日本社会病理学会第19回大会ラウンドテーブル
「医療化のポリティクス・パートII」
(於:2003年10月5日國學院大學渋谷キャンパス)

「薬物政策と医療的処遇」
(報告要旨)

熊本大学文学部 佐藤哲彦


  この報告では、欧米におけるいくつかの国の薬物政策を代表的に取り上げ、それらの政策においてフォーマ ル、インフォーマルに導入されている医療的処遇について論じるなかで、そのような医療的処遇がどのような背景と経緯で導入され、それがどのような結果を産 出してるかについて検討し、その作業を通じて、医療化と呼ばれる現象を考えた。特に、薬物政策において医療化を論じることが、今日果たして妥当性を持つも のかどうかという点を、具体的な医療的処遇の中から読み取った。
 まず最初に、オランダの薬物政策について論じた。オランダでは、周知のようにコーヒーショップと呼ばれる店舗でカンナ ビスが販売され、一人当たり5gまでの所持と使用が認められている。このような政策は、オランダ独自のハードな薬物/ソフトな薬物の分離政策に基づいてい るが、ヘロインやコカインに代表されるハードな薬物に対しても、個人使用は基本的に医療的問題として位置づけられている。司法的抑制は、むしろドラッグの密売や密輸などに対して行われているのであ る。このような政策は「有害性減殺(harm reduction)」と呼ばれるものである。そこでどのようにしてこのような政策が採用されるに至ったのかを、オランダ独自の政策的文脈から読み取っ た。そしてそれに伴い、オランダでも導入されている、アメリカで発展したメサドン治療の意味を、特にこれを開発した研究者の医学論文の記述上の変化から読 み取った。メサドン治療は、コンラッドとシュナイダーの研究でも取り上げられているものであるが、そこでのコンラッドらの解釈が果たして現在でも妥当であ るのかを検討するためである。
 次に、英国(イングランド&ウェールズ)の薬物政策について論じた。英国では、2002年の薬物政策の更新を受けて、 カンナビスの個人使用は基本的に非犯罪化されたが、ヘロインはいまだ危険度の高い薬物として所持・使用とも犯罪とされている。そのような政策状況の中で、 最近は懲役よりも治療へと政策比重が移りつつあるが、以前から内務省に免許を与えられ、ヘロイン処方の免許を持つ医師が100人ほどいる。彼ら/彼女らの 処方によってヘロイン依存者がどのような影響を受けているのか、また、そのような英国独自の薬物政策が、どのような過程を経て今日のものに至ったのか、さらにはそのような過程を果たして医療化 と読み取ることが可能なのかどうか、について論じた。
 さらに、アメリカ合衆国の多くの州で導入が進み、欧州でもアイルランドやスコットランドなどにおいても試験的に導入が 進んでいる薬物法廷(drug court)について論じた。薬物法廷とは、薬物犯罪、その中でも特に所持と使用の犯罪に特化した裁判であり、懲役刑の代替案としてリハビリテーション・ プログラムへの強制参加が行われるのが特徴である。これは医療的処遇を伴うものの、先に述べた「有害性減殺(harm reduction)」とは異なり、原則的に「ゼロ寛容(zero tolerance)」と呼ばれるものである。ここでは、このような裁判システムにおける医療的処遇の意味を論じた。
 以上のような例を用いながら、薬物政策においてさまざまな形で導入されている医療的処遇が、果たして医療化と呼ばれる 現象であるのかどうかをも含めて、どのような意義を持っているのかを論じた。特に英国の政策発展過程は、医療化/犯罪化という単純な二分化論では割り切れ ない複雑な過程を経ており、そのような二分化論を超えた新しいパースペクティブについて論じた。

*注:当日は米国ABC製作ならびに英国Channel4製作のドキュメンタリーの一部を使用した。

[参考文献]
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(2003.10.27作成)


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