22.狭義の共犯 22−1 教唆犯      61条 人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する。 教唆者を教唆した者についても、前項と同様とする。    64条 拘留又は科料のみに処すべき罪の教唆者及び従犯は、特別の規定がなければ、罰しない。 1.意義   教唆犯‥他人を教唆して犯罪を実行させること 2.成立要件  (1)人を教唆すること  教唆…他人を唆して犯罪を実行する決意を生じさせること。   @教唆の故意    *教唆犯の故意としていかなる範囲の事実についての認識が必要か。    *教唆犯の故意の内容として法益侵害の認識が必要か、被教唆者が決意することまでの認識で足りるか。     →通説)法益侵害の認識まで必要である。    r.刑法の目的が法益保護にあることから、共犯の処罰根拠は正犯を通じて間接的に法益侵害の結果を惹起         するところにある。とすると、法益侵害についての認識を必要とする。    *教唆犯の故意の内容として結果発生の認識まで必要か、被教唆者が実行行為に出ることまでの認識で足りるか。     →厳格説)自己の教唆行為によって被教唆者が基本的構成要件を実現すること(結果)の認識まで必要である。     r.共犯の最終的な結果惹起と無関係に可罰性を考えるべきではなく、この視点からすれば単独犯の場合          と同様の認識が必要である。     c.被教唆者が実行行為に出ることを認識してなされた教唆行為を不可罰とするのは不合理である。  緩和説)自己の教唆行為によって被教唆者が特定の犯罪を実行することを決意し、その実行行為に出ることを          認識することで足りる。     r.教唆行為は、基本的構成要件に該当する実行行為ではなく、修正された教唆犯の構成要件に該当する          行為、則ち他人に対して違法行為を行なわせる行為であるから、教唆犯の故意も、基本的構成要件の  全内容にまで及ぶ必要はなく、被教唆者が実行行為に出ることを認識していれば足りる。   A教唆行為→ある程度の具体性を必要とする。  (2)被教唆者が犯罪を実行したこと  共犯従属性説から。    教唆行為と被教唆者の実行行為との間には因果関係が必要である。 3.諸類型  (1)間接教唆…教唆者を教唆した場合   *再間接教唆(連鎖的教唆)を教唆犯として認めるべきか。B    →否定説(団藤)r.連鎖的教唆における因果性は極めて弱く間接的に過ぎる。  61条2項にいう教唆者とは、同条1項の教唆者、則ち正犯者の直接の教唆者を意味する。 肯定説(通判)r.教唆行為は正犯者に犯罪の実行を決意させる点にその可罰性が認められるのであるから、  連鎖的教唆もその行為と正犯の犯罪行為との間に相当な因果関係がある以上処罰に値する。  教唆者を教唆した者も教唆者に他ならない。  (2)従犯の教唆   「従犯を教唆した者には、従犯の刑を科する」(62条2項)  (3)独立教唆犯   …教唆行為が行なわれた以上、被教唆者が犯罪の実行を決意したか、現実に犯罪を実行したかとは関係なく犯罪と    なる行為。ex.破防法38条以下、爆発物取締罰則4条等 4.教唆犯の成否に関する諸問題 4.教唆犯の成否に関する諸問題  (1)未遂の教唆…教唆者が、被教唆者の実行行為を初めから未遂に終わらせる意思で教唆する場合 実行行為まで出ていることが必要。不能犯に終わらせる意思ならば教唆犯成立しない。 ex.甲が、Aのポケットに何も入っていないことを知りつつ、乙に対して、Aのポケットから財物をスリとることを教唆し、       乙は実際にスリ行為に及んだ場合   教唆の未遂…教唆行為は行なわれたが、正犯者が実行の着手に至らなかった場合 従属性説からは不可罰  {未遂犯の教唆…教唆行為は行なわれて、正犯者が実行に着手したが、既遂に至らなかった場合。   *未遂の教唆の場合、教唆犯が成立するか。A    →緩和説‥被教唆者をして実行の着手に至らせることを認識している以上は教唆の故意に欠けることはなく、未         遂の教唆は可罰的である。 厳格説‥教唆者には結果の認識はなく、未遂の教唆は不可罰である。(前田)   *未遂の教唆の場合に、教唆者の予期に反して結果が発生したとき、どのように処理するか。    →大谷)甲に殺人未遂罪の教唆を認める見解   r.