(貸金業の規制等に関する法律21条を中心に)
司法書士もしくは司法書士法人の通知による取立禁止効の付与
貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業規制法」という)の、平成15年8月1日法律136号による改正(以下「本改正」という)により、同法21条1項6号に「司法書士もしくは司法書士法人(以下「司法書士等」という)」が加えられた。これにより、司法書士等の受任通知に貸金業者の取立禁止効が付与されたことになる。
本改正がなされる以前は、われわれ司法書士は、従前より金融庁事務ガイドラインに定められていた「裁判手続をとったことの通知」を貸金業者に送付することによって、債務者である相談者を貸金業者の取立てから保護せざるを得なかった。すなわち、相談者が既に支払いが延滞している等、緊急を要する事案の場合、面談後、直ちに裁判書類の作成をし、そのまますぐに裁判所への申立てという手順を踏んでいたのである。医者でいえば、緊急オペを行う外科医といったところであろう。
本改正後、司法書士等の受任通知に取立禁止効が付与されたことを受け、われわれの債務整理に携わる業務形態も大きく変容を遂げた。すなわち、相談者との面談後、受任可能であると判断した場合、受任通知のみを貸金業者に送付し、利息制限法所定の利率に基づく引きなおし計算等の債権調査をすべて終えてから、債務整理の方針決定が可能となった点である。ただし、受任通知による取立禁止効は貸金業規制法の改正によるものであるが、利息制限法所定の利率に基づく引きなおし計算を行うための取引履歴の開示は、司法書士法の改正による簡裁訴訟代理関係業務の一環である点に注意を要する。
本改正後のわれわれの業務の変容を例えるのなら、外科医的業務から歯科医的業務に変化したともいえる。そこで、受任通知の法的効力ならびに受任通知の送付の前後においての諸問題を考えてみたい。
受任通知の法的効力
本改正前は、取立行為の規制は、金融庁事務ガイドラインに定められているのみであり、なんら制裁規定は定められていなかった。本改正前の貸金業規制法21条では、取立てに際し、「人を威迫し又はその私生活若しくは業務の平穏を害するような言動により、その者を困惑させ」る行為を禁止していたに留まっていたのである。つまり、司法書士等の受任通知に法的権限が認められていなかったことはもちろん、「弁護士に委任した旨の通知」、「裁判手続をとったことの通知」の送付後に貸金業者が請求等を行った場合、損害賠償の対象となるか否かが判例上も問題となっていた。
本改正により、司法書士等を含む受任通知の後の取立禁止は、貸金業規制法21条において明文化され、当該規定に違反したときは、2年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金、又はこれの併科に処するとされた(貸金業規制法47条の2)。
また、内閣総理大臣又は都道府県知事は、貸金業者が貸金業規制法21条に関し、違反をしたときは、1年以内の期間を定めて、その業務の全部又は一部の停止を定めることができる(貸金業規制法36条)。さらに、貸金業者が業務停止命令に従わないときは、内閣総理大臣又は都道府県知事は、当該貸金業者の登録を取り消し、以後一切の業務を禁止することができる(貸金業規制法37条)。
つまり、本改正によって、受任通知を無視した貸金業者の本人に対する取立行為は刑事罰に該当する違法行為となり得ることが明確となったのである。
受任通知送付前の問題点
われわれ専門家のもとに相談に訪れる債務者若しくは裁判手続を自ら執る債務者は、筆者の記憶では、平成10年当時で全債務者の4%〜5%ほどであったと思われる。現在の破産事件が倍増していることを考慮すると、全債務者の10%ほどが、法的手続きによる債務整理を行っているのではないかと推察される。
