
ひよつとこの面納豆と豆腐の味噌汁を食べ、いくども張りかへてもやぶけてゐる障子に囲まれた部屋の中に一日机によりかゝつたまゝ、自分も間もなく三十一になることが何のことなのかわからなくなつてしまひながら「俺の楽隊は何処に行った」とは、俺は何を思い出したのだろう此頃は何一つとまとまったことをかんがへず、空腹でないのに飯を食べ。今朝などは親父をなぐった夢を見て床を出た、雨が降ってゐた。そして、酔ってもぎ捕って来て鴨居につるしてゐた門くゝりのリンに頭をぶっけた。勿論リンは鳴るのであった。このリンには、そこへつるした日からうつかりしては二度位ゐつづ頭をぶっつけてゐるのだ。火鉢、湯沸し、坐ふとん、畳のやけこげ、少しかけてはいろが急須と茶碗と茶ぶ台にのってゐる。しぶきが吹きこんで一日中縁側は湿つけ、時より雨の中に電車がゐるのが聞こえた。夕方近くには、自分が日本人であるのがいやになったやうなやうな気持ちになって坐ってゐた。そして火鉢に炭をついでは吹いてゐるのであった。 |
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三月の日昼頃寝床を出ると、空はいつもの太陽が出ていた。何んといふわけもなく気やすい気持ちになって、私は顔を洗らはずにしまった。陽あたりわるい庭の隅の椿がニ三日前から咲いてゐる。机のひき出しには白銅が一枚残ってゐる。障子陽ざしが斜になる頃は、この家では便所が一番に明るい |
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