演題番号

 

 
 
 
演 題:在宅療養における緩和ケア
パーソナル・アシスタント・システムによる長時間の見守り介護とダイレクトペイメントの実現
 
研究協力者 氏名(所属):川口有美子 立命館大学大学院先端総合学術研究科後期博士課程/NPO法人ALS/MNDサポートセンターさくら会

1、目的:都内で在宅人工呼吸療法により長期療養中のALS患者やその家族の中に自らヘルパーを養成し、自分の療養環境整備を核にケアを事業化した者たちがいる。彼らはどのように制度を利用して介護事業を実現したのだろう。平成16年度の本班研究報告会で筆者は分担研究者清水哲郎氏の協力研究者として、さくら会のヘルパー養成研修システムの立ち上げについて報告したが、本報告はその続報でもある。

2、背景:平成15年支援費制度施行以降、全国障害者介護保障協議会(障害者の地域生活を支援する団体)の援助により、自宅で居宅介護事業を開始するALS患者や家族が相次いだ。またヘルパーの吸引が一定の条件の下で容認された。そこでNPO法人さくら会ではALSのための自薦ヘルパー(パーソナルアシスタント、PA)養成資格取得のために研修事業部を設置し、定期的に研修会を行い、本年11月までに460名が修了した。当会にヘルパー養成研修を委託し、都内近県のALS患者およそ30名に対して長時間滞在型のサービス(重度訪問介護)を提供している事業所は20箇所あり、その内8箇所がALS患者と家族の経営である。最近では当会のシステム(Sakura Modelと命名)を照会し導入を検討している当事者、支援団体もある。

 

3、調査方法:当法人を利用してPAを養成し介護事業を行っている患者または家族介護者のうち5名に面接とE-mailを用いたインタビューを実施し、このシステム)のメリットとデメリット、現行の制度や利用者としてのケアニーズについて自由に語ってもらった。

4、結果:各インタビューで共通して語られたテーマ

1)既存の制度に対する不満 長時間滞在型介護を請け負う事業者の不足、事業者主導(利用者の選別、単価の高い身体介護のみの短時間派遣、祝祭日深夜帯休業、ヘルパーが吸引を行わない、事業者都合によるヘルパーの変更や撤退)、以上に加えて一割自己負担などの利用抑制機構がビルトインされていること。

2)事業所設立のメリット @介護者の安定的確保A当事者主導B家族の介護負担が劇的に軽減C就労意欲の創出D所得確保による安堵D「病い」の当事者性が事業インセンティブになる

3)事業所運営のデメリット@多忙A請求事務の煩雑さBヘルパー管理の困難さCサービス利用者の意識低下D当事者間格差

5、考察:すべての患者家族で既存の介護制度や一般事業所への不満が起業のきっかけになっていた。だがケアの事業化によりコミュニティケアにおける「現物支給」を「現金支給」(ダイレクトペイメントシステム、DP)へ、より融通が利く給付方式に組み替えることができたので不満が解消されたという。この方式では利用者が雇用主になるため、吸引行為を依頼される介護従業者にとっても安心できるシステムである。起業による現金収入(DP)とSakura Model(PA)の併用で、都内の一部の患者家族は、制度を積極的に利用するようになり、地域で生活していく自信を取り戻したという。これはALSの緩和ケアを社会モデル(長瀬1999)の視点から実践し、成果を得た事例である。だが一方では、当事者が起業により制度を上記のように組み替える努力をして、さらに主体的に利用しなければこのシステムは稼動しない。どの患者も起業できるわけではなく公平性に欠ける面もある。改善策として利用者へのダイレクトペイメント/パーソナルアシスタンスを自立支援法において誰にでも選択可能な公的給付方式のひとつとして提案したい(岡部2006)。

6、結論:一部のALS患者と家族が介護事業を自営して社会的精神的苦痛の緩和に成功している。

社会モデルの視点から患者の経済的自立とケアの自律を同時に実現させ、社会に生きる個人としての自信を取り戻させること。これはエンパワメントの一手法であると同時にALSの緩和ケアとしても大変重要な要素のひとつである。自立支援法でのダイレクトペイメント/パーソナルアシスタンスのシステムを多角的に検討したい。

  1. Albert SM, Murphy PL, Del Bene ML, et al.: Prospective study of palliative care in ALS: choice, timing, outcomes. J Neurol Sci 1999; 169: 108-113(III)
  2. Borasio GD: Palliative care in ALS: searching for the evidence base. ALS/MND 2001; Suppl 1: S31-35
  3. Miller RG: Examining the evidence about treatment in ALS/MND. ALS/MND 2001; 2: 3-7
  4. Miller RG, Rosenberg JA, Gelinas DF, et al.: Practice parameter: the care of the patient with amyotrophic lateral sclerosis (an evidence-based review): report of the Quality Standards Subcommittee of the American Academy of Neurology. Neurology 1999; 52: 1311-132
  5. 今井尚志,難波玲子,高橋桂一,他:筋萎縮性側索硬化症(ALS)の緩和ケアの現状:全国国立療養所神経内科のアンケートから.臨床神経 1997371333
  6. 難波玲子:ALSマネジメントUp-DateALS治療─呼吸管理と緩和ケア─.第42回神経学会サテライトシンポ(発表)2001
  7. 難波玲子:筋萎縮性側索硬化症(ALS)の緩和ケアに関する研究─終末期の対症療法の有効性と課題─.平成12年度QOL研究班報告書.(2001
  8. 難波玲子,今井尚志,福原信義,他:筋萎縮性側索硬化症(ALS)のインフォームド・コンセントと緩和ケア:全国国立療養所神経内科のアンケートより.臨床神経 199939165
  9. Carver AC, Vickrey BG, Bernat JL, et al.: End-of-life care: a survey of US neurologists' attitudes, behavior, and knowledge. Neurology 1999; 53: 284-293