4−4 詐欺罪   1.概説   保護法益−個人の財産   *欺罔手段による不正受給行為など、国家的法益に向けられた詐欺的行為は詐欺罪を構成するか。    →否定説(団塚)r.国家的法益に向けられた行為は詐欺罪を構成しない。 肯定説(通判):国家的法益を侵害する場合でも、それが同時に詐欺罪の保護法益である財産的利益を侵害す     るものである場合には、詐欺罪は成立する。   *民事上保護されない利益を侵害した場合に詐欺罪は成立するか。    *詐欺行為によって不法原因給付がなされる場合。D →通説)詐欺罪が成立する。r.依頼者は欺罔されなければ財物を交付しなかったという関係にあるから、欺    罔行為が向けられる前の段階の所持はなんら違法ではない。(占有説)    *詐欺行為によって民事上請求できない債務を免れる場合。 →通説)詐欺罪は不成立。r.明らかに公序良俗に反する契約に基づく債務の刑法上の要保護性はかなり低い。 2.詐欺罪    246条  人を欺いて財物を交付させたものは、10年以下の懲役に処する。    250条 この章の罪の未遂は、罰する。  (1)客体−他人の占有する他人の財物  (2)行為−人を欺いて財物を交付させること(騙取)    @欺罔行為    イ)態様…相手方の処分行為(交付)に向けられたものである必要がある。    ロ)程度…具体的状況において経験則上一般に人を錯誤に陥らせ、相手方をして行為者の意図する財産上の処分     行為をさせる性質のものであること要する。    ハ)相手方…事実上又は法律上被害財産の処分をなしうる権限ないし地位を有する者でなければならない。  被欺罔者と交付者(処分行為者)は通常一致する。   A錯誤 ※これがない場合は未遂に留まる。    *機械は錯誤に陥るか。ex.自販機に偽造通貨を挿入して商品を奪取する行為は詐欺罪を構成するか。 →通説)詐欺罪とならない。窃盗罪である。r.詐欺罪は人の錯誤を利用する犯罪である。   B処分行為に基づく財物の交付    ‥相手方が錯誤に基づいて処分行為をすることにより行為者側が財物の占有を取得すること。 cf.窃盗罪との違い。窃盗罪においては相手方の処分行為は不要である。    cf.処分行為があるとされる(よって窃盗罪でなく詐欺罪が成立する)事例  自動車の試乗のため一定時間の単独走行をさせる行為  r.従業員が添乗しておらず、ガソリンを補給することも可能であり、またルートを外れた場合に自動車の       発見が容易でないことから車の占有は試乗を許した時点で終局的に移転したものといえる。    cf.処分行為がないとされる(よって詐欺罪が成立しない)事例  洋服の試着を許された者が店員の隙をみて逃走する行為    イ)処分する行為‥事実上財産的損失を生じさせる行為であれば足りる。    ロ)処分する意思‥事実上財産的損失を生じさせる認識。    ハ)処分権限   C財物の移転→既遂  (3)財産的損害   *詐欺罪成立のための財産的損害としていかなる内容を要求すべきか。    →個別財産説(通判):財物の取得に当たって相当対価を支払ったとしても詐欺罪は成立する。   r.窃盗・強盗罪と同様である。  (4)未遂・既遂  着手時期‥欺罔行為開始時 /既遂時期‥財物の移転時  (5)違法性阻却事由   @談合入札 *談合入札は入札施行者に対する関係で詐欺罪となるか。  →通判)詐欺罪不成立。r.一種の取り引き上の駆け引きである。   A権利行使と詐欺罪    *他人の占有する自己のものを欺罔手段を用いて取り戻す行為は詐欺罪に当たるか。 →本権説‥詐欺罪は成立しない。  占有説‥詐欺罪は成立する。違法性阻却事由が問題となる。  平穏占有説‥直後の場合は詐欺罪は成立しない。 3.詐欺利得罪(2項詐欺罪)    246条  前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。    250条 この章の罪の未遂は、罰する。  (1)客体−財産上不法の利益  (2)行為−人を欺いて財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させること。   @欺罔行為   A錯誤   B処分行為    ‥他人を欺罔して錯誤に陥れた結果、被欺罔者をして処分行為をさせ、それによって行為者又は第三者が財産上     の利益を得ること。    *処分行為の態様−不作為の場合。ex.宿泊客が代金を踏み倒す意思で、「一寸散歩に出てくる」と言って外出     するのを旅館主が見送った場合には、2項詐欺罪は成立するか。A →判例)債権者に債務免除の意思表示をさせることが必要であり事実上支払いをしなかっただけでは足りない。     この場合には利益移転の意思表示がなく、2項詐欺罪は成立しない。 c.本件のような処分意思を要求したがゆえに生ずる処罰の間隙を放置しておくことは許されない。  通説)自己の行なう当該不作為により、財産上の利益が行為者又は第三者に事実上移転するという自体にあ     ることについての一般的な認識があれば、無意識的な不作為による処分意思が認められる。 この場合には無意識的な利益移転の処分意思があり、2項詐欺罪は成立する。   C利益の取得 4.詐欺罪の諸類型  (1)釣銭詐欺    余分の釣銭であることを認識しながら、そのまま黙って受け取る場合。    →不作為による欺罔行為、錯誤、処分行為、財物の移転、故意があるから、1項詐欺罪成立。    余分の釣銭を受け取った後にそれに気づいたが、そのまま返還しない場合。    →故意がないから1項詐欺罪は不成立。処分行為に向けられた欺罔行為がないから2項詐欺罪も不成立。    余分の釣銭について返還の要求があったにもかかわらず行為者がその旨を否定し返還を免れた場合。    →欺罔行為があり、無意識的な不作為による処分行為があるから2項詐欺罪成立。  (2)過誤預金   →通説)窓口で引き出した段階で銀行に対する欺罔行為があり、1項詐欺罪が成立。 ―――――――――――  ※銀行預金関連問題  (1)金銭の交付を銀行振込により得た場合   *欺いて又は恐喝して金銭を振り込ませた場合、1項詐欺・恐喝、2項詐欺・恐喝のいずれが成立するか。    →対説)預金債権という「財産上の利益」を取得するに過ぎず、2項詐欺・恐喝罪が成立する。 通説)「財物」を取得したといえ、1項詐欺・恐喝罪が成立する。   r.預金は通常自由に引き出すことができる以上、口座への入金によって事実上行為者の自由に処分しうる状態    におかれたといえる。   *払戻が不可能となり、払い戻せなかった場合、詐欺・恐喝罪が成立するか。    →通説)1項詐欺・恐喝罪説からは、預金債権はあるものの、財物の交付を受けたとは評価できず、未遂にとどまる。   キャッシュカードを盗み、銀行から金銭をCD機で引き出した場合   *カードを盗む行為について窃盗罪が成立するか。財物性の有無が問題となる。    →通説)肯定。r.カード自体は安価なプラスチック片に過ぎないが、暗証番号や口座番号等が電磁的に記録されてお    り、それをCD機に挿入することで預金払戻が可能となる点で預金通帳と同様の財物性を認めうる。   *さらに金銭をCD機で引き出す行為について窃盗罪が成立するか。 窓口で払戻を受けた場合‥詐欺罪    →対説)一連の行為は実質的に一つの法益侵害といえ、窃盗罪一罪が成立する。(現金の占有は預金者にある) 通説)銀行の金銭の占有に対して新たに窃盗罪が成立する。   r.カードを取得したとしても、CD機内の現金は銀行が管理しておりそのうちどの金員がカード名義人の物か    は特定していない。カードを得した段階では現金の事実上の占有者は銀行にある。  (2)誤振込を払い戻した場合   *誤振込された現金は被振込人と銀行のいずれに占有が属するか。被振込人にあるとしたら、占有離脱物横領罪、銀行    にあるとしたら窃盗罪又は詐欺罪が成立する。    →対説)被振込人に占有が属する。r.自己の口座に入金された金銭は被振込人において一応法律上有効に処分できる。 通説)銀行に占有が属する。   r.誤振込の場合は、被振込人に正当な払戻権限はない。(詐欺罪の成立が問題となる場合)銀行は振込依頼人と    受取人との間での事実上の紛争に巻き込まれる恐れがあり、告知義務を怠ったものといえ欺罔行為に当たる。   *窃盗罪と詐欺罪の区別    →窓口で払戻を受けた場合‥詐欺罪 /CD機で引き出した場合‥窃盗罪 ―――――――――――  (3)無銭飲食    犯意先行型→挙動による欺罔行為、錯誤、交付行為、財物の移転があるから1項詐欺罪が成立。    