『覚
醒剤の社会史―ドラッグ・ディスコース・統治技術』
東信堂 2006.4
(2007年度 日本社会病理学会学術奨励賞)
Drug and Discourse: Methamphetamine in
Japan
そう、ぼくは告白しなければならない。この世でもっとも耐えがたいのは、
母がする物語、物語と呼べる代物でないとしたら昔話、そしてその反復。
もっと耐えがたいのは、その反復を母が実際に生きたということ。
−高橋源一郎『日本文学盛衰史』
ISBN: 4-88713-671-4
はしがき
本書のはじまりは、直接的にはほぼ九年前に、たまたま船で一緒になった人と交わした短い会話である。それ以前もそれ以降も、私は覚醒剤に代表されるド
ラッグについていろいろと調べてきたが、あの短い会話がなければ本書はまったく違った形になっていたように思う。とはいえ、それはごく普通の世間話であ
り、おそらく聞き流すべきものであったはずだ。それでもそのとき以来、私のなかに何かが残ってしまい、ドラッグの研究を続けるうえで、その何かをいつかは
考えなくてはならないだろうと思ってきた。
しかし九年というのは、やはり長い。その間、私の考える方法は、幾分風変わりなものになってしまったかのようである。当初は新聞や雑誌の記事、医学論文
や国会会議録などの資料を収集し、それらを読みながら、これらを歴史的に整理することで考えられるだろうと思っていた。しかしながらそれらを読み進めるう
ちに、そのようなやり方では、あの会話を考えることはできないだろうと気づかされたのである。
そこでしばらくのあいだ、考える方法それ自体をどのように考えたらいいのだろうかなどというまわりくどいことを考えていた。本書が幾分冗長で、もってま
わったようになっているとしたら、その間の軌跡が残っているからかもしれない。しかしいずれにしても、私は本書を通じて、覚醒剤について考えるということ
がいったいどういうことなのかを考えようと思う。そしてそれをとおして、覚醒剤を覚醒剤として意味づけるわれわれ自身のことを考えたいと思うのである。
[目次]
はしがき
序章 覚醒剤の社会史―ある奇妙な「何か」から考えはじめること
第一部 ドラッグ政策研究と方法論の検討
第一章 ドラッグ問題とドラッグ政策研究―リンドスミスのド
ラッグ研究
I ドラッグ政策の歴史的背景
II 依存理論とドラッグ政策研究
III ドラッグ政策を左右する要因
IV 初期ドラッグ政策研究の図式
第二章 政策と道徳―機能分析という方法
I 政策に対する機能の分析
II 被害者なき犯罪
III モラル・パニック論
IV 法と道徳
第三章 ディスコースの分析―方法論的ディスコース主義
I 言語的活動について
II 文脈的状況と客体化機能
III 社会問題構築論と逸脱の医療化論
第二部 覚醒剤現象の研究
第四章 初期医学的諸研究―薬理作用の探究
I 覚せい剤取締法の合理的根拠
II 初期の諸研究
III 初期医学的諸研究のディスコース編成
第五章 覚醒剤中毒のディスコース編成―探究から鑑定へ
I 新たな文脈的状況の提案
II 覚醒剤中毒のディスコース編成
III 探究と鑑定
第六章 法案審議にいたるまでの過程―前提的に構築される他者
性
I 特定カテゴリーと覚醒剤の結びつき
II 法案審議にいたるまでの諸局面
III 青少年問題
IV 薬理作用の強さ
第七章 法案成立、そしてその後―新たな他者性の構築
I ある「回顧」の意味するもの
II 国会審議
III 覚せい剤取締法の成立とその後
IV 覚醒剤の意味の変化
第八章 覚醒剤使用者の告白―語りの同心円構造
I 使用者の語りと他者の語り
II 他者の語りの制度化
III 覚醒剤中毒告白の同心円構造
終章 覚醒剤ディスコースと統治技術―何が思考されなかったのか
I 薬理効果とドラッグ
II 社会を召喚すること
III 方法論と「考える」こと
IV 物語の反復
V 表現すること、思考すること
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