殺人未遂の故意で殺人既遂罪の結果を生じさせたのであるから事実の錯誤があり、両者は法定的に重な        り合うから刑法38条2項により重い殺人罪についての教唆犯の成立を認めることはできず殺人未遂罪の        教唆犯が成立する。   c.教唆犯の故意の内容として実行行為が出ることで足りるとする以上、錯誤はないはずである。   cc.教唆の故意は未遂犯の教唆の罪責を問うためには、被教唆者の実行行為を生じさせることの認識で足        りるが、既遂犯の教唆の罪責を問うためには、結果の認識まで必要であり、未遂犯の教唆と既遂犯の     教唆では故意の内容が違うことを前提とする。  (2)過失による教唆   …不注意によって他人に対し犯罪の実行を決意させること。 甲が、熱心な右翼活動家である乙に対して、Aのこ    とを「売国奴」であると罵り、不注意にも乙のAに対する殺意を惹起してしまった場合。   *過失による教唆は認められるか。B    →不可罰説(通説)r.教唆をもって他人に特定の「犯罪」を実行する決意を生じさせることをいうと解すると   きは、過失による教唆の観念を認めえない。(犯罪共同説)   教唆とは、そもそも故意による場合を想定している。定型性と危険性が微弱である。   過失を罰するためにはその旨の特別規定を要する(38条2項)が、現行法上過失によ   る教唆を処罰する規定はない。  (3)過失犯に対する教唆   …他人の不注意を惹起して過失犯を実行させること。 医師甲が看護婦乙に対して注射液についての十分な検査を    怠るよう促し、患者に誤って毒物を注射させ死亡させた場合。   *過失犯に対する教唆は認められるか。B    →教唆犯説 r.過失行為も違法行為である以上、制限従属性説による限り、違法な過失行為を唆す行為は過失   犯である。  c.制限従属性説の理解としては教唆犯が成立するためには少なくとも正犯が構成要件に該当して   違法な行為を実行しなければならないという消極的な形で把握すべきであって、直接の実行者    が違法に構成要件該当行為を行なえばこれに関与した者が全て教唆犯になるという積極的な意   味で理解すべきではない。 間接正犯説(通説)r.教唆行為の本質が他人をして犯罪の実行を決意させることにある。過失犯には事実の   認識がないので規範的障害とはなりえず、従ってこれを唆す行為は間接正犯となる。  (4)不作為による教唆   …不作為によって、教唆犯を実現すること。 乙が甲に傷害の教唆のつもりで「やってしまえ」といったところ、    甲が殺人の教唆だと思い、そのことを後から知った乙が訂正しなかったので甲が殺人を犯した場合。   *不作為による教唆は認められるか。D    →通説)否定。r.不作為で他人に精神的に働きかけることは教唆犯として予定されていない。  (5)不作為犯に対する教唆   …教唆行為によって不作為犯の実行を決意させること。 甲は、幼児が溺れかかっているときに、その母親乙を唆    して幼児を溺死させた場合。   *不作為犯に対する教唆は認められるか。     →教唆説(通説)r.不作為犯に対しても犯罪の実行の決意を生ぜしめることは可能である。 65条1項説(大谷):不作為犯は作為義務を有する者について成立する真正身分犯である。   c.作為義務の有無の判断は構成要件該当性の問題であり特別の身分犯は構成しない。  (6)共同教唆   …2人以上の者が共同して教唆行為を行ない、他人に犯罪を実行させること。   *共謀共同教唆は認められるか。教唆の共謀者のうち教唆行為を実際は行なわなかった者の罪責。     →共謀共同教唆犯説(判例)r.教唆行為が共謀者間の相互利用補充関係のもとに行なわれたと解すべきである   以上は、これを共謀者全員が共同して実現したものであると捉えるべきである。 間接教唆説(団塚)r.正犯行為と教唆行為は峻別すべきであるから、共同正犯に関する規定である60条を    拡張して共謀共同教唆犯の観念を認めるのは妥当でない。  (7)片面的教唆   …教唆者が教唆行為を行なったところ、被教唆者はその教唆行為があることを知らずに犯罪の実行を決意した場合。   *片面的教唆は認められるか。     →通説)肯定。r.教唆行為は教唆の故意に基づき教唆行為を行ない、それによって犯罪の実行を決意させれば     足り、被教唆者が教唆されていることを認識する必要はない。  (8)予備・陰謀罪に対する教唆   …正犯の既遂、未遂または予備・陰謀を教唆したところ、被教唆者の行為が予備・陰謀の段階にとどまった場合   *予備・陰謀罪に対する教唆は認められるか。D    →通説)肯定。r.予備・陰謀も構成要件化されており実行行為を観念でき、「実行させた」の「実行」には予     備・陰謀も含まれる。  (9)結果的加重犯に対する教唆   …基本的犯罪を教唆したところ被教唆者が重い結果を発生させた場合。 傷害を教唆したところ、被教唆者が被害者を傷害の結果、死にいたらしめた場合。   *結果的加重犯に対する教唆は認められるか。A    →イ)基本的犯罪と重い結果との間の過失を不要とする立場  ‥重い結果が発生した以上その間に条件関係(判例)・相当因果関係(藤木)が認められれば結果的加重犯   の教唆犯が成立する。 ロ)基本的犯罪と重い結果との間の過失を必要とする立場   団藤)過失犯に対する教唆を否定する以上結果的加重犯に対する教唆も否定すべき、とする。   大塚・大谷)結果的加重犯の性格から肯定する。則ち、基本的犯罪について教唆している以上、教唆者は     重い結果の発生について特別の注意義務を課されてしかるべきであり、重い結果が不可抗力 ないし偶然によって生じたのでない限り肯定する。 22−2 従犯(幇助犯)      62条 正犯を幇助した者は、従犯とする。 従犯を教唆した者には、従犯の刑を科する。    63条 従犯の刑は、正犯の刑を減軽する。    64条 拘留又は科料のみに処すべき罪の教唆者及び従犯は、特別の規定がなければ、罰しない。 1.意義  ‐幇助…既に犯罪を実行する意思を有する者(正犯)の実行を容易にする一切の行為。 2.成立要件  (1)正犯を幇助すること…構成要件に該当する実行行為以外の方法によって、正犯者の実行行為を容易にすること。    主観面−従犯の故意 →緩和説・厳格説の争い。    客観面−幇助行為  有形的・物理的幇助/無形的・精神的幇助  (2)被幇助者が犯罪を実行したこと   *幇助行為と正犯の実行行為との間に因果関係は必要か。 甲が乙の刺殺を幇助する意思でナイフを貸与したが、    乙は刺殺を実行せずにピストルで殺害した場合において、甲に幇助罪が成立するか。A    →因果関係必要説   正犯結果説−正犯結果との間の因果関係を必要とする説  [背景]純粋惹起説    条件関係説:幇助行為と正犯の結果との間に因果関係(条件関係)を要する。  c.心理的幇助をほとんど処罰できなくなってしまう。    促進的因果関係説:幇助行為が正犯の法益侵害の危険を増加させたことを要する。   正犯行為説−正犯行為との間の因果関係を必要とする説  [背景]混合惹起説    条件関係説:正犯実行行為との間に因果関係(条件関係)を要する。    物理的心理的関係説(大谷):正犯の実行行為を物理的心理的に容易にすることをもって足りる。 r.現行法は「幇助した」と規定しているのに過ぎないから、幇助行為は正犯を援助しその実行行為   を容易にすれば足りる。幇助犯の性質上条件関係を要求すればその成立範囲は不当に狭くなる。 因果関係不要説:正犯行為およびその結果と幇助行為との因果関係は不要である。   *具体的検討    *警備員Bは店舗に侵入した窃盗犯人が自分の友人Aであることに気づき、Aに気づかれないようにそっとその     場を立ち去った場合。→物理的因果性が認められる。 3.諸類型  (1)間接従犯(教唆の幇助)…従犯を幇助すること   *間接従犯の可罰性は認められるか。B    →肯定説(通判)r.従犯の処罰根拠は、正犯の実行行為を容易にすることにあるから、そのような関係が認め  られる限り間接的に正犯の実行を容易にする場合も従犯として処罰しうる。  幇助行為も修正された構成要件に該当する行為であり62条1項の「正犯」に当たるので、      これに対する共犯も可能と解すべきである。 否定説(団塚)r.「正犯を幇助した」とは、実行行為をなす者を幇助することを意味し、従犯の幇助行為は  実行行為ではないから、これを幇助しても幇助犯とは生らない。  間接教唆のように明文の規定がない。  (2)再間接従犯‥間接従犯を幇助すること   *再間接従犯は認められるか。D    →間接従犯否定説‥否定。 