飲食先行型−偽計逃走型    →通説)外出を許すことは代金支払いの猶予という財産上の利益の移転をもたらす処分行為で、その利益の移転    に関して認識がある以上は処分意思も認められ、2項詐欺罪成立。    飲食先行型−単純逃走型→欺罔行為、錯誤、処分行為がなく、2項詐欺罪不成立。  (4)キセル乗車   *キセル乗車について詐欺罪が成立するか。    イ)乗車駅基準説=役務提供説(大谷) :不正乗車することを秘して乗車駅の改札を通過する行為を欺罔行為、輸送役務の提供という財産上の利益を  得たと考えて2項詐欺罪が成立、とする。 c. )無効かどうかは乗車券の客観的性質により決まるべきものであって、券面に表示された区間について     は有効と解すべきであり、欺罔行為はその時点では存在しない。    )輸送役務の提供者は乗務員であって、改札員だけを処分行為者と見ることは出来ない。    )電車が駅を発車した時点で既遂となるが、少なくとも券面上は有効な切符でありその時点に詐欺既遂     罪を認めることは出来ない。    ロ)下車駅基準説=債務免除説(前田) :不正乗車していたことを秘して下車駅の改札を通過する差異には乗り越しの申告義務と精算義務があるから  それを履行しないことは欺罔行為であり、錯誤に陥った改札員が途中区間の運賃支払いを請求しないという  不作為の処分行為をしており、運賃支払いの債務を不法に免れたと考え2項詐欺罪が成立、とする。  処分意思も無意識な不作為による処分行為を肯定するため認められる。    ハ)消極説(曽根)r.有人改札のみに詐欺罪の成立を認めるのは柵を飛び越える場合等と比べて均衡を失する。  (5)訴訟詐欺…虚偽の事実を主張して裁判所を欺罔し、その判決等に基づいて財物を騙取し、あるいは債務の免除          を受けるなどの行為。   →通説)被欺罔者・処分行為者は共に裁判所であり、その裁判に従わざるを得ない敗訴者が財物の交付者・被害者   であり、詐欺罪が成立する。  (6)クレジット・カード詐欺     …クレジット会員が代金支払いの意思も能力もないのに、自己名義のクレジット・カード  を利用して、加盟店から物品を購入する行為。 ――――――――  *クレジットカード詐欺    欺罔行為    →対説)否定。r.加盟店はカード自体の有効性と署名の同一性を確認すれば足り、従って不正使用において加盟店に    対する欺罔行為及び加盟店側の錯誤は存在しえない。 自説)加盟店に対する欺罔行為に当たる。   r.会員に代金支払の意思・能力がないことを加盟店が知っていれば信義則上当然にカード取引を停止しなけれ    ばならないから、これを騙しているといえる。 対説)信販会社に対する欺罔行為に当たる。   c.信販会社は加盟店から売上票の送付があった以上、名義人以外の者であると知っていても代金支払を拒否で    きないから、信販会社が欺罔されたとみるのは困難である。    錯誤→加盟店の錯誤    処分行為→加盟店による処分行為    財物の移転又は財産上の利益の取得    →対説)信販会社に立替払いさせて商品代金を免れた店で「財産上の利益」を得ており、2項詐欺罪が成立する。    (被害者は信販会社、客体は代金払い)   r.加盟店は財物を騙取されても信販会社から立替払いを受けられる以上、何ら財産的損害を被らない。 自説)商品の交付そのものが損害であり、財物を得ており、1項詐欺罪が成立する。   r.1項詐欺罪は個別財産に対する罪であるから、物の交付自体を損害と考えるべきである。商品に対する使用・        収益・処分といった所有権の事実的機能が害される。   大谷    藤木 芝原  山口  被欺罔者 加盟店    信販会社 加盟店  加盟店  処分者  加盟店    信販会社 加盟店  加盟店  理由   加盟店は支払の意思・能力がないの 信販会社は売上票を受け取って後日 加盟店は支払の意思・能力がないのにあるかのように装って加盟店にカー   にあるかのように装って加盟店にカ 会員によって支払われると誤信して ドを提示する行為によって欺罔されている。   ードを提示する行為によって欺罔さ 加盟店に立替払いをするのだから欺   れている。    罔されている。  批判   加盟店は客の支払の意思・能力につ 信販会社は欺かれたことを知ってい 加盟店は客の支払の意思・能力について関心がない。   