■Ultra Micro Nikkor 165mm the Emperor of the Lens

Ultra Micro Nikkor 165mm the Emperor of the Lens
Ultra Micro Nikkor 165mm the Emperor of the Lens

The Emperor of the Lens

Ultra Micro Nikkor

165mm F4

Super Power

Optical Engine

The Shosoin

Imperial Repository

日本を溯る意匠

銀河は三千世界に光を放つ姿に似て、花を時空を超える風。
千里万里も海に虹を見て晴れの月。
縞唐花菱紋。

正倉院は日本を代表するデーターセンター・アドバンスト・ストレージだ。
レンズはお道具だから、背景とか景色には気を使わないといけない。
鏡玉を包むには平安時代の古代布を使いたい。
オリジナルは正倉院宝物であるから、レプリカを購入した。
縞唐花菱紋(しまからはなひしもん)は、 正倉院に伝わる夾纈(きょうけち)染めの幡(ばん)に使われている文様である。
美しく染め出された数色の縞に、 菱形状の唐花、四方には小花を展開した豪華さと洗練された風情を漂わせる裂だ。
草木染めか日本を溯る意匠は東洋であり、 背景にふさわしいレンズを探し求めていると 米国はシカゴのロバート・ロットローニから青いパッケージが届いた。
USPS航空便の大きく重たい梱包はハードではあったが、どしりとしたレンズがこちらを見た。
ウルトラマイクロニッコール165mm F4だった。

Ultra Micro Nikkor 165mm Super Power
Ultra Micro Nikkor 165mm Super Power

最後の皇帝

1960年代初頭、ウルトラマイクロニッコールは市場に稲妻のように登場した極超高解像度レンズだった。
各方面で活躍し、だれも見ていないところで地味な実績を残した。
1970年代後半にはそのレンズ単体での役割を終え、ステッパーにバトンを渡した。
ひとつの時代の終焉を迎えた。
その最後期に登場したのが、最後の皇帝、ウルトラマイクロニッコール165mm F4だった。
ウルトラマイクロニッコールは、後期モデルほど数が少ないという特徴がある。
そして長焦点レンズほど数が少ない。
概数すらも判明していないが、おそらく製造本数も少なかったのだろう。
均整のとれた姿の美しいレンズだけに、このレンズを探しているマニヤは世界中にいる。
ひとたび国際オークションに出てくると、とても手を出せない額まで昇りあがる。
お金を出せば手に入る世界もあるが、そうでない世界もあるからおもしろい。

コレクターズノート

このレンズには、ユニークな特徴がある。
ウルトラマイクロニッコール・シリーズの中で、 唯一専用のコンバージョンレンズが用意されているのだ。
1群2枚の構成ながら、重厚なハウジングにガラスブロックが詰まっている。
その外装には、精緻な筆跡で刻印が彫刻されている。
レンズ鏡胴の塗装は落ち着いたツヤを抑えた黒色塗装だ。
コンバージョンレンズはいくぶんツヤを感じるジャパン調の漆黒塗装だ。
塗装の仕様はあきらかに異なる。
入手を検討されている方は、 このコンバージョンレンズとセットで入手されることを薦める。

コンバージョンレンズはねじ込んで装着する。
オリジナルの状態だと、レンズ単体の基準倍率は1/40Xとなる。
コンバージョンレンズをねじ込むと、基準倍率は1/20Xのレンズとなる。
とても合理的にできている。

このコンバージョンレンズの工作精度はすごい。
精緻に仕上げられたねじマウント。砲金製の重たい輝きが美しい。
ねじ込むと空気を圧縮するようにすうっと音もなく廻り、 ッシュウゥ・・とごく小さくピタリと止まる。
兵器ではないのだから、ここまで金属加工技術に凝らなくてよいのに、 ねじ切り旋盤を操作した技術者の秘めた心意気なのだろう。
製造から30数年。その仕事に感動する。

Ultra Micro Nikkor 165mm F4 and Conversion Lens Adapter
Ultra Micro Nikkor 165mm F4 and Conversion Lens Adapter

テクニカルデータ

ウルトラマイクロニッコール165mm F4 のほんらいの目的は、 逐次撮影法によるICフォトマスクの製作に必要な中間原版の作成、 もしくは、原図から直接フォトマスクの作成をするためのレンズである。
用途は、同種の135mm F4、あるいは155mm F4 と同じだが、 画像サイズが大きいのが特徴となっている。
ウルトラマイクロニッコール165mm F4の超弩級な性能をみてみよう。
もちろんデータは、当時の日本光学が企業や大学など研究機関向けに発行した資料による。

レンズ単体の仕様

−焦点距離: 167.8mm
−最小絞り: F11
−レンズ構成: 4群7枚
−基準倍率: 1/40X
−色収差補正波長域: 546.1mμ(e-line)
−歪曲収差: +0.02% (56mmφ), -0.03% (80mmφ)
−解像力: 350本/mm (F4), 200本/mm (F5.6)
−画像サイズ: 56mmφ (F4), 80mmφ (F5.6)
−原稿サイズ: 2,240mmφ (F4), 3,200mmφ (F5.6)
−基準倍率における原稿から画像までの距離: 7,002mm
−重量: 1,830g