間接従犯肯定説‥肯定が筋だが、従犯の不定型性と正犯との関係の不明確性から原則として否定する。  (3)教唆犯の従犯…教唆行為を幇助して、その遂行を容易にすること。   *教唆犯の従犯は認められるか。D    →肯定説 r.「正犯の実行を幇助」にいう「正犯」には修正された構成要件に該当する行為も含むと解する。 否定説 r.教唆犯は実行行為を行なうものでない。明文の規定がない。 4.従犯の成否に関する諸問題  (1)未遂の従犯…幇助者が正犯の実行行為が未遂に終わることを認識して幇助行為を行なうこと。 未遂の教唆と同様。  (2)過失による従犯…注意義務に違反して正犯の実行を容易にする行為を行なうこと。    甲が、殺人を決意している乙に対して、不注意で毒物を販売してしまった場合。   *過失による従犯は認められるか。     →通説)否定。r.過失犯を処罰するには特別規定が必要である(38条1項)。過って犯行を容易にすること     を含めると処罰範囲が不当に広くなる。  (3)過失犯に対する従犯    …正犯者が注意義務に違反する行為を行なっていることを認識しながら結果の発生を容易にする行為を行なうこと。     自動車の運転手乙が居眠り運転をしている際、助手席に同情していた甲が、危険を感じながらそのまま放置し、 人身事故を起こした場合。   *過失犯に対する従犯が認められるか。    →肯定説(大谷)r.過失行為を外部から容易にすることは物理的にも精神的にも可能である。 否定説(前田)r.過失犯の結果発生に寄与した幇助行為は当該行為者に注意義務違反が存在する場合に過失  犯として処罰すれば足りる。  (4)不作為による従犯…不作為によって従犯を犯す場合。   *不作為による従犯は認められるか。    →通説)肯定。r.「正犯の犯行を容易にした」ということはありえる。また、不作為的関与が全て正犯となる わけではなく、正犯とまで認められない作為義務違反を従犯として認める余地はある。 修正されているとはいえ構成要件該当性の問題であり作為義務は必要である。   *不作為による正犯と従犯の区別はいかに解すべきか(判断基準)。    →対説)作為義務の内容で区別する。c.作為義務の問題は正犯にも従犯にも当てはまる。 自説)正犯と共犯は法益侵害に直接的に関与したか、間接的に関与したかで決するのが妥当であり、 結果が発生するのをただ見てみぬ振りをしていた場合は不作為による正犯、 他人が結果を発生させようとするのをただ見てみぬ振りをしていた場合は不作為による従犯となる。  (5)不作為犯に対する従犯…幇助行為によって不作為犯の実行を容易にする場合。→通説)認められる。  (6)共同従犯 共同教唆・共謀共同教唆と同様。  (7)片面的従犯…幇助者が意思の連絡なしに幇助の故意で一方的に正犯の実行行為に加担し幇助行為を行なったが、           被幇助者はその幇助行為があることを知らずに犯罪を実行する場合   *片面的従犯は認められるか。    →通説)物理的幇助は認められる(片面的教唆と同様)が、心理的幇助は認められない。   r.共犯の処罰根拠論から片面的従犯であっても物理的幇助の場合「世に違法を作った」といいうる。62条1        項には「共同して」などという文言はない。  (8)承継的従犯 承継的共同正犯と同様。  (9)予備・陰謀罪に対する従犯 予備・陰謀罪に対する教唆と同様。但し、非定型性から否定する余地もある。 5.共同正犯・教唆犯と従犯との区別  *共同正犯と従犯をいかに区別するか。 見張り   →対説)主観説:行為者が自己のために行為するか他人のために加担する意思で行為するかによって区別する。  c.他人の命令により他人のために殺人を行なった場合、実効者は幇助犯、命令者が正犯という結論になるが、       これは不合理である。    通説)原則として@実行行為の分担の有無で判断すべきである。r.構成要件論から。   但しA法益侵害に直接的に関与した場合、即ち実質的に犯罪の完成にとって重要な役割を果たした場合に         は、形式的な実行行為を行なっていなくても共同正犯となる。r.刑法の目的は法益保護にある。 B客観的に実行行為の分担を行なっても主観面が明らかに幇助的意思に留まる場合には幇助犯が成立         する。r.実行行為は主観と客観の統合体である。