いて関心がない。    ても立替払いをせざるを得ず、欺罔    され処分行為をしたとみるのは困難。  被害者  加盟店    信販会社 信販会社  信販会社  理由   加盟店は個別財産を騙取されており 実態上信販会社に損害が生じている。   損害がある。  批判   加盟店には立替払いされるため何ら 代金立替払いをしなければならない信販会社には錯誤に基づく処分行為があったとはいえず、被害者と被欺罔者   実質的損害は生じない。    とを別人とする三角詐欺のような法律構成は無理である。  被害対象 商品    代金債務 商品  代金債務  成立罪名 一項詐欺    二項詐欺 一項詐欺  二項詐欺  既遂時期 商品取得時    立替払い時 商品取得時  立替払い時  理由   加盟店を欺罔することにより加盟店 信販会社を欺罔することにより信販 加盟店を欺罔することにより加盟店 信販会社に立替払いをさせ、利益を   から商品を受け取った。    会社に立替払いをさせ利益を受けた。 から商品を受け取りそれにより商品 得た。 に化体した信販会社の財産を侵害。 ――――――――― 5.準詐欺罪    248条 未成年者の知慮浅薄又は人の心神耗弱に乗じて、その財物を交付させ、又は財産上不法の利益を得、     若しくは他人にこれを得させた者は、10年以下の懲役に処する。    250条 この章の罪の未遂は、罰する。 6.電子計算機使用詐欺罪    246条の2 前条に規定するもののほか、人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指   令を与えて財産権の得喪若しくは変更にかかる不実の電磁的記録を作り、又は財産権の得喪若し   くは変更にかかる虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して、財産上不法の利益を得、又は   他人にこれを得させた者は、10年以下の懲役に処する。    250条 この章の罪の未遂は、罰する。 4−5 恐喝罪   1.恐喝罪    249条  人を恐喝して財物を交付させたものは、10年以下の懲役に処する。    250条 この章の罪の未遂は、罰する。  (1)行為−人を恐喝して財物を交付させること   @恐喝行為   *恐喝とは→脅迫を手段とし、相手方の反抗を抑圧するに至らない程度に畏怖させ、財物の交付を要求すること。 適法行為でも害悪の告知に当たる。   A畏怖   B財物の交付(喝取)‥相手方が畏怖の基づいて処分行為をすることにより行為者側が財物の占有を取得すること。   C財物の移転  (2)未遂・既遂  着手時期‥恐喝行為を開始した時点 {既遂時期‥財物の移転時  (3)権利行使と恐喝罪   *自己の所有物を他人の占有から取り戻す際に、喝取の手段を用いた場合。    →本権説‥無罪または脅迫罪 占有説‥恐喝罪。但し、権利行使として違法性が阻却される可能性がある。 平穏占有説‥直後の場合は無罪又は脅迫罪、それ以外は恐喝罪。但し違法性阻却の可能性。   *債権者が債務者に対して弁済を受ける際に、喝取の手段を用いた場合。A    →脅迫罪説(曽根):手段が債権の行使として許される犯意を超えるときに脅迫罪を構成するに留まる。  r.財産上の損害はない。  c.個別的な財物・利益が侵害されたことが財産上の損害であり、それだけで財産的法益    の侵害は認めうる。権利の実行といえども合法的な手段でなされるべきである。 恐喝罪説(通判)r.物ないし利益に関する使用収益処分という財産権の事実的機能を害され財産上の損害が   発生したと認められる以上、恐喝罪として処罰しうる。    但し、 権利の範囲内で、 その方法が社会通念上是認されるような場合(社会的に相当)であれば、    権利行使として違法性が阻却される。    なお、客観的に権利が存在するか否かの判断が困難な場合、権利者が権利の存在を確信し、そう信じる    に付き相当な理由がある場合も、方法が社会通念上是認すべき場合であれば違法性は阻却される。 2.恐喝利得罪(2項恐喝罪)    249条  前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。    250条 この章の罪の未遂は、罰する。