきました。