| 住宅を建てるのは、ハウスメーカーや工務店だけではありません。
建築主が直接建てることもできるのです。では、その方法とは |
1.これまでの慣習(一括発注) |
○ 自分で工事しない工事会社 建物を建てるときは、建設会社や工務店(ハウスメーカー)という 建設業者と工事契約をします。建物一式まとめていくらという注文 の仕方です。(これを注文する側からは一括発注、受ける側からは 一括受注といいます。) 一式といっても、もちろん工事の明細書は ついています。しかし基本的な考え方は、建物全体でまとめていくら という値段の決め方です。 たとえば水道工事はA業者が安いから替えたいといっても、建物 全体の品質や工期が保証できないから等々、いろいろ理由をつけて なかなか承諾はしません。無理やりそのA業者を指定しても、賦金 (リベート)や諸経費などを徴収されて、必ずしも割安になるとは限り ません。ひどい場合には工事中の嫌がらせなどもあります。 どうしてそんなにしてまで、外部の業者の参入を嫌がるのでしょう か。実は、建設会社や工務店、ハウスメーカーは自社の社員を使っ て、実際の工事をすることはありません。ごく一部の小さい工務店な どが、自社の大工で木工事だけを施工するくらいでしょうか。 実際に工事を担当する(現場で働く)のは、業種別の専門工事業 者です。たとえば、木工事は大工、屋根工事は瓦屋、屋根屋、外壁 工事は左官屋、サイディング屋、給排水衛生工事は水道屋などとい われる業者です。その専門工事業者も、規模が大きくなると工事を さらに外注に出して、自社の社員だけで工事しなくなります。 ○ 下請のピラミッド社会 建設業界では、最初に注文主と契約した業者を元請とよび、その 元請の下で働く業者を下請とよびます。前述の専門業者が下請に あたります。下請は元請の会社と契約するだけで、本当の注文主と は契約関係にありません。代金も資材もすべて元請会社の支配下 にあります。 先ほどの例で、下請会社がさらに外注などを使うと、その業者は 孫請とよばれます。さらにその孫請会社が外注すると、その先の業 者は曾孫請とよばれます。さらにその先の外注は...請とよばれ、 もうわけがわからなくなります。日本の産業社会はどこでもそうなの ですが、とくに建設業は下請が何層にも積み重なった、典型的なピ ラミッド構造になっており、前近代的な産業といわれる由縁です。 こんなふうに、建設業界はピラミッドを構成する中間業者があまり にも多いので、注文主が支払った工事代金のどれだけが、実際の 建物に使われたのかわかりません。中間の業者が本当に仕事をし ているのならば、それなりの経費(手数料)をとるのは当然なのです が、ただのリベートのようなものも限りなくあります。 こんな実態を正直に工事契約の明細書には書けませんから、どう しても一式まとめていくらという表現になります。たとえば、屋根工事 の代金は材料費xx、人件費xx、直接経費xxプラス中間経費xxなど と書いたら、当然中間経費の中身とは何かと聞かれます。ましてや その割合が数十%にもなっていたら、いったいこれは何だということ になります。 |
2.ドンブリ勘定の意味 |
○ 正確に計算できない費用 昔から建設業界はドンブリ勘定で有名なところです。仕事の内容 が屋外での一品受注生産で、人手のかかる作業なので、不確定の 要素や不測の条件が多すぎて、事前に正確な原価を見積もりでき ない面があります。本当のところは、やってみなければわからないと いうのが実態でもあります。 屋外作業なので、工期や効率は天候次第ということになりがちで す。その場限りの受注生産なので、他例の原価計算が参考にしづら いです。また多人数の手作業による仕事なので、手間のかかり具合 を予測することが難しいです。 (建設業界では、職人1人当たりの作業量が標準化されていませ ん。日当は決まっているのですが、仕事量は決まっていません。 職人の技倆や要領が日当に反映されていないのです。達人も 素人も同じ日当を取るという不公平な世界なのです。) その他にも図面と現場の食い違いが多く、追加や変更工事が避け られません。工場で自動車や電気製品を作るようには、緻密な原価 計算するわけにはいきません。計画的、自立的に製造工程(工事) を管理することができないためです。そうした不確定の計算できない 不測のリスク(危険負担)は、コスト(経費)として、価格(工事契約金 額)に上乗せせざるを得ません。 もともとそのリスク(危険負担)がいくらになるのか、誰もきちんとは 計算できないのですから、見積もりは概算、大雑把にならざるをえま せん。最終の金額は、見積もる会社の考え(方針)にかかってくると いえます。原価プラス計算根拠のない危険負担で工事金額が決まり ますから、いわゆる適正価格なるものはありません。このくらいなら いいだろう、仕方ないだろうという妥当価格しか出せません。 工事契約の時によくあることですが、金額が予算に合わないので、 出精値引きをしましょうということがあります。その値引きの程度も、 数%ならばともかく、10〜20%以上になることも珍しくありません。 こうなると初めの金額は一体なんだったのだろうと、不信感さえつの ります。 ○ 値引きの根拠 そんな大幅な値引きの元手は、リスク(危険負担)の金額の中から 出てきます。もともと誰にもわからない金額ですから、いくらにしよう とかまわないわけです。リスクにたいする会社の考え次第でいくらに でもなります。安全をみるほど金額は高くなり、会社から見て余裕の ある見積もり(注文主からみれば割高な見積もり)となります。 しかし工事明細書には、そんなきちんと説明の出来ない金額をの せるわけにはいかないので、いろいろな工事項目の中に分散して、 隠してしまいます。同じように中間業者の経費も公けには出来ない 金額なので、材料費や人件費の単価などに隠してしまいます。 その他にも値引きするためには、下請への転嫁という方法もありま す。自社の利益を減らしたくない元請会社の力が強いほど、値引き 分をそっくり下請会社に転嫁、肩代わりさせます。元請下請という封 建的なピラミッドが強大なほど、下請会社は元請会社のいいなりに なりがちな弱い立場にあるためです いわゆる値引きの順送りというか、下請への買いタタキです。注文 主にはうれしい値引きですが、廻りまわって職人の日当が省かれて 手抜き工事で逆襲されるとなると、単純に喜んでばかりもいかなくな ります。 ○ ドンブリは不測へのリスク対策 冒頭に記した、外部業者の参入を嫌がる元請会社の本当の理由 は、気心の知れない仲間との共同作業や相手の技術力への不安だ けにあるのではありません。不測のリスク分を全体に散りばめた工 事明細書が作れなくなること、下請タタキの冥利を縛られることにあ ります。 元請会社は規模が大きくなるほど、下請会社を協力会などに組織 化していますから、自分の支配下にない会社は邪魔な存在です。 他の下請への示しがつかない、締め付けがゆるむという不安もあり ます。下請との共存共栄にも差しつかえます。 元請会社は工事全体の金額と業者で、不確定、不測のリスクへの 対処をしていますから、その一角が崩れることは、大袈裟にいえば 企業の死活問題になってくるのです。業者を入れ替えられることは 旨味を失うとともに、言いなりにならない厄介な部外者という負担を さらに抱え込むことになります。 完成するまではわからないリスク(危険負担)を抱えながら、その リスクの元手となる工事金額を減らされることは、請負契約で工事の 法的な責任を負わされる元請会社にとって、二重の負担です。実質 的な工事費を減らされて、責任だけは全体分を負わなければならな いという負担です。 第三者的にみれば根拠のあいまいなドンブリ勘定の工事金額も、 元請会社からみれば、工事が終わるまでは精算できない原価に対 処するための、やむをえないしかしとても都合の良い方法です。 工事が順調に終わるほど、初めに見込んだリスク分はそっくり利益 となって還ってきます。工事監督の本当の腕は建物の出来映えでな く、いかに工期を順調に遂行するか、余分の出費を抑えるかにある といわれます。実行予算といわれる工事原価を下回る結果を出す 監督ほど、有能な人間として会社に評価されます。 |

今までの建築工事 建築主(←→設計事務所) ↓ 工事会社(元請) ↓↓↓↓↓ 専門業者(下請)←元請の監督 |
オープンシステムの建築工事
建築主==設計事務所 ↓↓↓↓↓ ↓ ↓↓↓↓↓ ↓ ↓↓↓↓↓ ↓ 専門業者(元請)←設計事務所の管理 |
4.分離発注の注意点 |
○ 元請会社の業務 確かに分離発注をして工事をすると工事費が安くなります。それ は元請会社の経費を省くためです。しかし省かれるのは経費だけで はありません。 元請会社の果たしていた業務もまた省かれます。 元請会社の主な業務は工事管理と資金運営です。工事管理は 工事費の取りまとめ、専門工事担当業者の手配、工事資材の調達、 工程と業者間の調整、作業終了(出来上がり)の評価と確認、安全 管理と廃棄物の処理、完成後の建物保証などです。これらの業務は 専門技術的な仕事なので、それなりの資格や能力を必要とします。 分離発注のことを英語では Construction Management (略して CM)といいます。分離発注の全般的な管理、統括する専門家のこと を同じく Construcction Manager (略してCMr)といいます。