しかしながら、翻ってみると、全債務者の実に90%は、貸金業者の約定利息を払い続けているのである。債務者が、日常の生活を切りつめ、時には他社からの借入により貸金業者への支払いをする背景には、貸金業者の取立てに恐怖感を感じ、その恐れから約定どおりの支払いを余儀なくされるという構図がある。われわれは、貸金業界の健全化を促進するためにも、相談に自ら訪れる段階ではない(支払い不能の前段階の)債務者に対し、貸金業規制法21条の取立禁止行為を啓蒙する必要があるといえよう。以下、特に注意すべき取立禁止行為を列挙する。
- 21時以降8時までの間の、電話・FAX・訪問による請求行為
- 勤務先等居宅以外の場所への、電話・FAX・訪問による請求行為
- 債務者の借入れの事実を債務者以外の者へ明らかにする行為
- 他の貸金業者からの借入れ等による弁済を要求する行為
- 債務者以外の者に対し、弁済を要求する行為
なお、1.及び2.は、正当な理由があるときは請求行為が認められるが、債務者が明確に拒否の意思表示をする限り、正当な理由とはいえないであろう。
現実に1.乃至5.の請求行為は、現在でも行われているとの報告を受けることがある。確かに、われわれの受任通知送付後は、当該債務者の債権は、貸金業者の法務課等に移管され、本人に対し直接の取立てがなされる事案は、減少しているが、われわれが受任しない案件、もしくは受任前の案件において、いまだ違法行為が行われている実態を見逃すことはできない。 当該事実が判明した場合、債務整理とは別事件として、当該貸金業者及び違反行為をした当該貸金業者従業員に対し、不法行為による損害賠償請求を行うべきである。
受任通知送付後の問題点
司法書士等による受任通知送付後、貸金業者による債務者本人への請求行為があった場合、不法行為による損害賠償請求を執り得ることは論をまたない。ここでは、司法書士等による受任通知送付後、貸金業者の取立訴訟若しくは公正証書等既に貸金業者が有する債務名義によって給料差押え等の強制執行がなされた場合の違法性を検討する。
弁護士の受任事件であるが、受任通知送付後、貸金業者がこれを無視し、給料差押えをした事案を紹介する。
東京高裁平成9年6月10日判決(判タ966号243頁)における裁判所の判断は、次のとおりである。
- 債務整理の一般実務
通常の貸金業者は、たとえ債務名義を保持していたとしても、弁護士の提案を誠実に検討し、いきなり強制執行をなすことを控えていることが通常である。- 債務整理の社会的意義
多重債務は、社会問題ともなっており、多重債務者の更生を図ることは社会的要請でもある。また、弁護士と連絡をとることなく、財産の差押え等の強制執行を行うことは、特段の事情のない限り、法律の手続に従った手続で経済的更生を図ろうとする債務者の利益を害する。- 貸金業者の注意義務
貸金業者は、当該債務者の依頼した弁護士からの受任通知及び協力依頼に対しては、正当な理由のない限り、これに誠実に対応し、合理的な期間は強制執行等の行動に出ることを自制すべき注意義務を負担している。- 貸金業者の過失
貸金業者の行った強制執行が、弁護士に依頼したことに対する対抗措置として、強制執行に及んだものと評価されるときは、貸金業者は上記注意義務に対し、少なくとも過失があったものといえる。
以上により、裁判所は、不法行為に基づく損害賠償請求を肯定した。 なお、東京地裁平成13年7月13日判決は、弁護士の受任後に貸金業者が本人に直接請求行為をした事案において、受任弁護士の職務を妨害したとして、当該弁護士に対しても直接に不法行為を構成するとの判断をしている(判タ1087号212頁)。
結語
われわれの行う債務整理手続は、社会要請を受け、公益的活動の一環である。受任した債務者の救済だけではなく、多重債務者の経済的再生を図るために、多重債務者を心理的に圧迫する貸金業者の請求行為が適法なものであるのか常に注視し続けなければならない。 今後も、違法な請求行為が発覚した場合、貸金業者等に対して、損害賠償請求を執り得ることを実践し、広く啓蒙していく必要があろう。