コンバージョンレンズ付きの仕様

−焦点距離: 169.1mm
−最小絞り: F11
−レンズ構成: 5群9枚
−基準倍率: 1/20X
−色収差補正波長域: 546.1mμ(e-line)
−歪曲収差: +0.04% (56mmφ), -0.01% (80mmφ)
−解像力: 350本/mm (F4), 200本/mm (F5.6)
−画像サイズ: 56mmφ (F4), 80mmφ (F5.6)
−原稿サイズ: 1,120mmφ (F4), 1,600mmφ (F5.6)
−基準倍率における原稿から画像までの距離: 3,678mm
−重量: 2,200g

Ultra Micro Nikkor 165mm Sound of Lens Coating
Ultra Micro Nikkor 165mm Sound of Lens Coating

初期型と後期型

発売当初の1970年12月版のセールスマニュアルを見ると、 この専用コンバージョンレンズが装着されていない写真が掲載されている。
また、初期のレンズの収納木箱は、 コンバージョンレンズを外した状態、 つまりレンズ単体で収納できるように設計されている。
このことから、初期型のウルトラマイクロニッコール165mm F4は、 レンズ単体で販売されていたと推測する。
初期型の製造番号は、No. 1500XXである。

後期型は、コンバージョンレンズとセットになって販売された。
1973年6月版のセールスマニュアルでは、コンバージョンレンズを装着した ウルトラマイクロニッコール165mm F4が掲載されている。
後期型の製造番号は、No. 1600XXである。
どちらも数十本程度しか製造されなかったと思える。

性能面で見てみよう。
初期型の基準倍率は1/40Xだ。 原図を1.6メートルないし2.2メートル角まで大きくとれる。
基準倍率が1/40X、つまり縮小率が大きいということは、原図が大きくてもよいことになる。
原図が大きいということは、原図に要求される精度がゆるめられる。
複雑、微細化したパターンが容易にかつ正確に作れるというメリットがあり、 できあがる原板の精度も高い。

しかし、従来の装置のレンズだけを交換して、 より高性能な使い方をしたいという要求が出たのだろう。 後期型は、コンバージョンレンズを装着することで基準倍率1/20Xとなり、 作動距離が135mm F4とほぼ同じになる。
レンズのみを交換し、装置は継続して使用可能としたことを、 当時はセールスポイントとしていたことがうかがえる。

ネジマウントに広がる撮影フィールド

大型レンズだけに、35ミリ一眼レフだけで使うのも役者を活かせない。
ここはスウェーデンの銘機ハッセルブラド(ハッスルとかハッシーと言う方もいる)にセットして、 自然界で活躍してもらいたい。
165ミリ超マクロレンズだから、高山植物の生態系から、 森林に眠る木の葉に光線、南極は永久に冷たい氷雪の、 炎天下に赤いスイカの表面観測写真もよいと思う。
その前に、レンズ取付け用のアダプタが必要である。
82mm P=1.0のネジマウントだから、しかるべきプロにまかせればマウント加工は可能だ。
どんなカメラに取り付けるか、 そういう悩みは悩みのうちにはいらない。

Ultra Micro Nikkor 165mm F4 Optical Engine
Ultra Micro Nikkor 165mm F4 Optical Engine

レンズの皇帝

皇帝のレンズなのか、レンズの皇帝なのか。
大型ウルトラマイクロニッコールは、その存在感で、あたりを圧倒する。
重量級レンズにありがちな、ただ大きいだけというのでもない。
レンズのコーティングを見ればわかるが、華がある。
ほとんど手作りに近い砲金の鏡胴。
エレガントな漆黒塗装。
精緻な彫刻文字。
オーバースペックなコンバージョンレンズとのバランス。
そして、優雅な姿。
最後の皇帝だとしたら、それはそれで説明がつく。

岡倉天心とフェノロサが夢殿に足を踏み入れた時、 封印された千四百年の時空を超えて現れたのは救世観音だつた。
そのとき正倉院には、ウルトラマイクロニッコール165mm F4 が収められていたことを知る者はいない。 それがじじつかどうかは、デービッド・ドイチュの 量子コンピュータを超並列結合しなくても考えられる話であって、 宇宙の時間概念からすれば、それはまばたきのような誤差の範囲なのだから。
ムーアの法則が終焉を迎えたとしても、レンズの皇帝、 ウルトラマイクロニッコール165mm F4 を凌駕するレンズは現れないだろう。

Ultra Micro Nikkor 165mm F4 Living for Today
Ultra Micro Nikkor 165mm F4 Living for Today

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Copyright Akiyama Michio, Tokyo Japan 2004