現代思想 2005年1月号

研究手帖
「審査の平等」


今年も神経難病医療の祭典、ALS/MND国際シンポジウムの季節になり、日本ALS協会のメンバーを中心に研究者や臨床家が日本からも多数参加した。今年のホスト国はアメリカ、会場はフィラデルフィアの中心街に位置するマリオットホテルである。
ALS発症後3年目の小出さんは呼吸器ユーザーになって初渡米。長時間のフライトはさぞキツイだろうと思いきや、ビジネスマン出身だけあって「慣れてます」と瞬きで返答。頼もしい限りであった。しかし、入国審査は噂どおり厳しいもので水平に近いリクライニング車椅子で寝たきり入国しようとした小出さんは怪しまれ、奥さんと別室にて聞き取り調査されることになった。入国審査官のデスクまで人差し指が伸ばせずに捺印拒否したためであった。かくして入国審査に何ともいえない不思議な平等を感じながら、ALS患者のテロリスト疑惑が晴れるのを待つこと30分。やっと解放された小出夫妻と共に日本チームはフィラデルフィアへ向かったのであった。
700人もの神経内科医療の研究者たちが世界各国から一堂に集う大シンポジウムの前に、3日間に渡る同盟国約30カ国の支援団体ミーティングがあるが、その際、病名告知や緩和ケアを巡る患者の自己決定についてグループセッションがおこなわれた。台湾や中国、韓国では介護は家族の問題だから告知は家族にするのが当たり前と報告していたし、オーストラリアの支援団体は、呼吸器装着後の生活を具体的(つまりネガティブ)にニュートラルに説明するという。その発言に日本チームは予後も明るく伝えるべきだと付け加えた。呼吸器装着後の患者の人権運動をしているのは日本だけなのである。欧米流ロジックによるムダな延命論に抗して英語交じりの日本語で激論?を戦わせ接点も見出せないままホスト国主催のディナーに突入。だが疲れを知らない彼らは実によく喋りよく飲み喰うのだ。寡黙も美徳とされる日本と違って論争も社交の一部とされる欧米人には自由に自己主張できなくなった人などパーソンではないのである。
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