雨になる朝

昭和4年5月


愚かなる秋    

  秋空が晴れて       

縁側に寝そべってゐる

目を細くしてゐる

空は見えなくなるまで高くなってしまえ


小さな庭

もはや夕0暮れ近いころである 

一日中雨が降ってゐた 

泣いてゐる松の木であった

窓の人

窓のところに肘をかけて

 一面にひろが゜ってゐる空を

目を細くして街の上あたりせばめてゐる

    

 
   

  白(仮題) 

 あまり夜がふけると

  私は電灯を消しそびれてしまふ             

   そして 机の上の水仙を見てゐることがあ

             

曇る

雲一面に曇っている

蝉が鳴きゝれてゐる

いつもより近くに隣りの話声がする

 

 昼

昼は雨

ちんたいした部屋

天井が低い

おれは

ねころんで1ゐて蝿をつかまえた

雨が降る

夜の雨は音を立てて降っている

外は暗いだろう

窓をあけても雨は止むまい

部屋の中は内から窓を閉ざしている

       
 
     

いつまでも寝ずにゐると朝になる

眠らずにゐても朝になったのはうれしい

 消えてしまった電灯は笠ばかりになって

天井からさがってゐる

       

白(仮題)

あまり夜が更けると

私は電燈を消しそびれてしまふ

そして 机の上の水仙を見てゐるこ

とがある

 

12月

炭をくべてゐると火箸鉢が蜜柑の匂いがする

曇って日がくれて

庭に風が出てくる

   
     

         


眼が見えない

ま夜中よ

このま暗な部屋に眼をさましてゐて

布団の中で動かしてゐる足が私の何なのだかわからない


11月の街

街が低くくぼんで夕日が溜ってゐる

遠く西方に黒い富士山がある

 


恋愛後記

窓を開ければなんであるのであらう

くもりガラスに夕やけが映つてゐる

.

夜がさびしい

 眠れないので夜が更ける

 私は電燈をつけたまま仰向けになって寝床に入っている

電車の音が遠くから聞こえてくると急に夜が糸のように細くなって

その端に電車がゆはへついてゐる。

 

 眠っている私の胸に妻の手が置いてあった

紙のように薄い手であった

なぜ私は一人の少女を愛してゐるのであったろう

花を買ってゐた

花屋は美しかった

    私は原の端を通って手に赤い花を持って家へ帰った    

  

0GATA尾形亀之助

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