たとえ ば前述のオープンシステムでは、私たち会員の設計事務所がCMr となって、その任に当たります。建築主に任命された工事監督とも いえます。 建築主はCMrと業務委託契約を結びますが、工事管理の費用は 元請会社のそれを超えることはありません。CMrの仕事は工事管 理だけに特定されるので、会社運営にかかる多岐の費用は必要な いからです。仕事の遂行に必要な経費だけを支払うだけです。 もうひとつの資金運営または管理ですが、これは工事代金の支払 いと前述のリスク(不確定な費用)を負担することにあります。 元請 会社は建築主(注文主)から支払われた工事代金を、各々の下請専 門業者に滞りなく、業務進行に応じて支払らわなければなりません。 その査定と場合によっては(建築主に代わって)代払いをする必要 があります。支払いに関しては、建築主が元請会社に借金(後払い や延払い)でもしない限り、もともと手元に用意してお金ですから、 支払い時期さえ教えてもらえれば、滞りなく済ませます。支払うべき 時期の指示はCMrが行いますので、問題はありません。 ただし支払いが遅れると、遅れた相手からの苦情を受けなければ なりません。一括発注であれば 元請会社一社にだけ言い訳をすれ ばよいのですが、分離発注では遅れた専門会社の数だけ言い訳す る必要があります。まあ、きちんと支払いをしていれば全く問題のな いことですが。 ○ リスクは自分で負う 前にも述べたように、リスクの負担は、本当のところ工事完了まで いくらになるかわかりません。事前に、大体の予想は出来るのです が、あくまでも予想であって、その通りになるとは限りません。思わ ぬ出費は必ず起こりえます。たとえば清掃費や廃棄物処理代の追 加とか、見積もり落ちの工事や不可抗力による手直し工事代金など があります。 元請会社であれば予算を超過しても工事しなければなりません。 しかし超過はすなわち赤字ですから、通常はそうならないように、予 算にかなりの余裕をもたせてあります。よほどの失敗でもない限り、 赤字の心配はなく、むしろ利益になる可能性のほうが多いです。 分離発注では、そうしたリスク負担はすべて清算払いとなります。 工事完了後にかかった費用だけを支払いますから、かからなかった 分は支払う必要はありません。 元請会社の懐に入るはずの差額分 が、分離発注では建築主に戻るというより計上する必要がないので す。あくまでも実際にかかる費用だけしか支払いません。 ただし、予想に反してあるいは予想外の事故を起こってしまった時 工事保険などで賄えない分は建築主が負担することになります。 元請会社の場合であれば、損(建築主に請求できないという意味 で)をしても負担しなければならない分です。もとより滅多にないこと ですが、絶対にないわけではありません。 元請会社の経費を省くというのは、おおいに魅力のある選択です が、経費分の元請会社の責任を全面的に負うということも忘れない でください。 分離発注は絶対安全有利な工事方式というわけではありません。 リスクの確率は非常に低いのですが、決してゼロではありません。 ゼロに近づけるためには、 元請会社の工事管理に優るCMrに業務 を委託すること、工事保険や完成後の建物保証を受けられる体制を 選ぶことが、建物の品質を確保し、リスクを回避する上での、なによ りも大事な選択となります。 ○ 分離発注は手間がかかる 元請会社に代わって、建築主の自分が工事をする(働く)から、 工事費が安くなるのです。 元請会社がやってくれることを自分です るから、その働き分だけ儲かるのです。だから工事を元請会社に任 せる一括発注にくらべると、いろいろと手間がかかります。 代金を支払えば、後は何もしないでも、なかば自動的に建物が完 成する一括発注とは違います。CMrの選択に始まって、工事の節目 節目には必ずCMrとの打合わせや決定がいります。専門業者との 契約も立ち会わなければなりません。細かい工事費や施工法の相 談にも応じなければなりません。たくさんの支払いを滞りなく振込ま なければなりません。雑用はいろいろでてきます。 面倒なことがいやな人には分離発注は向いていません。少々割高 になっても一括発注で頼んだ方が、後の煩わしさはありません。面 倒はお金で避けられます。しかし少々手間がかかってもよいから、 少しでも割安に工事費を支払いたい人、自分の住む家の建築に出 来るだけ関わりたい人には、検討すべき工事方式といえるでしょう。 責任が重く、手間のかかる分、手元に残る見返り(成果)はそれ以 上に大きいです。思うような家造りをしようとする人には、最適な方 法といえます。有能なCMrの手助けを受けられれば、けっしてリスク を恐れることはありません。 |